会員専用サイトでのみ閲覧できる
TCC会報から選りすぐりの記事を
一般公開する「TCC会報出張所」。
過去に行なわれたトークショー
での対談など、コピーライターの
語る言葉をお楽しみください。

最新記事

《書籍紹介》日めくり「オペラ」 366日事典/新井巌 著

《書籍紹介》100万回シェアされるコピー/橋口幸生 著

《書籍紹介》顧客視点の企業戦略 -アンバサダープログラム的思考/藤崎実・徳力基彦 著

《書籍紹介》歌集『ケモノ道』/ 柿本希久 著

《対談》トークイベント「TCCことばみらい会議」第二夜・第4部

《書籍紹介》最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法/中村禎 著

《対談》トークイベント 「TCCことばみらい会議」 第二夜・第3部

《書籍紹介》ネーミング全史 商品名が主役に躍り出た / 岩永嘉弘 著

《書籍紹介》 降りてくる思考法 / 江上隆夫 著

《対談》トークイベント 「TCCことばみらい会議」 第一夜・第2部

《対談》トークイベント 「TCCことばみらい会議」 第一夜・第1部

《イベントのご紹介》 いとうとしこ著「売れるキャラクター戦略 "即死""ゾンビ化"させない」 刊行記念トークショー

TCCコピー年鑑2016発刊記念イベント 「おこしやす!TCC」

《書籍紹介》 売れるキャラクター戦略 "即死""ゾンビ化"させない / いとうとしこ 著

《イベントのご紹介》 大曲康之写真展2「農村と、山村。」

《書籍紹介》 待っていても、はじまらない。―潔く前に進め/阿部 広太郎 著

《イベントのご案内》 第3回柿本照夫作陶展「わがケモノ道」

ようこそ!2016年度新人賞のみなさん

《書籍紹介》仕事偏差値を68に上げよう / 松尾卓哉 著

《書籍紹介》ハフリ/山田光美 著

《書籍紹介》師の句を訪ねて―岡本眸その作品と軌跡/広渡詩乃

《書籍紹介》汽水―益岡茱萸句集/福本ゆみ

《書籍紹介》名作コピーの教え/鈴木康之 著

おこしやすTCCin ヒカリエ

《書籍紹介》言葉の処方箋 /竹内好美 著

《書籍紹介》 マイペースのススメェー/ 文:三井 明子

《書籍紹介》広告コピーってこう書くんだ! 相談室(袋とじつき) /谷山雅計著

こども広告教室を開催

《対談》TCC広告賞展2015 TCC TALK LIVE Vol.2 『尾形さんって、なに考えているんですか。』

《対談》TCC広告賞展2015 TCC TALK LIVE Vol.1 『たふてこ。(多田福里照井のコピー会議)』

《書籍紹介》さるすべりの花のように/島崎保彦著

2015年度、新人賞のみなさんから!

《対談》「西村さんを囲む夕べ」

眞木準さん(のお弟子さん)を囲む夕べ

C-1グランプリ100回記念特別企画を開催しました

《書籍紹介》可不可●西村佳也句集

《イベントのご案内》谷内六郎の絵と岩崎俊一のコピーで綴る昭和展 昭和というたからもの

《イベントのご案内》コピーライター 西村佳也「可不可展」

《イベントのご案内》あんましヤル気のない風景。大曲康之写真展

《書籍紹介》ここらで広告コピーの本当の話をします。/小霜和也

《書籍紹介》 大人の迷子たち/岩崎俊一

《対談》TCC広告賞展2014TCC TALK LIVE Vol.4 『澤本嘉光×多田琢 頂上対談!!』

《対談》TCC広告賞展2014 TCC TALK LIVE Vol.3 『ズバリ!困っている人のためのアイデアとプレゼンのはなし』

《対談》TCC広告賞展2014 TCC TALK LIVE Vol.2 『ちょっとだけ新世代』

《対談》TCC広告賞展2014 TCC TALK LIVE Vol.1

《書籍紹介》困っている人のためのアイデアとプレゼンの本

《書籍紹介》 魚住勉の一行の恋/魚住勉

《イベントのご案内》 歌謡曲集「枕草子」リリース記念コンサート

《書籍紹介》 コピーライター放浪記―All Around the World/木戸寛行

《対談》TCC広告賞2013トークイベント 第2回

コピーフェア トークショー 2013年度TCC賞 「いいコピーって、何だったんだろう?」

《書籍紹介》 電信柱の陰から見てるタイプの企画術/福里真一著

TCC広告賞展2013 トークイベント Vol.1 髙崎卓馬さん

《書籍紹介》 『ガラスのハートのきたえかた方』 竹内好美 著

《書籍紹介》 『土屋耕一のことばの遊び場。』 土屋耕一 著

《書籍紹介》 『言葉あそび入門』 多比羅孝

2012年度TCCホール・オブ・フェイム顕彰式(糸井重里氏スピーチ掲載)

《書籍紹介》 『あたまの地図帳』 下東史明

《書籍紹介》 『あしたは80パーセント晴れでしょう』 坂本和加

《書籍紹介》 『はるかかけら』 髙崎卓馬 著

《書籍紹介》 『表現の技術』 髙崎卓馬 著

《対談》 鈴木康之さんを囲む夕べ(3)

《対談》 鈴木康之さんを囲む夕べ(2)

《対談》 鈴木康之さんを囲む夕べ(1)

《対談》 TCC広告賞展2011 トークイベント第3回(2)

《対談》 TCC広告賞展2011 トークイベント第3回(1)

コピーフェア トークショー 2013年度TCC賞 「いいコピーって、何だったんだろう?」
2013.11.28
対談
DSCF5914.jpg
9月1日から代官山蔦屋書店で開催されたコピーフェアのイベントとして、TCC賞にまつわるトークショーが開催されました。出演者は、2013年の審査委員長である佐々木宏さんと、今年度2つのTCC賞を受賞された福里真一さん。本年度TCC賞の審査結果を踏まえ、「いいコピーって、何だったんだろう?」をテーマにお話しいただきました。




