会員専用サイトでのみ閲覧できる
TCC会報から選りすぐりの記事を
一般公開する「TCC会報出張所」。
過去に行なわれたトークショー
での対談など、コピーライターの
語る言葉をお楽しみください。

最新記事

《書籍紹介》最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法/中村禎 著

《対談》トークイベント 「TCCことばみらい会議」 第二夜・第3部

《書籍紹介》ネーミング全史 商品名が主役に躍り出た / 岩永嘉弘 著

《書籍紹介》 降りてくる思考法 / 江上隆夫 著

《対談》トークイベント 「TCCことばみらい会議」 第一夜・第2部

《対談》トークイベント 「TCCことばみらい会議」 第一夜・第1部

《イベントのご紹介》 いとうとしこ著「売れるキャラクター戦略 "即死""ゾンビ化"させない」 刊行記念トークショー

TCCコピー年鑑2016発刊記念イベント 「おこしやす!TCC」

《書籍紹介》 売れるキャラクター戦略 "即死""ゾンビ化"させない / いとうとしこ 著

《イベントのご紹介》 大曲康之写真展2「農村と、山村。」

《書籍紹介》 待っていても、はじまらない。―潔く前に進め/阿部 広太郎 著

《イベントのご案内》 第3回柿本照夫作陶展「わがケモノ道」

ようこそ!2016年度新人賞のみなさん

《書籍紹介》仕事偏差値を68に上げよう / 松尾卓哉 著

《書籍紹介》ハフリ/山田光美 著

《書籍紹介》師の句を訪ねて―岡本眸その作品と軌跡/広渡詩乃

《書籍紹介》汽水―益岡茱萸句集/福本ゆみ

《書籍紹介》名作コピーの教え/鈴木康之 著

おこしやすTCCin ヒカリエ

《書籍紹介》言葉の処方箋 /竹内好美 著

《書籍紹介》 マイペースのススメェー/ 文:三井 明子

《書籍紹介》広告コピーってこう書くんだ! 相談室(袋とじつき) /谷山雅計著

こども広告教室を開催

《対談》TCC広告賞展2015 TCC TALK LIVE Vol.2 『尾形さんって、なに考えているんですか。』

《対談》TCC広告賞展2015 TCC TALK LIVE Vol.1 『たふてこ。(多田福里照井のコピー会議)』

《書籍紹介》さるすべりの花のように/島崎保彦著

2015年度、新人賞のみなさんから!

《対談》「西村さんを囲む夕べ」

眞木準さん(のお弟子さん)を囲む夕べ

C-1グランプリ100回記念特別企画を開催しました

《書籍紹介》可不可●西村佳也句集

《イベントのご案内》谷内六郎の絵と岩崎俊一のコピーで綴る昭和展 昭和というたからもの

《イベントのご案内》コピーライター 西村佳也「可不可展」

《イベントのご案内》あんましヤル気のない風景。大曲康之写真展

《書籍紹介》ここらで広告コピーの本当の話をします。/小霜和也

《書籍紹介》 大人の迷子たち/岩崎俊一

《対談》TCC広告賞展2014TCC TALK LIVE Vol.4 『澤本嘉光×多田琢 頂上対談!!』

《対談》TCC広告賞展2014 TCC TALK LIVE Vol.3 『ズバリ!困っている人のためのアイデアとプレゼンのはなし』

《対談》TCC広告賞展2014 TCC TALK LIVE Vol.2 『ちょっとだけ新世代』

《対談》TCC広告賞展2014 TCC TALK LIVE Vol.1

《書籍紹介》困っている人のためのアイデアとプレゼンの本

《書籍紹介》 魚住勉の一行の恋/魚住勉

《イベントのご案内》 歌謡曲集「枕草子」リリース記念コンサート

《書籍紹介》 コピーライター放浪記―All Around the World/木戸寛行

《対談》TCC広告賞2013トークイベント 第2回

コピーフェア トークショー 2013年度TCC賞 「いいコピーって、何だったんだろう?」

《書籍紹介》 電信柱の陰から見てるタイプの企画術/福里真一著

TCC広告賞展2013 トークイベント Vol.1 髙崎卓馬さん

《書籍紹介》 『ガラスのハートのきたえかた方』 竹内好美 著

《書籍紹介》 『土屋耕一のことばの遊び場。』 土屋耕一 著

《書籍紹介》 『言葉あそび入門』 多比羅孝

2012年度TCCホール・オブ・フェイム顕彰式(糸井重里氏スピーチ掲載)

《書籍紹介》 『あたまの地図帳』 下東史明

《書籍紹介》 『あしたは80パーセント晴れでしょう』 坂本和加

《書籍紹介》 『はるかかけら』 髙崎卓馬 著

《書籍紹介》 『表現の技術』 髙崎卓馬 著

《対談》 鈴木康之さんを囲む夕べ(3)

《対談》 鈴木康之さんを囲む夕べ(2)

《対談》 鈴木康之さんを囲む夕べ(1)

《対談》 TCC広告賞展2011 トークイベント第3回(2)

《対談》 TCC広告賞展2011 トークイベント第3回(1)

《対談》TCC広告賞展2014TCC TALK LIVE Vol.4 『澤本嘉光×多田琢 頂上対談!!』
2014.9.4
対談
P1010797.jpg
最終回となるTCCトークライブ第4回目は、「ソフトバンクモバイル」で2014年度のTCCグランプリを受賞された澤本嘉光さんと、「LOTO7」「大和ハウス」でTCC賞を受賞された多田琢さん、CM界のトップを走り続けるおふたりによる対談です。共通の知人である佐藤由紀夫さんの司会によって、TCC賞のこと、若い頃の話、発想法など、さまざまな話題が繰り広げられました。「頂上対談」の名にふさわしく会場は大いに盛り上がりました。


佐藤
本日の司会を務めさせていただく佐藤由紀夫です。よろしくお願いします。ではゲストのおふたりをご紹介します。澤本嘉光さんです。

澤本
澤本です。よろしくお願いします。(会場拍手)

佐藤
多田琢さんです。

多田
多田です。よろしくお願いします。(会場拍手)

佐藤
おふたりは対談するのが初めてなんですよね。

多田
そう。

佐藤
でも、たまに飲んだりすることがあるとか?

