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2015.10.7
対談
IMG_8841.jpg
「TCC TALK LIVE」第一回目は本年度のTCCグランプリを受賞された多田琢さんとTCC賞を受賞された福里真一さん、照井晶博さんによる対談です。受賞作を制作された経緯や好きなコピーについてなど、コピーやCMプランニングについて内容の濃い会議が開催されました。


<桃太郎で最初に思い描いたシーン>

照井
進行役でもあります照井です。みなさん今日はよろしくお願いします。では、さっそく今年のグランプリの「ペプシネックス・ゼロ」のCMを見ていただきたいと思います。



照井
誰もが持っている疑問だと思うんですが、多田さん、これ、最終回までストーリーを考えているんですか?最後はどうやって鬼を倒すとか。

多田
いや、全然考えていない。

照井
考えてないんですか?(笑)

多田
というか、その方法が思いつかない(笑)。

福里
僕はキジ篇を4分間じっくり見ましたけど、どうやってカラスを倒したのか結局わかりませんでした。

多田
でも、どうやって倒すか見たい?見たらつまんないと思うよ。

福里
それもわかるんですけど、「4分もあったのに、そこは描かないのか!」って(笑)。

照井
この企画を思いついた時は、どんな感じだったんでしょう?かなり手ごたえあったんでしょうか? 

多田
いや、桃太郎を解釈し直すことを考えた時にはそんなに興奮しなかったんじゃないかな。それ自体はそんなにすごいことじゃないと思ったから。それよりもどういう世界観にしたらかっこよくなるかをディレクターの井口君と一緒に膨らませていく段階がいちばん興奮した。なぜイヌがイヌと呼ばれているのかとか、キジにはカラスという双子の兄がいることにしようとか。そしたら映像はこうなるな、みたいに。桃太郎を実写でやるっていうのは大して珍しい企画じゃないと思うんだよ。どこかの電話会社もやってるくらいだし(笑)。

CIMG5306.jpg

福里
CMプランナーという立場で言うと、「実写の桃太郎」という企画だけではうまくいくかどうかわからない。だから、うまくいくようにするために、ふつうのCMプランナーは話をおもしろくするとか、キャスティングをおもしろくする、みたいにしがちなんですね。大貫卓也さんみたいな人だと、アートディレクターの観点からこういう映像の世界観だからうまくいく、という判断ができると思うんですけど。そういう意味では多田さんは僕らみたいなふつうのCMプランナーとは違うタイプなのかもしれません。ADC会員でもいらっしゃいますし。

多田
自分では昔から「映像」が好きなタイプのCMプランナーだと思っていたよ。ストーリーを考えるのはもちろん好きだけど、セリフやストーリーよりも先にシーンが思い浮かぶことがあるから、さっき福里が言っていた大貫さんみたいなものもタイプとして自分の中にあると思うけど。

福里
例えばペプシでいうと、最初に思い浮かんだのはどのシーンですか?

多田
青空をバックに巨大な鬼がいるシーンかな。

福里
やっぱりそこなんですね。僕も最初にこのCMを見た時は「鬼でかっ!」という印象でした。

多田
とてつもなくでかい鬼が青空を背に立っている怖さ。そういうものへの恐怖は小さい頃からあった。哺乳類の図鑑でライオンやトラが並んでいる中にクジラのアップの写真が突然出てくる。それが怖くてしょうがないんだけど、つい見てしまう。巨大なものに対して恐怖と興味が交じり合う感じというのが自分の中にあって、このCMをつくる時に、あの時図鑑で見た怖さがいいなと思ったのかもしれない。

福里
僕も地元に「大船観音」という巨大な観音像があって、小さい頃は見るのが怖かった。でも、それをCMに生かすという発想はなかったですね(笑)。

照井
小栗旬さん以外の出演者はタレントじゃないですけど、最初からそういうつもりだったんですか?

多田
最初は全員ノンタレの可能性もあると思ってたんだけど、桃太郎を小栗君にしてよかったと思う。やっぱり小栗君がいると、開いた感じがあるんだよ。クライアントからもタレントを使って欲しいというリクエストはあったから、そこはその通りだと思った。

照井
「Episode.0」から始まって、イヌ、キジと登場人物にフィーチャーしていくと、サル役の人は当然「次は俺だろ」と思ってるでしょうね(笑)。

CIMG5419.JPG

多田
思っているよね。キジ篇では出るシーンが少ないんだけど、次は自分だと思っているから納得してた感じがあった(笑)。

照井
でもそこはあえて外すんですかね?