代官山蔦屋書店 コピーフェア トークショー
2013年度TCC賞 「いいコピーって、何だったんだろう?」
佐々木宏×福里真一

2013年9月10日(火) 19:00~21:00 蔦屋書店1号館 1階 総合インフォメーション

篠崎
宣伝会議で今年『コピー年鑑』の編集を担当させていただ
いている、ブレーン編集部の篠崎と申します。現在、蔦屋書
店さんで「コピーフェア」が開催されておりますが、まもなく
『コピー年鑑2013』が出版されることもありまして、審査委
員長を担当した佐々木宏さんと審査員でもあり、今年2つ
のTCC賞も受賞した福里真一さんをお招きして、今回の審
査や最近のコピーについてお話を伺いたいと思います。ど
うぞよろしくお願いします。

福里
今、篠崎さんがお話されたように、「東京コピーライターズク
ラブ」というコピーライターとCMプランナーの団体がありま
して、年に1回TCC賞を発表するんですね。その審査委員
長を毎年全会員の投票で決めるんですが、何年にもわたっ
て審査委員長に選ばれ続けていた仲畑貴志さんが疲れて
しまったのか、めんどくさくなったのかわかりませんが(笑)、
新しいルールが出来まして、一度審査委員長をやった人は
しばらくやらなくていいということになったんです。

で、今年、仲畑さんを除いた全会員の中から審査委員長を
決めることになったんですが、フタを開けてみたら、なぜか
佐々木さんが選ばれました。TCCって一行のコピーの巧さ
を競い合うようなところがあるんですけど、「ボス、のむ。」と
か「そこで、ボス。」とか「ダメ、ゼッタイ。」とか、佐々木さん
のコピーは決して巧いコピーではないので、TCCではあま
り評価されていないと思いきや、意外とそうではなかったん
ですね。(笑)というわけで、佐々木さんが審査委員長に就
任したところ、俄然張り切られて、いろいろな改革案を打ち
出された。まず発表したのが「いいコピーって何だったんだ
ろう」というテーマで、まずはその審査テーマを考えられた
経緯からお話いただければと思います。

佐々木
僕はもともとモノがつくりたいと思って、テレビ局に入りたか
ったんですね。でもその時募集がなくて、近い業種だと思っ
て電通という会社に入りました。ところが最初に配属された
のが新聞雑誌局というテレビと全然関係のない部署。仕事
は楽しかったんですけど、もともと何がやりたかったのかを
考えて、28歳でクリエーティブ局に転局しました。それで名
刺だけはコピーライターになったんです。当時光り輝いてい
たのが糸井重里さんと仲畑貴志さんで、そのふたりが生み
出すコピーが広告全体にすごい影響を与えて、かっこよか
った。そういう人になりたかったんですけど、あの人たちは
有名人で、こっちは遠く及ばないなりたてのコピーライター。
しかも28歳です。それでとにかくコピー年鑑を必死で読み
ました。最初は勉強のつもりだったのですが、読み始めた
らそれまでに読んだ本の中で2番目くらいにおもしろかった。
いちばんは圧倒的に「ドラえもん」で、これは譲れないんで
すけど、その次くらいに読むのが楽しかったんです。(笑)

その時思い出したのが、雑誌局で「ポパイ」や「ホットドッグ・
プレス」に広告を入れていた時のこと。表4っていう裏表紙
のページに「Jプレス」の広告が出ていました。電車で他の
人のことを考えずに、誰よりも先に座席を取ってしまう人と
か、マナーの悪い人のことをいっぱい挙げて、「そういう人
はJプレスを着ないでほしい」というコピーだけの原稿があ
ったんです。なんてかっこいい広告だろうと思って、衝撃を
受けましたね。誰がつくってるのか調べたらそれが糸井さ
んだったんです。僕はそれまでコピーライターって華やかな
一行のキャッチフレーズを書く人と思ってたんですけど、変
な本よりずっとかっこいいことを書く人がいると思って、広告
の言葉で人や世の中に影響を与える仕事ってやっぱりいい
なと思いました。

「あのコピーいいよね」っていうふうに、コピーの話題で盛り
上がる時代があったんです。ところが、それから何十年かし
て、グラフィックよりCMが世の中で話題になるようになって
きて、タレントやシリーズCMが広告の中心になってきまし
た。クライアントもそっちに関心を持つようになって、TCCに
もCMプランナーと呼ばれる人たちがたくさん入ってくるよう
になった。正直言うとその頃からTCCが斜陽になってきた
と思うんですね。会員はどんどん増えるけど、花形はCMプ
ランナーで、コピーを書く人の肩身がだんだん狭くなってき
て、新人賞を獲ってTCCの会員になるのが夢という人も減
ってきた。毎年グランプリを獲るのも福里君の「宇宙人ジョ
ーンズ」とか澤本君の「白戸家」のシリーズCMで、一応コ
ピーも入っているけど、評価されるのはやっぱり企画。僕も
CMを中心にやってるので、「コピーなくても大丈夫かな」な
んて平気で言う人になってたし、「TCCって必要かなあ」み
たいなことを言ってたりもしてたんです。

それがある時、1983年の年鑑をちょっと開いたら、魚住勉
さんの「水がある、氷がある。」と小野田隆雄さんの「夏ダカ
ラ、コウナッタ。」、この2つが最高賞を獲ってたんです。両
方ともCMがすごくかっこよくて話題になりましたけど、キャ
ッチフレーズもめちゃくちゃかっこよくて、CMでもキャッチフ
レーズが目立っている時代があったことを思い出したんで
すね。それでさらにページをめくって驚いたのは特別賞。
「おいしい生活。」という、今でもコピーライター同士でベスト
コピーを選ぶと必ず1位になるコピーがその時最高賞を獲
れないで、特別賞だったんです。その時代のキャッチフレー
ズがかっこいいのは広告のど真ん中にあるからなんですね。
なんで今はそうじゃなくなっちゃったのかと考えてみると、じ
つは福里君も澤本君も立派な名コピーライターなんじゃな
いかと思ったんです。世の中からは企画をする人と見られ
ているけど、宇宙人ジョーンズのCMには「このろくでもな
い、すばらしき地球。」っていうコピーも入ってます。


 DSCF5900.jpg


篠崎
「地球」じゃないです。「世界」です。(笑)