澤本
そうですね、だいたい多田さんにおごってもらってます。

佐藤
ふたりの共通の知人ということで今日は僕が司会をやることになったので、よろしくお願いします。澤本さんは、親知らずの具合が悪いそうですね。

P1010798.jpg

澤本
そうなんです、痛いんですよ。今日おもしろくなかったら親知らずのせいです。(笑)

佐藤
このふたりはTCC が声をかけて集まったわけじゃなくて、最初に澤本さんにトークをお願いしたそうです。そしたら、澤本さんが多田さんとの対談を希望した、という経緯で実現したんですよね。

澤本
そうです。TCCから対談して欲しいと言われて、自分が今いちばん話をしてみたかったのが多田さんだったんです。



TCCのこと

澤本
多田さんって僕よりふたつ上ですよね?

多田
入社は62年。

澤本
僕は平成2年入社だから、じゃ3つ上ですね。多田さんが現れた時って、それまでのCMプランナーとはまったく別のことをしている人が僕の少し上に突如出現して、ものすごい勢いで道をかきわけて進んでいるという印象でした。それがすごくかっこよかった。今はこうしてふつうにしゃべっていますけど、僕にとって多田さんはヒーローみたいなものなんです。その多田さんが久しぶりにTCCに戻ってきてくれて僕はすごくうれしかったんですけど、どうして一時期出さなかったのか、そしてどうして今年出すことにしたのか、どちらか答えられる方だけでも教えてもらえればと思って。

多田
なんだろう、自分の価値観みたいなものが鬱陶しくなって、そこから離れたかったというのがいちばんの理由だよね。ACCとかADCとかTCCとか、いろんな賞の審査で人の評価をしたり、自分が評価されたりするのを見ていると、賞が取りやすいか取りにくいかという、どうでもいい価値観が自分の中にできちゃって、それが鬱陶しくなった。それで一回チャラにしたいなと思ったんだよね。それと、今やっぱり佐々木(宏)さんの色っていうのが強いじゃない。俺も佐々木チルドレンだから、これは愛を持って言うんだけど、佐々木さん一色で野党がいない感じがつまらないなと。じゃあお前が野党になれよってことなんだけど、それができてないジレンマもあって。それで戦い方を一から変えて、新しい物差しをつくらないといけないなと思った。圧倒的なものをつくれば、ADCであろうとTCCであろうと圧倒的に評価されるだろうし、それが佐々木さんに対するカウンターにもなるだろうなと。あとはまあ、ちょっとサザンぽくていいかなと。(笑)

P1010976.jpg

佐藤
でも、サザンだったらいきなりヒットチャート1位で戻ってくる。(笑)

多田
いや、だから、今回グランプリは「H.H.(ハイブリッドハリアー)」だと思ってたわけ。もう渾身の作だったから、「ヤバイな、グランプリの決選投票がぜんぶ俺のになっちゃうんじゃないか」なんて思ってて。(笑)で、山崎(隆明)に聞いたら「H.H.は予選で落ちてたよ」って。「えー、そんなことが起こるのか」って感じだった。(笑)

澤本
そうは言ってもTCC賞にふたつも入ってるじゃないですか。ひとつも入らなかったら注目されなかったと思いますけど。

多田
意外とハラハラしてたよ。どれかひとつくらいは入るんじゃないかと思ってたけど、いちばん期待してたのは「H.H.」だった。

佐藤
では、ちょっとCMを見てみましょうか。


多田
これはCMをサイドAとBにわけて、同じストーリーなんだけど、サイドAはクルマを擬人化して、サイドBはそのままクルマでやっている。最初にそれぞれのCMを別々にオンエアして、そのあとで、構造をわからせるために2画面同時のバージョンをオンエアしたのね。ハイブリッドハリアーってクロスオーバーSUVっていう、街もオフロードも走れるクルマなんだけど、こういうクルマを買う人ってふだんは街にいるけど、時々は山に行ったりして、野生に帰るポテンシャルも秘めている、そんな人だと思ったわけ。

佐藤
そこで二面性が出てくるんだ。

多田
そう。そういうことってクルマだけを描いても誰も見てくれないじゃない。「人は荒野にいる時は都会を思い、都会にいる時は荒野を思う」という人間の話に置き換えれば耳を傾けてくれると思ったから、人を主人公にしたんだよね。だから、ただおもしろいからこういう構造にしたわけじゃない。このクルマにとっていちばん大事なことを伝えるためにはこの方法がいいと思ったんだよ。

佐藤
クライアントを説得する時、いつもそういう口調なんですか?

多田
え、なんか嫌な感じ?

佐藤
ちょっと口説かれた感じがする。(笑)大勢の前で聞くとちょっと恥ずかしい。

多田
嫌ならやめようかな。(笑)

佐藤
いや、相変わらずかっこいいんですけど。

多田
こういうのって今までないと思ってたし、自分でもいいなと思ってたけど、意外とダメなんだなって、会場の人の反応を見て思った。(笑)

佐藤
俺今日初めて見たけど、すごくかっこいいな、チクショー。(笑)これ外国で撮ってんの?