多田
それはわかんない。

福里
僕はまわりの人に「サルの時は絶対西遊記ネタが入ってくる」って言ってます。

多田
そういうこと言うなよ(笑)。実は最初の頃、どこかで金太郎を出そうかと思っててさ。トマホークみたいなものすごいマサカリが飛んできて、振り向くと金太郎がいるみたいな。でもそっちにはもう行けなくなっちゃった(笑)。

福里
某通信会社のせいで(笑)。

照井
浦島太郎がまだいますよ(笑)。

多田
だからそっちには行けないんだって。けど難しいよ、西遊記も今なくなっちゃったしさ(笑)。

福里
このCMって簡単に言うと、コカ・コーラを巨大な鬼に見立てているということじゃないですか。そこはクライアント的にどうなんですか?ライバルを自分よりも強いものと見立てることについて、サントリーはそういうのは気にしないんですか。

多田
むしろ喜んでるというか。向こうに挑戦するというのはずっと昔からペプシがやっていることだから。

福里
桃太郎の立ち上がりと同時期にペプシとコカ・コーラのストレートな比較広告みたいなのもやってましたよね。あれは桃太郎のシリーズをわかりやすくするという意味があったと思うんですけど。あれがあると桃太郎が何に挑んでいるのかがわかりやすくなりますよね。

多田
あれはむしろサントリーの方たちの意思が大きい。プロダクトに自信があるから、イメージじゃなくて商品のことをちゃんと言いたいって。僕らはイメージだけでもいいと思ってたんだけど、結果的にあれにすごく助けられたと思う。桃太郎だけだと、やりたいことやってるだけと思われたかもしれないから。



<BOSSのCMプランナーという重み>

照井
なるほど。では、次に福里さんの受賞作にいってみましょうか。


照井
歴代のBOSSでいちばん長く続いているのがこの宇宙人ジョーンズのシリーズなんですよね。今年で何年目でしたっけ?

福里
今年でちょうど10年目ですね。今見ていただいたのが9年目のものになります。

照井
多田さんもかつてBOSSをやられていましたよね?何年くらいでしたっけ?

多田
何年だろう。3、4年くらいかな。

照井
自分がやっていた仕事を他の人がやっているとやっぱり気になるものですか?

多田
めちゃくちゃ気になるよ。特にBOSSはね。BOSSは最初に佐々木(宏)さんと瓦林(智)さんがやって、途中で山内(健司)さんもやったよね。

福里
いえいえ、山内さんの前に、高杉治朗さんや、岡(康道)さんもやられてます。

多田
BOSSは成功させたら勝者になれる、そういう商品だからさ。すごく思い入れがあったというか、愛してたと言ってもいいくらい。担当しなくなった時は悲しかったし、その後はどうなるんだろう、誰がやるんだろうってずっと気になってた。でも、ジョーンズの後は苦しいだろうね。いつかジョーンズと決別しなきゃいけない時が来るわけじゃん。じゃ次はブラッド・ピットで宇宙人をやりますってわけにはいかないし。それをやるのが福里なのか別の人なのかわかんないけど、とても大きな壁になるよね。福里は思い描いてないの?この後どうしていくのかを。

福里
いや、次は僕じゃない予感がします。岡野草平さんあたりがやるんじゃないでしょうか(笑)。

多田
でも、福里が続けるにしても佐々木さんは「ジョーンズは卒業しよう」って言いそうじゃん。その時に何かイメージはないの?

福里
まったくないですね。僕はどちらかというとシリーズがずっと続くのが好きなんですよ。CMだと10年続くとものすごく長いって思われますけど、例えば「水戸黄門」とかは30年とか40年とか、「笑っていいとも」も30年くらい続きましたし。CMもテレビ番組と考えれば、長いのは他にいっぱいあるので、とにかく限界までシリーズを続けたいと思っています。

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照井
確かに福里さんは長いのが多いですよね。続くのがね。