佐々木
素晴らしいコピーのわりには忘れちゃいました。(笑)ナレー
ションで読んではいないものの、CMにはいつも入ってます。
「ろくでもない」というのは失礼な言葉なんだけど、「すばらし
き」って持ち上げている絶妙さがコピーとしてやっぱり素晴
らしいと思います。澤本君をソフトバンクに引き入れた時に
彼が企画の中にちらっと書いていたのが「予想外」という言
葉で、この「予想外」という言葉が予想外な家族である「白
戸家」を生み出しました。それと、澤本君とはソフトバンクの
前にKDDIをやっていたんですけど、その時彼が考えたの
が泥棒役のトヨエツを警官役の柳ユーレイが追いかけてる
という企画で、そこで「伝わってる?」というコピーを書いた。
僕は今までの通信会社のコピーの中でこれほど素晴らしい
ものはないんじゃないかと思うくらい好きなコピーなんですね。

そんなふうに、ふたりからさりげなくすごいコピーをもらって
いたことを思い出して、TCCの選び方にも問題があるんじ
ゃないかと思いました。福里君だと宇宙人ジョーンズのシリ
ーズで獲った人とか、澤本君だと白戸家のシリーズで獲っ
た人とか、そういうふうに企画で賞を獲ったと思われちゃう
んですけど、じつはそんなことはなくて、いいコピーもいっぱ
い書いていると思うんです。

だから「○○のシリーズで受賞」という発表の仕方が悪いん
ですね。そこで今回は「トヨタのReBORNは『バカヤロー』と
いう言葉で受賞した」という形で発表しました。この言葉は
「ReBORN」を始める時に、福里君から、いつかは海に向
かって「バカヤロー」と言わせたいという提案があって、それ
が今回実現したわけなんですけど、審査員の中でも「バカ
ヤロー」という言葉が良かったという意見が多かったんですね。
シリーズ広告の中でもどの言葉がいちばん刺さったかを探
して、その言葉がTCC賞を受賞したと発表することで、
TCC賞がACCともADCとも違う賞になっていく。キャッチ
フレーズで評価するのがTCCという、時代が変わっても変
わらない評価軸をつくろうと思ったんですね。そういうわけ
で「いいコピーって何だったんだろう」と自分で改めて思って、
CMプランナーもいいコピーを書いたコピーライターとして、
「この言葉に賞をあげました」というプレゼンテーションにし
たいと思ったんです。

福里
「おいしい生活。」って伝説のコピーですけど、若い方たち
はまだ生まれていない時代のコピーだったりして、なんです
ごいのか、意外とわからない人も多いと思うんですよね。何
がすごかったんですか?

佐々木
僕が自分で勝手に代表作と呼んでいる「ニューヨークへ、行
こう。」というコピーがあるんですけど、これはニューヨーク
の9.11の直後につくった広告です。当時そんなことを言う
のは相当勇気が要りましたけど、全日空は通してくれまし
た。でも当時の時代背景を知らない人が今そのコピーを見
ると「ニューヨークへ、行こう。」なんて何の工夫もないただ
の観光コピーと思うでしょうね。自分では最高傑作だと思っ
ていて、あれで最高賞を獲れなかったのが今でもすごく不
愉快なんですけど。(笑)

それと同じように、今だと「おいしい生活。」なんてありがち
なコピーで、たとえばどこかのスーパーに「おいしい生活。」
って書いてあったら、おいしいものがいっぱいのライフスタ
イルみたいな感じで、すごくダサく見えると思うんですね。で
も当時はそんな価値観がなかったんですよ。生活っていう
のは「楽しい」とか「幸せな」とか「苦しい」とかの形容詞がつ
く言葉で、おいしいっていうのは「おいしいバナナ」とか「食
べておいしい」みたいに使っていた。だから、「おいしい」と
「生活」の組み合わせは相当ハイブリッドで、最初に見た時
は度肝を抜かれました。

福里
それはもう見た瞬間に「おっ」と思ったんですか。

佐々木
最初に見たのは新聞じゃなくてウッディ・アレンが出てくる
CMで、ウッディ・アレンが出てくることがまず衝撃的だった
んです。演出はたしか川崎徹さんだったと思いますけど、ウ
ッディ・アレンがジャケットの内ポケットから紙を出すと、そこ
に「おいしい生活。」って書いてあるんですね。それを見た
時に「何を言っているんだ?おいしいと生活は合わないだ
ろう」と思ったことを覚えてます。でもそのあとすぐに「そうか
もしれない。これからはそういう時代かもしれないな」と思い
ました。

あとは西武百貨店というのが重要で、今も池袋に西武百貨
店はありますけど、当時池袋って微妙な街で、僕にとっては
都会なんですけど、東京の人からはちょっと馬鹿にされて
たんですね。ですから、池袋にある西武百貨店というのもな
かなか微妙な百貨店だったわけです。それが、糸井さんが
出てきたことで西武百貨店だけじゃなくて、池袋のイメージ
もよくなった。それくらい影響がありました。最初は「不思議、
大好き。」というコピーで、これもかっこよかったですね。そ
れまでのコピーはもっとわかりやすくて、なるほどと思わせ
るものが多かったんですけど、「不思議が好き」ってよくわ
からない。よくわからないけど、その中にいろんなものが隠
れている。そういう百貨店って魅力的だなと思いました。そ
のあとですね、「おいしい生活。」が出てきたのは。時代の
寵児である糸井さんが書いてる西武百貨店はすべてがか
っこよかったし、今まで恥じていた池袋にもだんだんプライ
ドが持てるようになった。とにかく、その時まで「生活」の上
に「おいしい」をつけるってのはなかったと思いますよ。

福里
やっぱり「おいしい生活。」のあとからなんじゃないでしょう
かね。「この仕事おいしいね」とか「あそこでツッコんでもらっ
ておいしかった」みたいに、「おいしい」って言葉の意味が拡
大していったのは。