多田
ハンガリー。

佐藤
相当予算かかってますよね。

多田
そうでもないよ。タレントだっていないし、出てくる外国人もモデルみたいなもんだしさ。つい最近までカーペット職人だったおじさんとかも出てるんだから。

佐藤
演出は外国の監督?

多田
関根光才。

佐藤
うまいね。

多田
うまい。とても上手。で、なんだっけ。なんで戻ってきたのかって話だよね。だから、自分の価値観をもう一度つくり直したかったってことだよね。結果的にふたつ取れてよかったけど。

澤本
でも、結局わかりやすいものから取っているんですよね。

多田
そうそう、それが不思議なんだよ。TCCなんだからCMインデックスとは違う価値観が提示できた方がいいと思うんだけどさ。

澤本
さっき多田さんがおっしゃっていた、賞が取れるか取れないかという価値観の話、あれはすごくよくわかります。企画をしている時に「ここにコピーを入れておくと賞が取りやすいんじゃないか」って思う時があるんですよ。そういう意味では、さっき多田さんがおっしゃっていた「人は荒野にいる時は都会を思い、都会にいる時は荒野を思う」みたいなコピーを最後に入れておいたら、TCCに入っていたと思います。たぶんハリアーって「どこにコピーがあるんだ」って思われたんじゃないかと思うんです。

P1010962.jpg

多田
だから、来年もし審査するとしたら、それもおかしいんじゃないの?というところから始めたいよね。だって「この言葉で受賞した」って年鑑に書いてあるけど、セリフだったりするじゃん。

澤本
そうですね。

多田
セリフライターの賞じゃないんだし、途中にあるセリフを抜き出して、「この言葉で選びました」ってやる必要があるのかな。もちろん言葉は大事だと思うし、TCCだから言葉を基準に選ぶというのは正しいと思うんだけど、それがセリフの一部であったり、必ずタグラインじゃなきゃいけないっていうのは違う気がする。



白土チルドレンだった

佐藤
今日会場に来てる人から前もって質問を受けつけていたんだけど、若い頃どんな環境にいたかを知りたいというのが来ています。昔はモンスターみたいな人がいっぱいいたよね。佐々木さんとか白土さんとか。

多田
僕ら3人とも白土さんが師匠だよね。

澤本
白土謙二さんというちょっと変わった人がいて、僕はその人のおかげで今CMの仕事ができていると思っているんですけど、白土さんのところに足繁く通っていた時に多田さんもいたんです。

佐藤
あの時はプロックス(電通プロックス)ですよ。デスクがあって、白土さんと多田さんがそこにいたんだよね。

多田
そうそう。転局してクリエイティブ配属になる前に、プロックスで現場の勉強をしたいと言ったんだ。

佐藤
自分で希望して?

多田
そう。そしたらプロックスに白土がいるから下につけると言われて。そこで初めて白土さんに会った。そのあと白土さんが電通に戻るタイミングで俺も戻ってきて、3人がいっしょになったんだ。

佐藤
全員いたよね、ごちゃごちゃと。まわりも佐々木さん、佐藤雅彦さん・・・

多田
岡(康道)さんもいた。

佐藤
大島(征夫)さんもいたし、とんでもない環境だよね。朝会社に来たら床に雅彦さんが寝てたんです。そしたら壁に「答えは必ずある」って紙が貼ってあった。(笑)そういうところでいっしょに苦しみを味わったので、なんとなく戦友感がありますね。

P1010893.jpg

多田
白土さんって、企画になかなかOKを出してくれなかったよね。

佐藤
出してくれないですね。「これ、おもしろい?」って言われて終わりです。

多田
白土さんに褒められたことある?

佐藤
澤本さんは一度あったよね。

澤本
いや、僕もともとCMがやりたいと思って会社に入ったら、ついた先輩がコピーライターだったんです。CMの仕事もあったんですけど、外部のスタッフに企画を考えさせていて、僕がコンテを考えて持っていくと、「はいはい、ありがとう」で終わっちゃう。あとは資料探しとかをしてて。そんなことをしている時に、白土さんの仕事で自分の好きなコンテをいっぱい持って行ったら「君、コンテ書けるんだ」って言われて。それから白土さんに呼んでもらえるようになったんです。

多田
それ、何年目くらいの時?

澤本
2年目の頭ですね。

多田
それはいいね。俺も7年目で転局してるから、無駄にエネルギーがあった。で、自分がやってない仕事でも勝手に企画をして、50案くらい白土さんの机の上に置いておくわけ。朝、白土さんがそれを見るんだけど、ほとんどなにも言ってくれない。それでも徹夜しながら毎日毎日50案考えてさ。

佐藤
毎日?

多田
うん。そのくらいやらないとみんなに追いつけないと思ったから。だってCMを世の中に一本も出したことがないんだから。で、一ヶ月くらい経った時、白土さんに「多田君、これ自分でおもしろいと思ってるの?」って言われた。そう言われてあらためて自分の企画を見ると、これがぜんぜんおもしろくない。(笑)白土さんぽい企画とか、クライアントに通りそうな企画とか、営業を7年やっていたから企画の方法論をなぞることはできる。でも、なぞるだけで魂がないんだよね。だからほんとうにやりたいことが伝わらない。そこから「自分がおもしろいと思うものをつくればいいんだ」と思って、変わったかな。そもそも白土さんが言いたかったことって「君が自分でおもしろくないと思っていることもわかる。でも企画は考えればいいってわけじゃない」ってことだったんじゃないかな。

P1010933.jpg

佐藤
司会なのに聞き入ってしまいました。すごくおもしろい。

多田
でも、澤本は白土さんに言われる前から、ある程度企画のスタイルはできてたんじゃないの?