多田
このシリーズって、最初は牛丼屋から始まったじゃん。俺あの始まりの感じはすごく好きだった。

福里
はいはい。

多田
でも、最近はけっこうサービスしてるよね。世の中と呼吸しながら表現を変えていくのはいいことだけど、最初の頃のトーンってもっとマイナーだったじゃない。

福里
そうですね。最初は宇宙人をジャック・ニコルソンがやるイメージだったんです。ジャック・ニコルソンが渋谷の街を歩きながら、「ろくでもない惑星だ」と毒づくんですけど、だんだん「でもいいところもあるかもしれない」みたいになっていく。今よりもちょっとネガティブなところから入る感じですね。

多田
そうだよね。ブラックな感じがして、そこが好きだった。でも、それだけだと苦しいから、だんだんサービスを入れていったわけだよね。

福里
だって最初はまったくウケませんでしたからね。多田さんがいいとおっしゃっている牛丼屋なんて世の中の反応はゼロでしたよ。これは短命で終わるなと思いました。でもトミー・リー・ジョーンズとの契約が残っていたので、その1年は続けることになって。その時に「この惑星の八代亜紀は泣ける」という、多田さんのおっしゃるサービスを入れたんです。そしたらちょっと反応が出始めたという感じです。

多田
俺も「人間動物園」というシリーズをやったことがあって、自分ではすごい企画と思ってたんだけど、閉じたまま終わっちゃった感じがあった。宇宙人ジョーンズも苦しむんじゃないかと思っていたら突然八代亜紀で開いてきたから、これはヒットするかもなと。

福里
ありがとうございます。

多田
「明日があるさ」の時はもっと早くヒットしていたよね。ジョージアの。

福里
「明日があるさ」は最初から反応がよかったですね。

多田
そうだよね。

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福里
そうなんですけど、その頃BOSSはまさにその「人間動物園」を展開していて、何か賢そうことをやっているなと思ってました。確かその翌年がコラボ企画ですよね?

多田
コラボも理解されなかったねぇ。

照井
それは意外です。

多田
自分の中の反応と世の中の反応がまったく違った。こんなにおもしろいことをやっているのに、みんなは冷めた目で見ているなと。

福里
いやいや、そんなことないですよ。当時は相当話題になっていましたよ。ただ、BOSSが賢いことをやっている一方で、「明日があるさ」はわりとあっけらかんとした感じでやっていたので、正直、こっちのほうが商品は売れちゃうかも、とは思いましたけど(笑)。

多田
コラボの時は商品もあまり売れなくて、がんばったわりには見返りが少なかったね。

照井
多田さんがBOSSを引き継いだ時に矢沢永吉さんを降ろしたじゃないですか。僕はそこがまずすごいと思ったんですよ。BOSSの顔の矢沢さんを引っ込めて、まったく新しいシリーズをやる。しかもあれって、ある意味ノンタレですよね。かなり勇気が要ったと思うんですが。

多田
あの時は自分が成功したいという思いしかなかったから。矢沢さんでやったら失敗はないかもしれないけど、成功しても俺の功績にはならないからさ。

照井
矢沢さんの継続は全く考えなかったんですか?

多田
考えなかったよ。佐々木さんもそこは任せるって言ってくれたし。

福里
でも、矢沢さんも最後は苦しくなってたところもありましたよね。

多田
ただ、例えばキリンの一番搾りも、緒形拳さんのシリーズはよかったと今でも思う。宇宙人ジョーンズもそうだけど、同じタレントで続けたほうがいいってこともある。商品とタレントのベストな組み合わせっていうのは確実にあるから、プランナーの欲だけで何から何まで変えちゃいけないと今では思うけど。

照井
欲とおっしゃいましたけど、今の多田さんの欲ってなんですか? 

多田
「俺が俺が」みたいなのはもうないけど、褒められたいってのはあるよね。それに尽きるんじゃないかな。褒められるためにやっていると言ってもいいくらい。

照井
もういっぱい褒められてるじゃないですか(笑)。後でお見せしますけど、過去20年でTCC賞は247作品あって、TCCグランプリを5ポイント、TCC賞を1ポイントとしてランキングを出してみたんです。TCCの佐藤さんにも協力していただいて、僕が。後で発表するので多田さんは何位だったか、予想してみてください。その前に福里さんの「バカまじめ。」を見てみましょうか。






<言葉からCMを考える>

照井
多田さん、ご覧になっていかがですか?