あと、その頃って広告がコピーで呼ばれていたと思うんです
ね。先ほど「ニューヨークへ、行こう。」の話が出ましたけど、
「そうだ 京都、行こう。」というのも佐々木さんがやられてい
ますよね。よく考えると京都へ行こうと言ったり、ニューヨー
クへ行こうと言ったり、似たようなことばかり言ってますが。
(笑)「そうだ 京都、行こう。」もコピーで呼ばれている広告
という意味で、すごいなと思うんですね。噂で聞いたのはプ
ランナーの方が「そうだ 京都へ行こう。」って言ったのを、
佐々木さんが最後に「へ」を取ったと。それがすごいんだと
佐々木さんが自分で言っていたような記憶があるんですけ
ど。(笑)

佐々木
「そうだ 京都、行こう。」はもともと博報堂の谷山チームと
の大競合プレゼンだったんですね。JR東海といえば「エク
スプレスキャンペーン」というすごいキャンペーンがあって、
若い人がみんな大好きで、国鉄から民営化したJR東海を
いきなり就職ランキングのナンバー1に押し上げちゃうくら
いすごいキャンペーンだったんです。で、「クリスマスエクス
プレス」で盛り上がったあとにJR東海のいろんな仕事をき
ちっと広告していこうということになって、電通も博報堂もた
くさんの案を提案しました。結局電通が勝ったんですけど、
いろんな仕事を広告しなくていいから京都だけやってくれれ
ばいいという結果だったんです。しかも余計なことをしない
で京都をただ紹介するだけでいいみたいな返事で。そんな
ことを言われると冗談じゃないよって怒るのがふつうですが、
僕はあまのじゃくなので、もっともだなと思ってしまった。僕
のチームで出したのは相当おもしろい企画でしたけど、京
都ってみんな好きで行くところだから、余計なことしないで
絵葉書みたいなものをやるのがいいし、最高の絵葉書をつ
くろうと考え直したんですね。

その時僕はCDでしたがコピーライターでもあったので「い
ま、京都にいます。」というコピーを最初に書いたんですね。
自分ではけっこういいなと思ってみんなに見せたら、安西俊
夫さんという僕の大尊敬するCMプランナーに「ふふん」っ
て笑われたんです。「コピーライターってすぐこういうの書い
ちゃうよね」みたいに馬鹿にされて、「きれいな映像見せて
『京都へ行こう』って言えばいいんだよ」って。そう言われて、
「いま、京都にいます。」なんて薄気味悪いコピーより、見た
人が京都に行こうと思うコピーの方が全然いいなと思ってし
まった。自分で言うのもなんですけど、その切り替えの速さ
はすごいと思いました。(笑)さすがに「京都へ行こう」だとま
んまなので、「そうだ 京都、行こう。」にした方がいいんじゃ
ないかと言って、そうさせてもらいました。安西さんは「どっ
ちでもいいよ」と言ってましたけどね。(笑)安西さんという人
は「一度でいいからコピーライターの書いたコピーに感動さ
せられたい」みたいにコピーライターを馬鹿にするタイプの
プランナーなんですけど、天才なんですね。ヘーベルハウ
スの今のCMの原型をつくった人です。

その時僕の尊敬する太田恵美さんというコピーライターが
近くにいて、太田さんは京都の出身なんです。僕は仏像と
か全然好きじゃないし、調べたりするのもめんどくさいんで
すけど、太田さんなら京都に詳しいんじゃないかと思って、
ちょうど寿司をとっていたので「寿司でもどうぞ」って誘って、
入ってもらいました。(笑)

CDとして僕がテーマにしてたのは「日本に京都があってよ
かった」という視点で、そういうシリーズにしたいと思ったん
です。「桜です」「モミジです」ってことばかり言うんじゃなくて、
京都があるかないかで日本は大違いだよねということをテ
ーマにしたかった。太田さんにも日本という視点で京都を語
りたいとお願いしました。「そうだ 京都、行こう。」はもう20
年も続いてて、僕は最初の10年しかやってないんですけど、
その後もずっとパワーを維持しているのはすごいと思いま
す。「そうだ 京都、行こう。」というコピーも素晴らしいと思い
ますけど、それを肉付けしてくれた太田さんの力も大きいと
思います。


DSCF5912.jpg


福里
そのあと、奈良の広告で「いま、奈良にいます。」というコピ
ーをさりげなく使ってましたよね。そっちはそっちで、諦めき
れなかったんですね。(会場笑)

佐々木
奈良は自由でいいかなと思ったんですよ。(笑)

福里
では、今年の受賞作の話に移っていきたいと思いますが、
じつは審査が終わったあと、審査員の中で議論になったの
がトヨタクラウンの広告なんです。これも佐々木さんがCD
の仕事なんですけど、前田知己さんが書かれた「権力より、
愛だね。」というコピーと澤本さんの書かれた「あ、出口だ」
「入口だよ、未来の。」というセリフが受賞コピーになってい
ます。ただ僕はこの広告が世の中でなんて呼ばれているか
と想像すると「ピンクのクラウンのCM」って呼ばれていると
思ったんですね。だから「ピンクのクラウン」というのもコピ
ーなのかもしれないなと。審査員の中にも、今年一番話題
になったという意味で言うと、「ピンクのクラウン」がグランプ
リでもよかったんじゃないかとおっしゃる方もいたんですね。
その辺が議論になったんですけど、ちなみに佐々木さんは
どんなお考えなんでしょうか。

佐々木
ピンクのクラウンを考えたのは僕なので、今の話を聞いて
急に悔しくなってきたんですけど。(笑)打ち合わせの中で、
「広告でいくらクラウン変わったと言ったって、ピンク色のク
ラウンが出ないかぎり無理だろ」って捨て台詞のように言っ
てみたんですね。そしたら意外に同意してくれる人がいて
実現したんです。今までも商品がTCC賞を獲るべきじゃな
いかという話はあったので、ピンクのクラウンがグランプリじ
ゃないかという議論は嬉しいですね。