澤本
当時僕の直属の上司が戸田洋介さんという人で、その人も独特のコンテを書く人だったんです。戸田さんから「澤本のコンテは前半の話はおもしろいけど、商品とまったく関係ない」って言われていて、「商品とまったく関係ないことを関係あるように見せる天才が白土さんだ」って白土さんを紹介されたんです。

佐藤
それはあったよね。

多田
そうだね。

澤本
「そんなあなたのセブンイレブン」とか、関係ない話を強引に商品に結びつけている。(笑)

多田
そう言われてみると、無茶苦茶だったよね。白土さんって商品とは無関係に自分の興味が先にあるんだよ。「今この能役者がおもしろい」とかさ。

澤本
そうですね。

多田
その強引さというのは、俺のDNAにも染みついていると思う。それがなかったら今みたいな感じにはなっていない気がする。

佐藤
白土チルドレンの特徴はそこだよね。

澤本
企画書の書き方とかもすごく参考になりましたよね。

佐藤
そう、伝説の企画書がいっぱい残ってますよね。



どうやって発想しているか

佐藤
発想法が知りたいという人が多いんですけど。僕は澤本さんがちゃんと机に向かってコンテ書いている姿を何度か見たことがあります。

澤本
でも、コンテを書く時はプレゼンのギリギリです。締め切り間近で自分で自分を追い込まないとなにもできない。最悪です。

P1010903.jpg

佐藤
多田さんは?

多田
さっきの白土さんじゃないけど、やりたいことが先にある感じかな。ダイワハウスもリリー・フランキーでやってみたいというのが先にあった。『東京タワー』っていう本があるじゃない。あの本を飛行機の中で読んだんだよね。そしたらもう号泣でさ。(笑)なにが素晴らしいって、リリー・フランキーという男がかっこいいと思った。話が長くなるけどいい?

佐藤
いいですよ。

多田
いちばん好きだったのが、オカンと住んでいる家に編集者の女性が来る場面なんだけど、まだ原稿ができてないから隣の部屋のちゃぶ台みたいなところで待っててもらうのね。ちょうどお昼時だったから、お母さんが昼ごはんをつくるんだけど、結局その編集者は箸をつけないで帰っちゃう。それをね、リリー・フランキーがすごく怒る。一生懸命料理をつくってくれたおふくろに対して、箸をつけないで帰るなんて信じられない、最悪だって。それを読んだ時に、なんてかっこいい人なんだろうって思ったわけ。俺だったらおふくろに、「メシ食いに来たわけじゃないんだから、そんなかっこ悪いことやめてくれよ」とか、編集者にも「無理に食べなくてもいいですよ」って言っちゃうと思うんだよ。俺はずっと親に対して親孝行的なことを言ったり、したりするのが苦手だったんだけど、『東京タワー』を読んで、親にちゃんと感謝して、愛情を伝えられるリリー・フランキーって、もしかしたら俺がすごく好きなタイプの男じゃないかと思った。それと、歳をとるにつれて、自分のダメさがわかってくるじゃない。そうすると、自分と同じようなダメな人間を肯定したくなるんだよね。

澤本
わかります。

多田
だから、あれは俺が思うリリー・フランキー像なわけ。ダメだけどいい男をリリー・フランキーで描いてみたかった。そう思っていた時にちょうど来た仕事がダイワハウスだったんだよ。




佐藤
なるほど。

多田
先にやりたいことがあって、その時に来た仕事との接点を見つける。企画はほぼそんな感じでやってる。そこは白土さんと近いかもね。

佐藤
多田さんってつねになにかにハマっているよね。ない時期がないくらい。

多田
でも、それはさ、なんかあるんじゃないの。生きてたら。

佐藤
ふつうの人はそんなことないよ。

多田
いや、あるでしょ。子どもがかわいいとかさ。

佐藤
でも、多田さんって人に話すのがうまいし、しかもドラマチックに話すじゃない。そこがズルいよね。前に『永遠の仔』って本を多田さんに薦められたんだけど、多田さんが話す内容よりつまらなかったもん。(笑)「俺、嗚咽したよ」って言ってたけど。

多田
あれは泣くでしょ。

佐藤
最初は泣いたけど、さすがに嗚咽はしなかったよ。多田さんは感動屋なんですよね。

多田
そうだね。映画とかも『初恋のきた道』なんて最初から最後まで泣きっぱなし。あまりに涙が出ちゃって最後ハンカチが絞れたもん。(笑)

佐藤
泣きすぎだよ。

P1010895.jpg

多田
ほんと、泣きすぎ。昨日もテレビで『となりのトトロ』やってたじゃん。あれなんてもうずーっと泣いてる。(笑)どの場面でも涙が出てきちゃう。やっぱり猫バスがかっこいいんだ。ああいう不細工なものってなんでかっこいいんだろう。不細工な人がかっこいいと、かっこよく見えるという話にも通じるんだけど。最近はだから、涙腺がヤバい。

佐藤
澤本さんはどう?

多田
澤本は泣かないイメージがあるよね。

澤本
気がつくとボロボロ泣いている方です。泣いてるって人に言わないようにしてるんですけど。トトロは冒頭から泣きますよ。

多田
泣くよね。

澤本
企画の話に戻ると、僕もその時に気になっているものと、その時の課題を強引に結びつけることが多いかもしれません。ふた通りあるんですけど、なにも強制されない場合は、自分が今言いたいこととか使いたい人と、その時の課題をうまく結びつける。Aという要素とBという要素を強引に結びつける訓練はずっとしてきたので、そこは意外とうまくできる。もうひとつは、強制される場合ですね。佐々木宏さんの陰謀によって。(笑)

佐藤
「ふなっしーを出せ」みたいな?