多田
これはテレビでふつうに見てたんだけど、見た瞬間にすごくいいと思った。「バカ」という言葉を広告のど真ん中に使ったのって、桃井かおりさんの「バカが多くて疲れません?」以来じゃないの。しかも日本郵便みたいな固いところがそれを受け入れたというのがすごい。「バカまじめ。」ってキャッチコピーがでかく入っているから力があるよね。今回のTCCの中でもいちばんよかったかも。

照井
福里さん、これは言葉から思いついたんですか?

福里
そうです。ゆうパックってイメージがほとんどないので、どういう人柄にしようかと考えたんですけど、郵便局ってやっぱり「まじめ」とか「融通がきかない」という声がすごく多いんですね。そこを無理に「じつはけっこうおもしろいヤツです」と言っても嘘っぽくなるので、まじめをどう言えば魅力的に伝わるかと考えました。で、ただ「まじめです」と言うより「バカがつくほどまじめです」くらい言えば好感をもってもらえるんじゃないかと。そこから「バカまじめ。」という言葉をまず思いついて、バカまじめを演じるなら松本人志さんがいいかなという感じ。ですから、わりと早めに思いついた企画ですね。

多田
これを見た時に、自分ならどういうCMをつくるか考えてみたんだよ。おそらく不器用な高倉健みたいな人が出てきて、不器用さを武器にしてまわりの人に好かれていく話を考えるだろうな。高倉健さんはもういないから、北野武さんとか大御所の役者さんでもいいんだけど、いずれにしても「バカまじめ。」みたいなコピーは出ないと思う。だいたい俺の場合はキャッチコピーで終わらないことが多いしね。企画を考えた後に、最後にいい言葉がついたらかっこいいだろうなってよく思うんだけど。福里はまず最初に言葉が思いつくわけだよね?

福里
この時はそうでしたね。

多田
ふだんからそうなの? 

福里
多田さんとまったく違うのは絵が浮かぶタイプじゃないってところですね。絵に弱いという自覚がものすごくあるので、セリフとかも含めた言葉から入ることがやっぱり多いと思います。ただ、「バカまじめ。」みたいないわゆるキャッチフレーズからというのはそんなに多くないかもしれません。

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多田
コピーライターから見て、こういう「バカまじめ。」みたいなコピーはどう思う?

照井
強いですよね。郵便局が言うとは思えないところが。福里さんってCMプランナーの中でもコピー発想というか、軸が言葉にある人ですよね。「バカ」という刺激的な言葉を使いながら最終的にちゃんと愛されるところまで持ってくる感じは、やっぱりうまいなと思います。多田さんはタイプが全然違いますよね。とはいえ、ペプシも「FOREVER CHALLENGE」とか「自分より強いヤツを倒せ。」とか企画のスケールに合った言葉が入ってます。あれは企画と商品と結びつける言葉を最後に考えたという感じですか?

多田
もっと早い段階からあった言葉だけどね。何か言葉がなきゃとは思っていたけど、言葉が最初にあったわけじゃない。

照井
「バカまじめ。」も「自分より強いヤツを倒せ。」もそうですけど、今年のTCC賞はわりと、CMでもコピーが最後に残るものが多かった気がします。一方で去年のグランプリのソフトバンクとか今年のauなんかもそうですけど、いわゆるキャッチフレーズがないものも受賞作の中にはある。TCCはACCとは違う価値基準を提示すべきなのか、そんな必要はないのか、多田さんは審査員としてどう考えますか?そんなにまじめにTCCのことを考える必要はないのかもしれないけど。

多田
いや、むしろそれをすごく考えるよ。そもそもグラフィックのコピーと映像の中のコピーを比べるのは不可能かもしれないと思うくらい難しいと思う。そんな中で受賞作の中のセリフひとつを取り出して、これが受賞の言葉ですと言われると、なんか違和感があるかな。もちろん昔の禁煙パイポの「わたしはこれで会社を辞めました」みたいな強いセリフはあるけど、全体のストーリーとセリフの構成がひとつになってCMが成り立っているわけだから、審査基準をあんまりガチガチに決めすぎると自分で自分の首を絞めることにもなりかねないしさ。じゃあ他にどんな方法があるのかといったら、それはわからないけど、もっと感覚的に判断してもいいんじゃないかなあ。

照井
今年、副審査委員長だった福里さんはどう思います?