「権力より、愛だね。」は前田知己君が書いたんですけど、
僕が前田君に話したのは「モーレツからビューティフルへ」
という富士ゼロックスのコピー。猛烈に生きるよりもっと美し
く生きましょうというメッセージなんですけど、クラウンもただ
変わったという話じゃなくて、クラウンの変化はこういうこと
かもしれないというベクトルを示すコピーがいいなと言った
んです。そしたら前田君は天才なので「権力より、愛だね。」
っていうものすごい国民的なコピーを出してくれました。僕
はもう惚れこんじゃって、「このキャッチフレーズはすごい!」
ってめちゃくちゃ持ち上げて澤本君に渡したら、彼は「これ、
どっかに入れなきゃいけないんですか...」みたいな反応で。
(笑)優秀なプランナーは自分でコピーを考えたいという気
持ちがあるので、そういうものだと思いますが、彼は谷山君
と一緒に「ガスパッチョ」とかもやっているので、言葉を欲し
がる人でもあるんですね。ただ「権力より、愛だね。」という
言葉はものすごく強くてCMにしづらいのはたしかです。ジ
ャン・レノとドラえもんでやってくれとか、クルマはピンク色に
してねとか、僕がいろいろ言っていたので澤本君もやりづら
かったと思いますが、彼はさすがで「あ、出口だ」「入口だよ、
未来の。」という素晴らしいコピーを書いてきました。オンエ
アの直前にトンネルの崩落事故があって、セリフの内容を
急遽「どこでもドア」に変えたんですが、それで賞を獲っちゃ
いました。

やっぱりクライアントはコピーがあるとよろこぶんですね。企
画ってプレゼンの場では「これでいこう」ということになって
も、そのあとで担当者が上司に説明したり、最後は社長に
説明したりする時に、うまく伝えられなかったり、社長から質
問されてタジタジになっちゃったりするケースがよくあるんで
すね。そういう時に「権力より、愛だね。」とか「ガスパッチョ」
みたいなキャッチフレーズがあると、大筋を掴んでおける。
それがないと、「企画はおもしろいけど、いいのかわるいの
かわからない」とか「ウチの商品のことちゃんと言ってくれて
るの?」とか、そんなふうにつっこまれて駄目になるパター
ンが多いんです。やっぱり骨太で大黒柱になるようなキャッ
チフレーズとか、「そのひとことがあればウチ的にはOKで
す」みたいな、商品にとって非常に好ましい言葉があると得
なんですね。

だから僕が審査委員長になってやりたかったのは、広告で
はコピーが非常に重要であることを広告業界の人たちにも、
クライアントの人たちにも知らせたかったということなんです。
コピーなんてどうでもいい、優秀なプランナーに頼んでヒット
しそうなCMをつくればそれでOKという風潮があるなら、
そうじゃないことを知らせたかったし、「『おいしい生活。』で
有名な糸井重里さんみたいな人」をもう一回つくりたいと思
いました。もうすぐ還暦なので、あとは後輩を育てることで
す。まあそんなことは全然思ってないですけど。(笑)

福里
コピーがあるとつくり手たちが迷った時に帰っていける場所
があるんですよね。特に佐々木さんの仕事では、佐々木さ
んが広げられるだけ広げられて、最初に佐々木さん自身が
見失ったりもするので。(笑)「タレントの誰々を出した方が
いいんじゃないか」とか、佐々木さんがいろいろ言いだした
時に「いやいや、この広告のキャッチはこれですから、そこ
からズレない方が」みたいに、クライアントさんも含めてみん
なが拠り所となるコピーがあるとすごく安心できる、というよ
うなところはありますよね。


DSCF5904.jpg


佐々木
今の福里君の話は嘘臭かったですね。(笑)そうは言っても
プランナーにとって自分以外の誰かが考えたコピーってちょ
っと迷惑なんですよ。僕もそうですけどね。自分が思いつい
た企画以外は全然おもしろいと思えないタイプです。糸井さ
んみたいな圧倒的なスターが考えた言葉だったら素晴らし
いと思えるけど、たいしたことない人が考えたものをいっぱ
い見せられても、見る前からいいのがなさそうじゃない。(会
場笑)

そういう偏見があるんですけど、でもやっぱりそんなことは
なくて、たいしたことなさそうなものの中からすごいのを見つ
けるのが自分の仕事だと思い直しています。

福里
とにかく佐々木さんという人はこういう講演の場とかではニ
コニコしてますけど、ふだんは全然ニコニコしてないですか
ら。基本的に非常に不機嫌で、企画を見せると「はい、はい、
はい、はい、全然おもしろくない」。(笑)それと連日寝不足
なので一対一で打ち合わせしてても寝始めるんですよ。一
対一ですよ。一対一で打ち合わせしてるのに「クー」って寝
始める。それで「佐々木さん、佐々木さん」と起こすと、「起
きてますよ。福里の企画があんまりつまらないので寝てしま
いました」。(会場笑)基本そういう人なので、決して誤解し
ないでください。いつもニコニコしてるいい人なんて思わな
い方が絶対にいいと思います。

佐々木
嘘ですよ。全部嘘。いつもニコニコだし、みんなを幸せにし
ようと思ってます。ただほんとに眠いんですね。眠るつもり
はないし、だいたい聞こえているんですよ、「福里がなんか
言ってるな」って。企画はもちろんおもしろいので、つまんな
くて寝るわけじゃなくて、あまり自信たっぷりに企画を説明さ
れると、ちょっと一休みしてから返事をしたくなるんですよ。
で、そうこうしているうちに寝ちゃうんですね。(笑)起こされ
るのがすごく嫌なので、全体的には不機嫌そうに見えます
が、基本的にはものすごく明るくて、みんなを幸せにしたい
と思っています。そうじゃないと審査委員長には選ばれない
でしょ。(笑)

福里
佐々木さんのことを直接知らない人がこぞって入れたんで
しょうかね。(笑)

話を戻しますと、受賞作の中でまず間違いなくこの広告は
コピーで呼ばれたなというのが、ホンダの「負けるもんか。」
ですね。これはホンダさんが企業広告をシリーズで続けて
いこうという時に、本田宗一郎さんの言葉をいくつか選び出
して、ひとつの言葉についてひとつの広告をつくっていくと
いうふうにスタートしたらしいです。第一弾が「試す人になろ
う。」で、第二弾が「負けるもんか。」ですね。この広告は
佐々木さん的にはいかがですか。