澤本
そうなんですよ。嫌なのが、なんとなく今ふなっしーが流行ってるなと思っていると、佐々木さんがふなっしーの写真を持ってたりするんですね。で、「澤本、今のソフトバンクに足りないものがあると思う。ふなっしーだ」。って。僕も一応抵抗するんですけど、佐々木さんが説得してくるんです。ふなっしーを出すことがいかにいいことかを。僕もわかったふりをしていると、1週間後くらいにふなっしーのポスターができあがっているんです。CMやってくれないから、ポスターをつくったとか言って。ポスターつくっちゃったからCMをつくれって。

P1010870.jpg

多田
強引だね。(笑)

澤本
佐々木さんのその作戦に腹が立ったので、「ふなっしーを出すなら、偽ふなっしーを出して、それに対する批判をするとかだったらいいですけど」って言ったら、「それで企画できたね。じゃよろしく」って言われて。

佐藤
とんでもない。(笑)

多田
じゃ、堺雅人のもそうなの?

澤本
あれも佐々木さんが決めてきちゃったんです。「堺さんでやることになったから」って。

多田
ほんとに?

澤本
白戸家と堺さんがうまく絡む方法を考えろっていうから、コンテを書いたんです。書いて出したら、「撮影時間が2時間しかない」って言う。2時間じゃ、10カットもある家族ものの企画なんかできるわけないんですよ。しかも、5タイプつくりたいとか言って。

佐藤
すごいね。

澤本
もう無理なんです。無理なので、「5タイプ撮るんだったらワンカットで5回撮影して終わるくらいじゃないと」と言って、ああいう企画になったんです。

多田
じゃ、それを見てみようか。


澤本
これで1回撮影が終わりです。(笑)


澤本
2回目の撮影が終わり。(笑)

多田
これは長いのもあるよね?

澤本
15秒を6本まとめた90秒バージョンがあります。短いのをたくさんつくるとまとめたがるんですよ、佐々木さんが。


澤本
これってセリフの半分以上が商品説明なんですよ。

多田
でも、ベタに商品説明をしているだけに、お父さんの最後のひとことが生きるっていうのはあるよね。パターンとして。

澤本
そうですね、どんな情報でもこのパターンで説明すれば、なんとかなるんです。

佐藤
おふたりは共通してセリフがうまいですよね。セリフってなにも考えないでスルスルと書いてます?

多田
掛け合いなんかだと、最初に長めのセリフを書いてるかな。あとはMacで編集する。下にあるセリフを上に持ってきたりして。見直してみると、同じことを2回言ってる部分とかあるからさ。そういうところを削って秒数を詰めていく感じ。

佐藤
澤本さんは?

澤本
僕も最初はあまり考えないで勢いでパーッと書いちゃいますね。昔は手書きでやってたからペーストができなかったじゃないですか。今はペーストができるから、ブロックごと上に持っていったり、一部を別のところにずらしたり。字コンテを書く時すごく便利ですね。

佐藤
最近セリフを上手に書けない人が多いと思って、さっきふたりに、セリフの書き方を教える方法ってある?って聞いたら、「それはない」って言われたんですけど、やっぱりそういうものですか?

多田
ものすごくたくさん書くみたいに、努力は必要だと思うけどね。でも、セリフがなきゃいけないわけじゃないし、セリフがなくてもいいものもあるから。

佐藤
でも、セリフってある意味、僕たちにとっていちばんおいしいところでもありますよね。そこが今あまり流行っていない感じ。

P1010944.jpg

多田
でも、得意不得意はしょうがないんじゃないの。というか、さっき澤本に言われて思ったけど、それこそ俺はキャッチコピーが弱いんだよ。いいものが書けたと自分で思ったことがない。秋山さんみたいなタグラインは書けない。

佐藤
そりゃあ、秋山さんはすごいよ。

多田
澤本と谷山さんがやった「ガスパッチョ」ってあるじゃない。

澤本
はい。

多田
ああいうのって、コピーが軸になるし、上がどうなってもそこがしっかりすれば成立する。そういうキャッチコピーってやっぱり存在するから、それが書けるといいなと思ったりするんだけど。まあ、でも、それも得意不得意かな。

佐藤
やっぱりそうなんですね。

多田
セリフが苦手ならそうじゃないところでやればいいんじゃないの。書けないセリフを今から努力するより、画で定着させるとか、別の方法を考えた方がいいんじゃないのかな。なんか見ず知らずの人の人生相談してるみたいだけど。(笑)

澤本
由起夫さんは電通の中でいちばん相談にのってくれて、的確な答えを出してくれる上司と思われてますよね。

佐藤
まあ、一応「病院」って言われてますから。

多田
病院。(笑)

澤本
昔はそういう人がいっぱいいたけど、今はいないんですよね。僕も困った時は由起夫さんのところに行けって言ってます。

P1010891.jpg




寝ないとダメ

佐藤
じゃ、次の質問に移りますか。睡眠時間についての質問が来てますね。澤本さんは寝なきゃダメって前から言ってますよね。

多田
寝ないとダメなんですけど、平均睡眠時間は短いです。

佐藤
大丈夫?病気じゃないの。

澤本
自分でも気になって、医学書とか読むんですよ。そうすると明らかに病気じゃないかと思う。で、一度病院に行ったら、単純に早朝覚醒の家系だと言われました。

多田
早朝覚醒って、朝に目が覚めちゃうわけ?