福里
でも、実際は多田さんのおっしゃるような感じになっている気もします。言葉で選ぶと言っても、今年のグランプリはペプシです。「自分より強いヤツを倒せ。」というコピーが好きという人もいますけど、あのCMはやっぱり「桃太郎のCM」とか「鬼のCM」というふうに呼ばれているわけで、そういう意味では言葉が鬼に負けた結果とも言えますから。僕はTCCが言葉で選ぶという基準を持つことは正しいと思っていますけど、純粋に言葉で選ばれる時も、そうじゃない時もあるってことでいいのかなと。

照井
そうですよね。

福里
ただ、発表の仕方というのはまた別の難しい問題があるんですね。「ペプシの桃太郎のシリーズ」とか「ソフトバンクの犬のお父さんのシリーズ」という発表だとなぜそれが評価されたのかがわかりにくい。どういう内容のCMか、そのヒントになるという意味でもセリフや印象的な言葉を発表の時に取り上げるのはいいんじゃないかと思います。ただ、あくまでも「受賞コピー」ではなく、「受賞作全体を代表するコピー」という意味なので、そこは気をつけて発表した方がいいとは思います。

照井
ありがとうございます。では、次に僕の受賞作ですね。BIGです。


照井
多田さんがロト7をやられているので、競合になるんですけど。

多田
まさにド競合だね。このコピーって、考える時にどれくらい映像をイメージしているの?
 
照井
なぜかスタッフリストには記載がないのですが、BIGに関しては僕もCMの企画をやっています。今回の受賞者は僕と岡野君のふたりですけど、安達和英君と有元沙矢香さんという若いプランナーとCDの古川裕也さんを含めたチーム作業が基本です。BIGはこの前年に堤真一さんと真木よう子さんが出演するシリーズを展開していて、僕はそのシリーズをもうちょっと続けてもいいかなと思っていたんですけど、プレゼンしたらこの噂話シリーズが選ばれまして。BIGって確率的には宝くじより当たりやすいくじなんですが、とはいえ簡単に当たるものでもない。じゃあ買わなくていいかと思う人に、なんて言ったら買ってもらえそうかなと考えて、「まさか!はありえる。」というコピーになりました。CMは監督の真田敦さんによるところも大きいです。そういえば福里さんも昔ロト6をやっていましたよね。

福里
やっていたんですけど、多田さんとの競合で負けました。そのプレゼンの時、控室がタグボートと隣り合っていたんですけど、待っている間、隣の部屋から笑い声がずっと聞こえてるんです。多田さんと岡さんの高笑いが(笑)。

多田
プレゼン前にくだらない話をしてたね。

福里
高笑いのせいで僕らはプレゼンを前に極限まで萎縮させられて、それで負けたんです(笑)。



<過去20年でもっともTCC賞を獲ったのは誰?>

照井
ではここで、先ほどちょっとお話した過去20年のTCC賞ランキングを見てみましょうか。全274作品でTCC賞を1ポイント、グランプリを5ポイントとして計算したものです。じゃ、10位から発表します。

 10位:前田知巳さん

 9位:秋山晶さん 髙崎卓馬さん 東畑幸多さん

 8位:仲畑貴志さん

 7位:一倉宏さん

 6位:山本高史さん


照井
96年からの集計なので、もっと前から遡れば秋山さんや仲畑さんはもっと上になると思います。では続いて5位から3位まで。

 5位:山﨑隆明さん

 4位:福里真一さん

 3位:岡康道さん


照井
残るは誰と誰でしょうか。では1位と2位を発表します。

 2位:澤本嘉光さん

 1位:多田琢さん


照井
会場のみなさん、拍手の場面ですよ(笑)。

(会場:拍手)

照井
すごいのは多田さんのグランプリの数が半端じゃないんです。なんと5回。

福里
多田さんは一度に3つ獲ってますから。

照井
岡さんも3冠が一度ありますよね。

多田
今は確かそういう制度はないよね。一度に複数は獲れないんじゃなかったっけ。

福里
今はグランプリは1つという制度に変わってますね。でも、いくら枠が3つあったからって全部ひとりで獲る必要はないですよね(笑)。

照井
これだけ褒められると、賞なんてどうでもよくなってきませんか?