佐々木
これは昨年から今年にかけて、ADCもACCもグランプリを
獲って、当然TCCも最有力と言われていました。圧倒的に
シンプルなビジュアルのCMでグラフィックも素晴らしかった。
コピーに関しては賛否両論ありましたね。「負けるもんか」
が本田宗一郎さんの言葉だということはみんな知っていた
ので、そこに書かれているボディコピーの良し悪しについて
意見がわかれていた。僕はとてもいいと思いましたよ。「夢
は必ず叶う」ってアスリートとかに言われても、みんなが速く
走れるわけじゃない。そこをちゃんと「たいてい夢はかなわ
ない」と言ってくれたことはよかったですね。最後に「きのう
までのHondaを超えろ。」と救ってはいるんですけど、ふつ
うはそういうネガティブな要素はやめて、「ホンダは夢をか
なえる人を応援します」みたいなことを言ってお茶を濁すん
ですよ。「負けるもんか。」という、どんな逆風にも立ち向か
うという意味に捉えられるキャッチで始まるのに、夢はかな
わないという愚痴のような言葉が続くのはよかったと思いま
す。それから3.11のあと、いろんな企業がいろんなことを
言った中で、ホンダは世の中に対して偉そうなことを言うん
じゃなくて、ちゃんと自分たちのクルマを見せて、「自分を超
えます、それが昔からのホンダのやり方です」とわきまえて
いる感じもよかった。やっぱり社長の言葉という企画がすご
くいいですよね。ふつうはコピーライターにキャッチを書か
せようとするんですけど、本田宗一郎の言葉をひも解いて、
今こそホンダイズムを出すべきだという姿勢が素晴らしい。
素晴らしいけど、悔しい。正直、「負けるもんか」に負けちゃ
ったという感じはしましたね。

福里
この広告に関しては、僕は、やっぱり「負けるもんか。」がす
ごいと思うんですよ。「負けるもんか」ってこどもが使うような
言葉じゃないですか。それを震災後の企業広告で、ナレー
ションと映像のあと最後に「負けるもんか。」という言葉が出
てくると、逆に洗練されてないぶん本気感がすごく伝わるん
ですね。「負けるもんか。」という生々しい言葉がCMの最
後に出てくるところが、この広告の凄さだと思います。

佐々木
福里君の話の方が全然説得力があって、そこがずるいで
すね。僕は思いつきでモノを言うし、自分の言いたいことを
しゃべって終わっちゃうんですけど、福里君や澤本君の話
を聞いていると、もっともだなと思って、そこがいつも不愉快
なんですけど。(笑)僕はボケとツッコミでいうとボケなんで
すね。ふたりで打ち合わせをして僕が寝ちゃうって話をして
ましたけど、僕は打ち合わせで企画をいっぱい出すんです
よ。福里君からしたら使い物にならない思いつきばかりだ
と思いますけど、打ち合わせの8割くらいを僕がしゃべって、
そのあとに僕が言ったことを5つくらい繋いで、さも自分が
考えたように福里君は話すんですね。(笑)

福里
ほんとにその通りで、佐々木さんがたくさんアイディアをしゃ
べるので、もちろん助かることも多いんですが、わけがわか
らなくなることも多いんですけどね。(笑)

話を戻して、今年の審査の試みで「ワイルドカード」というも
のがありました。審査員がすべての作品の中からぜひこれ
を受賞させたいというものを一点選ぶと、自動的にノミネー
トになるという仕組みです。そのワイルドカードで佐々木さ
んは「ステッドラー日本」という企業のグラフィック広告をす
ごく推していたんですね。広瀬大さんという方の作品です。
佐々木さんっていつも派手なCMを中心にしたキャンペー
ンをやっている人だから、そういうものを選ぶと思いきや、
すごく地味なステッドラーの広告を選んだので、みんなが思
わず「佐々木さんが選ぶのだからいいのかもしれない」と思
って、票が集まった、という感じがありました。


DSCF5893.jpg


佐々木
ステッドラーは店頭のPOPの広告ですね。ステッドラーは
アートディレクターがすごくがんばっている仕事で、ADC賞
とかいろいろ受賞しているんです。地味に見えるけど、素晴
らしいことをやっていて、これは同じチームがつくったものだ
と思います。鉛筆についていろいろなコピーで語っているん
ですけど、どれもよかったですね。突き出しのシリーズって
嘘臭くて僕はわりと嫌いなんですけど、これはレベルが高
いなと思いました。自分のコピーライター時代をちょっと思
い出したりして。特に僕は「使うたびに電源を入れる。そん
な必要もありません。」というのは紙と鉛筆の関係を端的に
言っているなと思って、こういうことはビジュアルで見せられ
るよりも、言葉で言われる方が説得力がありますね。

福里
TCCのちょっと変わっているところは、一方では大キャンペ
ーンの広告が受賞しながら、こういう店頭POPのコピーが
同列に受賞しているところですね。そういう意味ではキャッ
チフレーズもセリフも歌詞もこういう小さな広告の言葉も一
緒になって競い合っているんです。それと最後は審査員の
微妙な心理も絡んでくるんですね。大きな広告に票を入れ
たら、こっちの小さな広告にも票を入れた方が、コピーライ
ターの良心が守れるんじゃないかとか。(笑)そういうものが
同列に受賞するのがTCCのいいところではないかと思い
ます。では今年のキユーピーの話に移りましょうか。

キユーピーは何十年にもわたって野菜とキユーピーマヨネ
ーズの関わりを広告にしていますが、今年は「野菜から食
べる」というのを提案したんですね。最初に野菜から食べる
のが健康にいい、ということを「時間栄養学」と言い切りまし
た。佐々木さんはすごいキユーピーファンですけど、今年の
キユーピーはいかがでしたか。

佐々木
キユーピーは秋山晶さんと細谷巌さんのコンビがずっとや
っていて、かっこいいCMをずっとつくっているという伝統が
あります。摩天楼に野菜がぽんと置かれているような写真
に、宇宙とか人間とかすごい根本的なコピーが入っていた
りして、たかがマヨネーズとはとても言えない崇高な広告を
ずっとつくり続けている。とにかくかっこよくて大尊敬してい
ます。