澤本
起きちゃうんです。5時とかに。

多田
二度寝もしないの?

澤本
5時に起きると、そのあとに机に向かって仕事します。メールとかバーっと読んだりして。朝の5時から8時くらいが仕事をするピークの時間帯ですね。それから会社に行くんですけど、そんな感じだから午前中しか仕事をする気にならないんですよ。

多田
夜は何時頃に寝るの?

澤本
ほんとうは早く寝たいんですけど、夜が好きなおじさんと仕事してるので寝れないんです。で、打ち合わせの最中に眠いから寝ちゃうんですけど、最近はあの人、僕が寝るのをわざわざ待っているんですよ。眠っていたのに気づいてふっと起きると、「じゃ、始めようか」って。

多田
怖いよ。(笑)

佐藤
多田さんはいつ寝ているの?

多田
ふつうに寝てるよ。俺睡眠時間たっぷり取るから。8時間くらい寝てるんじゃない。

佐藤
大人にしては寝過ぎでしょ。

多田
そうかもしれない。

佐藤
企画を考える時間って決まってます?

多田
決まってないけど、夜はダメだね。日中。

佐藤
散歩とかします?

多田
すごくする。あとは風呂とか。

佐藤
散歩と風呂?

多田
最近誰かに言われたんだけど、副交感神経が上がっている時がいいらしいね。でも、俺はいっぱい寝るんだけど、夢がきついんだよ、リアル過ぎて。最近は触覚も味覚もぜんぶある。やわらかいとか冷たいとかもぜんぶわかる。しかも夢の中で夢とわかるわけ。こんな景色現実には絶対ないから夢だなって。ちょっと異常な空間だよ。だから毎朝起きると疲れてる。8時間寝てるけど、8時間リアルを生きているようなもんだからめちゃくちゃ疲れてる。(笑)

佐藤
それは老化も進むよね。

多田
進むよ、2回生きているようなもんだから。知ってる人みんな出てくるし、昔は佐々木さんもよく出てきた。夢の中にまで出てくるのかよと思ったけど。



いかにしてモチベーションを保つか

佐藤
モチベーションの保ち方についての質問も来てます。ふたりともモチベーションはどうやって保ってる? 

P1010869.jpg

澤本
白戸家はたまに飽きそうになる時があるんですけど、そうなる前に次の仕事が来るんですよ。

佐藤
なるほど、飽きる暇がない。

澤本
あと思うんですけど、ほかの仕事に就いた大学や高校の同期に会うと、自分の仕事がすごく幸せだなと思うんです。

佐藤
それはそうだね。

澤本
こんなことをして給料をもらっているんだから、幸せだなと思うのがいちばんのモチベーションですかね。義務としてやっている部分もあるけど、つくってる時って楽しいじゃないですか。編集している時とか。そう思えるのって、たぶん40歳になってからですね。30歳の時は自分がしたいことより、人にやらされていることが多かったから。40歳過ぎてやっと自分がちょっとわがまま言っても許されるような状況になった。

佐藤
自分が決めたら決まりだもんね。

澤本
そういう状況になってからまだそんなに時間が経ってないから、飽きるよりも自分がやりたいことをやれているという幸福感があります。

佐藤
多田さんは?

多田
モチベーションがなくなったからやめますって言ったら、もう食えなくなっちゃうからさ。俺はもう逃げられないわけだよ。

佐藤
お金はもういいんじゃないの?

多田
でも、ほんとうに仕事がなくなったら大変なことになっちゃうから、そこがモチベーションになってるっていうのはあると思うよ。でも、なんだろうな、モチベーションとは関係ない話かもしれないけど、若い頃にくらべて企画に対する自分のダメ出しが厳しくなっている気がする。昔はその基準がもっと緩かった。さっきのリリー・フランキーみたいに、やりたいことがいっぱいあって、自分的にOKもいっぱい出してた。今でももちろん企画は出るんだけど、それに対して自分からなかなかOKが出ない。それって、自分がいいと思う範囲が狭くなったのか、それとも職人的に判断ができるようになったのか、わかんないんだけど。

佐藤
それもやっぱりモチベーションってことだと思いますよ。

多田
澤本はそんなことない?

澤本
僕と多田さんのいちばんの違いは佐々木さんがいるかいないかだと思います。たとえば、自分がいいと思う企画がいくつかあったとして、どれがほんとうにいいのかわかんない時ってあるじゃないですか。その時は佐々木さんに聞いちゃいますね。「どうですか?」って。ただ、佐々木さんと僕で選ぶポイントが違うことがあるんです。佐々木さんはここがいいと言ってるけど、僕はぜんぜんそう思わない、みたいな。そういう時、佐々木さんと話すんですけど話しているうちに、ここをこうやって合わせていけばおもしろくなるかも、というのが見えてくることがあるんですね。さっきからいろいろ言ってますけど、佐々木さんって僕が考えつかないようなことを言って圧力をかけてくれるんです。自分がおもしろいと思う範囲って意外と狭いので、そこを強引に広げてもらっている気もします。

P1010977.jpg

多田
それはあるかもね。

澤本
むしろ自分ひとりでOKを出している多田さんがすごいと思います。

多田
自分以外の基準で強引に納得させられることはないから、そういう意味では楽だよね。でも「好きなようにしていいよ」って言われるのは意外と辛いよ。「自由におもしろいのをお願いします」みたいなのはいちばん辛い。

澤本
それは無理です。

多田
無理だよな、条件がないのは。ダイワハウスはプレゼンした瞬間に「やりましょう」ってこともある。「マンションもダイワハウチュ」の時、最初は「マンチョンもダイワハウチュ」だった。それを見た岡さんが「マンチョンはヤバいんじゃないか。通っちゃうからマンチョンはやめよう」って言ってやめた。(笑)



CMにとってわかりやすさとは

佐藤
聞きたいことはほぼ聞いた感じですかね。最後に会場からの質問を受けつけてもいいですか?