多田
そんなことないよ。先日、写真家の上田義彦さんと対談をしたんだけど、過去にどんなにいい写真を撮ってても、今の自分を幸せにしてくれるのは今の写真だけだって言ってた。賞もそれと同じだと思う。

福里
人間って悲しい生き物ですね(笑)。

多田
悲しいよ。失敗は積み重なるのに、成功は貯まっていかない。

照井
ちなみに熊のトロフィーの数で見ると、こういうランキングになります。

1位 澤本嘉光さん 19クマ
2位 福里真一さん 17クマ
3位 多田琢さん 12クマ
4位 安藤隆さん 11クマ
5位 仲畑貴志さん 10クマ
   山崎隆明さん 10クマ

照井
もうひとつ、過去20年の274作品中、佐々木さんの仕事は何個くらいあると思いますか?

多田
半分以上はあるかな。

照井
福里さんは?

福里
150とか?

照井
正解は51です。グランプリが11個でTCC賞が40個。

多田
意外と少ないね。

照井
いや、多いですよ。シェアでいうと19パーセント。

福里
すみません。僕が多めに言い過ぎて、感動が薄れてしまいました(笑)。



<好きなコピーベスト3>

照井
じゃ、次はそれぞれが選んだ、自分の好きなコピーベスト3を発表しましょうか。まずはグランプリの多田さんから。

 人間らしくやりたいナ
 トリスを飲んで
 人間らしくやりたいナ
 人間なんだからナ
 (サントリー トリスウイスキー)


多田
これは開高健さんのコピー。

福里
多田さんもリアルタイムで見てるわけじゃないですよね。

多田
うん。

照井
どういうところが好きなんですか?

多田
このコピーが好きなのは書いた本人の生き方が出ているから。開高さんの生き方がもともと好きなんだけど、開高さんがどういう思いで「人間らしくやりたいナ」と書いたのか。それを想像するとワクワクするし、すごく考えさせられる。やっぱり俺はその人の中から出てくる言葉が好きだな。

照井
なるほど。では、続いて福里さんのひとつ目。


 水性キンチョ−ル「つまらん」
 大滝:どうしてキンチョールは水性にしたんだ
 岸部:それは地球のことを考えて空気を汚さないように・・
 大滝:つまらん!お前の話はつまらん!
 NA:新しくなった水性キンチョール
 大滝:つまらん!


福里
このコピーが登場した時、すでに広告の仕事をしていたので、つくり手という立場で見て衝撃を受けました。「おまえの話はつまらん」と言われたら「ですよね」と言うしかない。すべての広告に対して向けられた恐ろしい言葉ですよね。僕は思わず口にしたくなったり、流行語になったりするようなコピーが好きなんです。

照井
福里さんは流行語大賞2回ですもんね。「明日があるさ」と「こども店長」。

福里
一応そういうことになっています。

多田
流行るものが好きなの?

福里
もちろん自分の好みもありますけどね。何かを思い切って言っているのが好きですね。「つまらん」みたいに。「あ、言っちゃった」みたいな・・・。

照井
では続いて、僕のひとつ目です。


 アップルコンピュータ「クレイジーな人たちへ」
 NA:クレージーな人たちがいる
 反逆者 厄介者と呼ばれる人たち
 四角い穴に丸い杭を打ちこむように
 物事をまるで違う目で見る人たち

 彼らは規則を嫌う 彼らは現状を肯定しない
 彼らの言葉に心をうたれる人がいる
 反対する人も 賞賛する人も けなす人もいる
 しかし彼らを無視することは誰にもできない
 なぜなら彼らは物事を変えたからだ
 彼らは人間を前進させた

 彼らはクレージーと言われるが私たちは天才だと思う
 自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが
 本当に世界を変えているのだから

 Think different.


照井
これはナレーションをスティーブ・ジョブズ本人がやっているバージョンもあるのでYouTubeで探してみてください。しびれますよ。僕自身がアップルファンということもあるんですけど。このコピーがすばらしいのは、単に気になる一言というレベルを超えた哲学だからです。アップルという会社の進むべき道を明確に示し、これから出す全ての商品がdifferentだと約束している。しかも、たった2語で。そこが本当にかっこいいと思います。やっぱりすべてのコピーは「Think different」じゃなきゃなぁと見るたび思わされます。でも、福里さんはこういうのあまり好きじゃなさそうというのも想像つきます(笑)。

福里
これ自体は嫌いではないんですけど、広告業界の人たちみんながこれを好きなところが嫌いですね(笑)。

照井
やっぱり(笑)。

福里
広告業界の人たちって、本当にかっこいいものが好きですよね。僕は「かっこいい」と思える感性が昔からないんです。小さい頃、歯を抜いた時にその神経も一緒に抜かれちゃったんじゃないでしょうか(笑)。

照井
でも、福里さんもiPhoneやiPadを使ってますよね。アップル製品を使っていることとこの広告は繋がっていると思うんですけど、そんなことはないですか?