以前、「野菜をもっと食べましょう。」というコピーがCMの最
後に入っていて、僕はこのコピーに賞をあげるべきだとずっ
と言ってきたんです。野菜を食べようと言っても、キユーピ
ーはマヨネーズの会社だから、塩をかけて食べられては困
るわけですよね。でも、とにかく野菜を食べる健康的な人を
増やしたい、そのためにうちはマヨネーズをがんばってつく
ります、という順番が素晴らしいと思うし、広告の配慮として
もいいなと思うんですね。ふつうは「うちの会社のマヨネー
ズは卵をいっぱい使っています」とか、「うちのドレッシング
はこんなに種類があります」とか、そういうことを言うんです
けど、そうじゃなくて、「とにかく野菜を食べてもらいたい」と
いうことをずっと言っている。

それから、「speed」というコピーの広告がACCのグランプ
リを獲った時がありました。この時、野菜を切っているだけ
のCMがなぜグランプリなのかという意見がプランナーたち
から上がったんですけど、その広告をいいと言ったのはや
っぱりコピーライターたちでした。「speed」というキャッチに
「料理は高速へ。」というコピーがついていて、つまり野菜に
ドレッシングをかけるだけのサラダはいちばん時間のかか
らない料理で、そこには働く女性が仕事と主婦業を両立さ
せるためには料理の高速化が必要だという哲学がある。そ
ういうメッセージをつくってきた秋山晶さんが久しぶりに出し
てきた、世の中を変えるコピーが今回の「野菜から、食べ
る。」だと思いました。野菜をたくさん食べてね、というので
はなく、最初に野菜から食べる癖をつけると健康のために
いいという提案ですね。それをキユーピーは「時間栄養学」
と呼んだわけです。マヨネーズやドレッシングだけでなく、野
菜をおいしく食べる「文化」をつくってきたキユーピーの企業
姿勢は素晴らしいと思いますし、その一翼をコピーライター
が担っているのも素晴らしいと思います。

キユーピーの広告はもう殿堂入りにして、その分若いコピ
ーライターに席を譲った方がいいんじゃないのという声もあ
ります。でも秋山晶さんは毎回賞をすごく欲しがる。そこが
かっこいいんですね。もう70歳ですよ。ふつうは60歳で会
社を辞めて、盆栽をいじったり、孫の世話をするのに、秋山
さんは今でも超かっこいい広告をつくりたいと思っていて、
賞を獲るとよろこぶ。そんな人が僕の10何年先を走ってい
るというのはありがたいですね。秋山さんにはずっとミーハ
ーでいて欲しいし、トレンディでいて欲しい。賞を獲ることを
よろこぶ人でい続けて欲しいと思います。

ちなみにサザンオールスターズは僕と同世代で、桑田佳祐
は大好きですけど、彼には偉大なる3パターンがあります。
ひとつ目は「いとしのエリー」のようなメロディアスな曲。ふ
たつ目が「勝手にシンドバッド」のようなお祭ソング。みっつ
目は「希望の轍」や「マンPのG★SPOT」のような天才がつ
くったとしか思えないようなすごい曲。この3パターンがある
から彼は長く続いたと思うんです。キユーピーも、ものすご
く過激なメッセージと、ものすごくお洒落なメッセージと、も
のすごく時代を変えるマーケティング力のあるメッセージの
3つがあると僕は思っていて、秋山さんはこの3パターンを
繰り返しているから、長く続いていると思うんですね。秋山
さんと細谷さんのふたりでもう40年以上やっているんです。
そのふたりに続くのが葛西薫さんと安藤隆さんのサントリー
ウーロン茶で、やはり30年以上続いている。この2つは僕
にとって金字塔で、ずっと賞をあげるべきだと思っています。
そんなキユーピーに福里君は票を入れてませんでしたけど。
(笑)


DSCF5899.jpg


福里
僕は基本的に野菜が嫌いということがありまして、あまり広
告で野菜を見たくないなという思いもありつつ、もちろん素
晴らしいなと思っているわけなんですけど。(笑)

キユーピーのような深みのある受賞作がある一方で、今年
は「マルちゃん正麺」という非常にベタな広告もTCC賞を受
賞しています。私が担当していまして、これはTCC賞を受
賞しそうもない広告なんですけど、今まさに佐々木さんが話
していた安藤隆さんという深みのある広告をつくってきた方
がなぜかワイルドカードで推薦してくれて、その後押しもあ
って受賞したという感じですね。

佐々木
これはネーミングにも賞をあげたいという気持ちもありまし
たね。あと商品がおいしいですよ。福里と打ち合わせをして
いる時に、マルちゃん正麺を彼がやっているという話になっ
て、その時はそんなに素晴らしいCMとは思わなかったん
ですけど、実際に食べてみたらおいしくてちょっと感動しま
した。じつは昨日も塩味をつくって食べてます。最近はやや
飽きてますけど。(笑)商品はいいのに広告はそうでもない
ことが多いんですけど、これは福里マジックというのか、全
然力が入ってなくて、役所広司さんをふわっと使っている。

福里君は佐藤雅彦という天才プランナーの弟子なんですね。
佐藤雅彦君って僕の電通の同期なんですけど、みんなが
難しい広告や気取った広告をつくっている中で、自分が小
さい時に見た、こどもがよろこびそうな広告をいっぱいつくっ
てひとつの時代をつくった人です。湖池屋のポテトチップス
や「バザールでござ~る」ですね。福里君は彼の影響を受
けて、佐藤雅彦がいなくなった今、好きにやっている。(笑)
佐藤雅彦よりはちょっと下手ですけどね。(笑)でも、広告な
んてそんなに深刻に考え過ぎないでも、このくらいでちょう
どいいんじゃないでしょうかね。特にラーメンなんかは。

福里
インスタントラーメンってものすごく保守的なジャンルで、も
う40年以上「サッポロ一番」というブランドがナンバーワン
なんですね。さらに「チャルメラ」とか「出前一丁」とか、昔な
がらのブランドがずっと売れ続けている。主婦の方ってこど
もの頃から馴染みのブランドを買うので、ずっと同じものし
か売れない。そのくらい保守的なジャンルなんです。なので、
マルちゃん正麺は新商品なんですけど、奇はてらわずに、
谷山(雅計)さんにお願いして、「正麺」というような名前で、
昔からあるかのような顔つきにして、CMも「食べておいし
い」というど真ん中のところで、堂々と描いてみたんです。そ
れがなぜかTCC賞を受賞してしまいました。