多田
いいですよ、ぜんぜん。

佐藤
ではなにか質問のある方はいますか?

質問者1
今日は講演ありがとうございます。最近ストーリー仕立てのCMが増えていると思うんですけど、ストーリーが複雑になるとCMとしてわかりにくくなる部分も出てくると思います。CMのわかりやすさについて、どうお考えになっていますか?

P1020019.jpg

多田
いい質問だね。今日はそのことについて話したいと思っていたんだよ。でも由起夫が聞いてくれないからさ。

佐藤
じゃ、お願いします。

多田
俺だからさ、わかりやすいのが絶対にいいとは思えないんだよね。いや、わかるに越したことはないけど、見ている人を馬鹿にしちゃいけないとも思うわけ。見ている誰もがわかることがいいことなのか。見ている人が「なんだろう?」って思うもののほうが魅力的なんじゃないか。俺がいちばん好きなCMはサントリーのランボオなんだけど、詩人のランボオの話をしたり、旅芸人が出てきたりして、あれがわかりやすかったかといえば、わかりづらいじゃん。

佐藤
あれは、理解されたら終わりだもん。

多田
俺はそういう方が素晴らしいと思うんだよ。だから、わかりやすくすることに労力を使うのはあんまり好きじゃない。「わかりにくい」と言われれば、もちろん「じゃこうしたらどうですか」って話はするけど、でも、みんながわかりやすいと思うものって、そんなに好かれないんじゃないかな。

澤本
もしかしたら質問の答になってないかもしれませんが、僕は広告らしいものって、良いとも悪いとも言い難いところがあるんです。どちらかと言えば、広告っぽいものってあんまり好きじゃないですね。前にアナウンサーの羽鳥慎一さんとラジオで対談した時に「どうしてCMって最初のカットから商品を出さないんですか」って言われたんです。「CMってお話があって最後に商品が出てくるけど、頭から商品を出して、この商品を買ってくださいと言った方がいいんじゃないですか」って。

多田
一般の人からすると、CMってそういうもんなんだろうね。

澤本
その意見はわからなくもないけど、でもやっぱりそんなCM見たくないでしょって話ですよね。最初から商品が出ても、お話があってから商品が出ても、商品の売上にはたぶんそんなに関係ない。関係ないんだったら、そのCMを見てよろこぶ人がたくさんいる方がいいと思うんです。

P1010979.jpg

多田
でも、あれだよね、そこは根本的な問題としてずっと苦しんでいるよね。30秒という時間がある。そのうちの25秒を商品以外に使って、残りの5秒を商品に使うか。25秒を商品に使って、残りの5秒を商品以外に使うか。どっちかを選ぶとしたら、俺は100%前者を選ぶ。商品が25秒間出ているCMを、世の中の何パーセントの人が楽しいと思うかといったら、ものすごく低いと思うわけ。でも9割の人がおもしろいと思うCMがあったら、一度見ただけではなんの商品かわからなかったとしても、たくさんの人をハッピーにすることができる。映画は一発勝負だけど、CMは何回も勝負ができるから、2回3回見て腑に落ちれば、ちゃんと効果があると思うし。逆に一度見てつまらないと思われたら、いくら商品がいっぱい出てても2回目3回目はないわけじゃん。それは広告として最悪だよね。

佐藤
今聞いてて思ったけど、今は組み立てが下手な人が多いのかな。ふたりとも話の組み立て方が相当うまいよね。無駄を削いで、ストーリーを展開させて、見たいと思わせる。そこが僕らの仕事じゃないかと思うんだけど、それはもう技術を磨くしかないと思うんだよね。

多田
そうだね。

佐藤
もちろん演出も重要だけど。

多田
演出家も重要だし、カメラマンもすごく大きい。ソフトバンクのCMだって画がいいじゃん。

澤本
カメラマンは笠松(則通)さんです。

多田
笠松さん、いいよね。ロト7も笠松さんと瀧本(幹也)さんが撮ってくれてるんだけど、CMが始まった瞬間から「映画?」と思うような映像なんだよね。そこはほんとに企画を助けてもらっていると思う。だってもしロト7をビデオカメラでコントみたいに撮ったら、なんでもないものになるじゃん。あのCMはセリフがいいって言われているけど、画がよくなかったら大したセリフに聞こえないと思う。


澤本
そうですね。

多田
やっぱり画ってすごく大事。その画に映っている景色だってある意味タレントだからね。ロケが好きだから、セットはできるだけやらない。ロケで合成しないアナログっぽいのが好きだな。

佐藤
ほかに質問のある方はいます?

質問者2
今日はお話ありがとうございました。おふたりがアイデアを考える時、感覚と論理はどのような割合で考えていますか?