福里
そんなこともなくて、むしろ自分には似合わないなぁと思いながら、便利なのでいやいや使っているという感じです。

多田
「Think different」ってアップルのオリジナルの言葉なのか、英語にもともとある慣用句なのか、俺はそこが気になる。もし日常会話でふつうに使われている言葉だったらそんなにすごいとは思わないかな。英語を使う人たちから見て、「Think different」という言葉はどれくらい新しい言葉だったんだろう。
フォルクスワーゲンの「Think small」は素晴らしかったけどね。

照井
なるほど。そこはどうだったんでしょうね。じゃ次は僕のふたつ目に行きたいと思います。


 ユーはいいなあ(サントリーウーロン茶)


照井
コピーライターの仕事を20年もやっていると、人の書いたコピーを見て、どうしてこういうコピーになったか、思考のプロセスがだいたいわかるんです。市場環境や競合商品を考えて、こうなったんだろうなって、なんとなく想像がつく。でも、安藤(隆)さんのコピーは「何だろう、これ?」っていうのが多くて、理屈で理解できないというか、ちょっとラリってる...って言うと怒られちゃうかもしれないですけど(笑)。ウーロン茶の名作はいろいろあるんですけど、わけがわからないけど気になるという、安藤さんにしか書けない素晴らしいコピーということで、これを挙げさせていただきました。

CIMG5389.jpg

福里
さっきも言いましたけど、僕は口で真似したくなるものが好きなので、その点「アーさんもご一緒に」も「それゆけ私」も「自分史上最高キレイ」も、間違いなくCMがそのコピーで呼ばれているわけで、そこが本当にすごいと思います。ただ、照井さんもおっしゃるように安藤さんのコピーはどうやって書かれたのかまったくわからない。だから勉強にならないんですよね(笑)。

多田
すごいのは空気感を言語化できているところだよね。雰囲気やトーンってふつう言葉にはできないはずなのに、それができているところが天才的だと思う。

照井
じゃ、次は福里さんのふたつ目。


 サントリーボスセブン「対談」
 伊藤:グローバルとかなんとか言ってるけどさぁ
    やっぱ日本って世界でなめられてんじゃない。
    いっぺんガツンと言ってやんなきゃ駄目よ、あいつらに。
 部下:あいつらにね。
 伊藤:オレだったら言っちゃうよ、ガツンと言っちゃうよ。
    オレ、そういうタイプだから...
 大統領:I'd like to hear your honest opinion.
 通訳:君の率直な意見をきこうじゃないか。
 大統領:Tell me GATSUN.
 通訳:ガツンと言ってみてくれないか。
 NA:缶コーヒーのボスセブン新登場
 大統領:Come on!
 通訳:さぁ。


福里
「つまらん」と同じなんですけど、やっぱりこれも「ガツン」って言いたくなるんですよ。「ガツン」なんてなんでもない言葉なんですけど、CMで使われることで急に言葉の力が湧き上がってくるというか。そういう意味でこのCMはすごかったですね。

照井
これは矢沢永吉さんから変わって一発目のCMですよね。

多田
クリントン大統領を使えるかどうかという問題があったから、すごくハラハラしたのを覚えてる。

福里
でも大丈夫だったんですね。

多田
大統領って肖像権はないけど人権はあるから本人がNGと言ったらダメだった。で、アメリカの大使館に確認しに行ったんだけど、すごくウケてさ。「おもしろいね、いいんじゃないの」って。それでも100パーセントOKってわけじゃないし、最後はクライアント判断だったんだけど、最終的にオンエアすることになった。ちょうどその頃クリントンのスキャンダルがあったから嫌がるかなと思ったけど、サントリーはすごいなと思った。

照井
じゃ続いてなんですけど、時間がないぞというメモが来ていますので多田さんの残りのふたつを一気に行っちゃいましょう。

 すでに見たものでなく、
 すでに繰り返されたことでなく、
 新しく発見すること。
 前に向かっていること。
 自由で心躍ること。
 コム・デ・ギャルソンは、
 そんな服作りをいつもめざしています。
 1997年春の服がそろいました。
 どうぞおでかけください。


多田
これはコム・デ・ギャルソンの川久保玲さんの言葉で、1997年春のDMに書いてあったもの。「すでに見たものでなく、すでに繰り返されたことでなく、新しく発見すること。前に向かっていること。自由で心躍ること。」というところがすごく好きで、仕事で弱っている時にこの言葉を見て、いつも襟を正している。

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照井
指針という感じですか?