それでは、すべての受賞作品について話している時間はな
さそうですので、そろそろグランプリの話に移りましょうか。
今年のグランプリはエイベックスとNTTドコモの映像サービ
ス「dビデオ」が受賞しました。ロバート・デ・ニーロと松田龍
平さんが登場して、ニューヨークの街で映画について語り合
うというCMです。佐々木さんはいかがでしたか。

佐々木
このCMをつくった髙崎君とは時々LINEをやっているんで
すけど、ある時ちょっと仕事を頼もうとしたら、「今ニューヨー
クですさまじい仕事をしているので無理です」というような
返事が来たんです。それがこの仕事だったんですね。だか
らちょっと不愉快というか。(笑)でもすさまじいなんて偉そ
うにって思いましたけど、たしかにすさまじくて、グランプリ
を獲っちゃいました。ただ正直に言うと、「今年はコピーで
選ぼう」と言っていたので、この作品が選ばれたあとにど
の言葉をグランプリにするかで迷ったのは事実ですね。何
人かの審査員と話をして「映画は、本当のことを言う嘘だ。」
が全体を貫いているコピーだし、キャッチフレーズとして優っ
ていたので、最終的にはこの言葉をグランプリにしました。

福里
僕もこのCMはすごくいいなと思って、もちろん票を投じまし
た。ただ僕は「映画は、本当のことを言う嘘だ。」よりも、CM
の中でロバート・デ・ニーロが松田龍平に「英語わかるの
か?」と聞くと「字幕が出てるんで」と答えるというやりとりが
あるんですけど、プランナー的にはそのセリフを思いついた
のがすごいなと思いましたね。それを見た時に、「一本!」
という感じがしました。

あとdビデオがグランプリになったのって、タイミングもある
んですね。僕の中で去年はまず「負けるもんか。」が出て、
次にトヨタのReBORNがあって、年末にピンクのクラウン
が来て、そして年が明けてdビデオが登場して。大きくはそ
の4つがグランプリを争った感じで、本命はやっぱり「負け
るもんか。」だと言われていたんですけど、「負けるもんか。」
はすでにADCグランプリもACCグランプリも獲っていたの
で、TCCでは新しいものを選びたいという気持ちが審査員
の中にあったと思うんですね。そんな中、最後は「ピンクの
クラウン対dビデオ」のような感じになって、結果的にdビデ
オが選ばれたという感じかなと思います。この4つは、どれ
がグランプリでもおかしくなかったんじゃないでしょうか。

篠崎
では最後に新人賞の話をうかがってもよろしいですか。今
年佐々木さんが大改革をなさって、例年20数人いた新人
賞を10人に絞りました。その過程で喧々諤々があったそう
ですが。

佐々木
審査委員長を仲畑さんから引き継ぐ時、いろいろ伝授して
もらおうと仲畑さんのお宅にお邪魔して、サシで飲みながら
話をしたんですね。その時に新人賞が多すぎるんじゃない
かという話をさせていただきました。世の中で20人も受賞
者がいる新人賞なんてないですよね。文学賞は1人か2人
だし、レコード大賞も最高賞が1人くらい。だいたい20人な
んて顔を覚えられないし、それが新人賞を駄目にしている
と思ったんですね。その意見には仲畑さんも賛成してくれま
した。最初は5人にしたいと思ったんです。でも、そこまで絞
っちゃうと、仕事の多い大きな代理店が有利になるかなと
考えてベスト10ということにしました。必ず反対意見がある
と思ったし、実際ありましたが、仲畑さんのお墨付きももらっ
ていたので、最終的には納得してもらいました。

その結果、最高新人賞を受賞したのが博報堂の吉岡丈晴
さんという方です。まずヘーベルハウスの新聞広告。「姉の
メリットと妻の気遣い。」とか「姉の沈黙と大胆な提案。」とか、
これだけでちょっと読みたくなりますよね。さらに「2.5世帯
住宅」というのも、今までに聞いたことのない言葉で非常に
ドラマチックだと思いました。このヘーベルハウスだけでも
優秀なコピーライターだとわかるんですけど、この人はトヨ
タの「オーリス」というクルマの広告もつくっているんですね。
赤いパンツのCMです。トヨタの社内外でいろんな物議を醸
したと思うんですけど、とにかくキレがよかったし、話題にな
ったし、僕もいい広告だなと思いました。でも、すごくコピー
ライターっぽい仕事のヘーベルハウスとオーリスをひとりの
人がやっているのが信じられなくて、審査会場にいた博報
堂の吉岡虎太郎君に本人に問い合わせてもらったんです
ね。そしたら両方とも自分だと言う。ということで最高新人賞
に選ばれました。

コピーライターというのはヘーベルハウスのようなしっかり
したものが書けなくちゃいけないんだけど、オーリスのよう
な大胆な企画を考えちゃいけないということもなくて、その
ハイブリッドな感じが新しいと思いました。2つとも、このキ
ャッチフレーズで受賞したというものではなかったのでそこ
がちょっと困りましたけど、それもこの時代の最高新人賞と
してリアリティがあるかなと思って。

今年の新人賞はすごくレベルが高かったし、受賞した10人
はみんなすごくいいコピーを書いていた。そこは10人に絞
ってよかったと思いました。来年は別の人が審査委員長に
なるので、元に戻るかもしれませんが。

福里
そうなんですよね。ですから、もし来年がらっと変わったら、
佐々木さんへの反発ということになるでしょうし、そこは見も
のですね。(笑)新人賞のその他の作品については、ぜひ
『コピー年鑑』を買っていただいて見てください。(笑)

篠崎
そうですね、ぜひ。

佐々木
やっぱり『コピー年鑑』はおもしろいですよ。昔みたいに穴
が開くほど年鑑を読むという時代じゃないのかもしれません
が、言葉が広告になって、いろいろな機能を果たすというの
はすごく大事なので、騙されたと思ってぜひ一冊買ってみ
てください。
今日は代官山の蔦屋書店というお洒落な場所で、コピーの
話ばっかりしてて、ちょっと地味じゃないかと思って。ほんと
はオリンピックの話をしたかったんですけどね。(笑)

*おわり*