澤本
僕は感覚で考えて、あとから論理を考えていると思います。こう言うといい加減に聞こえるかもしれませんが、ぜんぶ感覚的に思いついているんです。とはいえ、思いつくというのは考えているということなので、おそらくそこには商品とのなんらかの関係性はあるんです。全体の筋道をつくるためにがんばってロジックをつくったりしますけど、そこ以外はほとんど感覚でやっちゃっていると思います。もっと言うと、これからの人に嫌われるかもしれないけど、今統合キャンペーンって流行ってるじゃないですか。ストラテジーからクリエイティブまでぜんぶを統合させてコミュニケーションを考える。僕はそれもやりますけど、ほんとうは自分のつくるものにしか興味がないんです。人間の感情が左右されるのはアウトプットとしての表現であって、戦略によって感情が左右されることはない。自分の感覚でつくるものが表現としてどうおもしろくなるか。僕はそこだけに興味があって、それをロジックに繋げられれば絶対にうまくいくという変な確信があるんです。なので、ロジックから構築するってことはほぼないですね。ただ不思議なもので、うまくいく時って、「こういうロジックを立てたのでこういう表現になりました」っていうロジカルな説明があとからできるんです。

P1020036.jpg

多田
感覚か論理かでいえば、感覚が先にあるのは間違いないね。でもわかんないな、俺あんまり頭がよくないから。でも、哲学みたいなものはあるかもしれない。絶対にやりたくないこととか、やっちゃいけないことっていうのは自分の中にある。さっきのふなっしーじゃないけど、流行っているからといって出てもらうとか。それは論理というより哲学的なものかな。でも、論理がないとクライアントに説明できないからね。「いやーこれがいいと思ったんです」じゃ、「帰れ」って言われるから。それはちゃんと説明できるようにはするけど。

澤本
今論理と言ってるものって、たとえば企画をする時に、Aという製品の特徴がBだから表現がCになるって意味ですよね。さっき多田さんがおっしゃっていたことに近いんですけど、今回はこれがやりたいということを論理の中心にすることはあります。たとえば就活で困っている若者に「がんばれ」と言いたい。その「がんばれ」という感情を中心に置いて強引に企画をつくってみる。論理というか、条件の付与にも近いんですけど、論理をそういうふうに使うことはあっても、AだからB、BだからCというふうに考えることはないですね。

多田
論理的に考えると、自分以外の人でもつくれる企画になっちゃうってことだよね。でも、自分の中に眠っている記憶とか感情を頼りにつくれば、それは自分だけのオリジナルな企画になる。でもね、脳ってそうなってるんだって。アイデアってお告げみたいに出てくるんじゃなくて、ずっと考え続けていると、眠っている時に脳が構築してくれる。だから自分では感覚的に思いついた気がするけど、脳が論理構築をちゃんとやってくれているらしい。

佐藤
ほかに質問はありますか?

質問者3
シアトルに住んでいるので、アメリカの広告と日本の広告をくらべるのが好きなんですけど、日本の広告主はガードが高くて、YouTubeの公式動画でもコメントができなかったりします。おふたりは世の中に出たCMの評価をどういうところで見ていますか?また、その評価によって次の作品を変えたりすることはありますか?

澤本
僕らってちゃんとした評価の軸がないんですよ。なんとなくまわりでザワついているのを評価と捉える時もあるし、子どもが学校で話題にしていることを評価と捉えることもある。自分のプライベートなところで評価を測っている感じで、統計的なデータを持っているわけじゃないんです。もちろん調査会社が調べたデータを知らされることはありますが、そのデータがほんとうに正しいかどうかなんて誰にもわからないじゃないですか。あと、評価によって広告を変えたりするのは、僕たちよりもクライアントの方々だと思いますね。

多田
俺はSNSってぜんぜんやらないけど、SNS上の評価をすごく気にするクライアントはいるよね。でも、それってSNSじゃなくてもなんとなくわかるんですよ、日本って小さいから。アメリカみたいに広大だと違うんだろうけど、自分がなんとなく響いているなと感じるものは世の中的にも響いているし、実際に商品も動くしね。

佐藤
では次で最後の質問にしましょうか。

質問者4
本日はありがとうございました。先ほどの多田さんのお話の中で、自分がいいと思う基準が厳しくなってきたとおっしゃられてましたけど、その中でもいいと思えるものにはなにか共通したものがあるのでしょうか?それと、多田さんと澤本さんはそれぞれNTTドコモとソフトバンクの仕事をされていますが、お互いの仕事をどのように見ていますか?

多田
昔はくだらないものが好きで、それは今でも変わらない部分はあるんだけど、どちらかといえば今はちゃんとした大人がつくるものがつくりたいかな。この前テレビで『若者たち』というドラマを見たんだけど、素晴らしいと思った。あれだけ演技のうまい役者を集めて、いいドラマをつくろうと思ったら、やっぱり誰が見てもいいものができるんだよね。ろくな台本もないのに視聴率を取れるってだけでタレントを集めてつくるドラマより、100倍いいものがつくれる。そういうことをCMでもやりたいと思う。ソフトバンクのCMをどう見ているかっていうのは、たくさんのことを言わないのがうらやましいよね。料金なら料金だけ。あの割り切り方はうらやましい。

P1010951.jpg

澤本
ドコモの今回のキャンペーンを見た時にすごくいいと思って多田さんにメールを送ったんです。ドコモがたまにああいうメジャーなキャンペーンをやってくると、ソフトバンクが刺激されるんですよ。そうすると、うちもなんかやろうというモードになる。でもあのCMについてちょっと思うのは、15秒が多いじゃないですか。あれ、無駄ですよね。(笑)ぜんぶ30秒にしたらいいと思うんですけど。立ち上がりを見た時、これヤバイって焦ったけど、15秒で展開していると意外とわかんなくて、大丈夫かもって。

多田
言っておくよ、澤本さんが無駄だと言ってたって。(笑)

佐藤
ということで、そろそろ時間になったので、これで締めましょうか。本日は多田さん、澤本さん、ありがとうございました。(会場拍手)

<おわり>