多田
そうだね。かっこつけてこの言葉を選んだわけじゃなくて、額装してデスクの前に飾ってあるくらい好きな言葉。

照井
これ、多田さんだから似合うけど、福里さんが選んできたらちょっとびっくりするかも(笑)。では、多田さんのもうひとつ。

 あれはクルマだろうか。幻だ。(ホンダNSX)


多田
最後はやっぱり秋山(晶)さんのコピー。秋山さんは「時は流れない。それは積み重なる。」とかも好きなんだけど、このコピーは「幻」という言葉を使っているところが特に好き。この先コピーで「幻」って言葉は使えないなと思うくらい、俺の中では強い印象がある。秋山さんのコピーって広告コピーを越えて、詩というか、ひとつの言葉として感動する。最近思うのは、映画も小説も詩も、そして広告も、それぞれに触れたときの受け手の心の境界線が曖昧になるといいなってこと。表現を見て感動する心は結局ひとつしかないわけだから。さっきの開高さんのコピーもそうだけど、やっぱり表現の境界線を越えて、心を揺さぶるものが俺は好きだな。

照井
じゃ、福里さんの3つ目を。


 フジカラー 「お名前」
 岸本加世子:いらっしゃいませ。
 樹木希林:あの、これ、プリント、フジカラーでお願いします。
 岸本加世子:はい、出来上がりは、明日の夕方になります。
 樹木希林:お見合い写真なものですから、特に美しく・・・。
 岸本加世子:フジカラープリントでしたら、
       美しい人はより美しく、そうでない方は・・・
 樹木希林:そうでない場合は?
 岸本加世子:それなりに写ります。
 樹木希林:ああ、それなりにですか。それなりにネエ、ふーん。
 岸本加世子:あのぉ、お客さん、お名前は?
 樹木希林:綾小路だけど。裏の。小百合。知らなかった?
 NA:フィルムも、プリントも、フジカラー。


福里
みなさん何でシーンとしているんですか?(笑)

照井
会場の若い人たちは知らないんじゃないですか(笑)。

福里
これは1980年のフジカラーのCMで、当時「それなりに」というのが本当に流行ったんです。CMって商品を褒めるものと思っていたら、「それなり」ですからね。その言葉の際立ち方はすごかったです。

多田
これは俺も覚えてて、やっぱり衝撃的だった。家族でテレビを見てて、親も「おもしろい」って言ってたし。さっきの「つまらん」と同じで、「それなり」も身近にあるけど、ふだんは意識しない言葉だよね。そのおもしろさに気づくというのがすごい。

福里
多田さんの「ガツン」もそうですよ。「ガツン」は表現にひとひねり入っていますけど、3つに共通しているのは本当のことを言っている感じ。広告ってなかなか本当のことを言えないんですけど、本当のことを言ったほうがヒットするし、商品にもプラスになることが多いと思うんですよね。

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多田
そうだね。俺は、広告には心地よく騙されたいと思ってる。

福里
わかります。

多田
どうせ広告に騙されるなら、心地よく騙して欲しいと思う。それが福里の言う「本当のことを言って欲しい」ってことに近いのかもしれない。

福里
そうですね。そういうことだと思います。だから多田さんのでも本当のことを言ってるもののほうが好きで、トヨタのハリアーなんかは実際の商品に対して「ちょっとかっこよすぎだろう」って思うところもあるんです(笑)。

多田
それはさ、俺が俺自身に騙されたいんだよ。かっこいいものをつくって、自分に騙されるのが心地よくてしょうがない。

照井
最近はかっこいいのが好きになってきたってことですか?

多田
最近ってわけじゃないけどね。

照井
でも、最初の頃はかっこいいというより、むしろギャグっぽいのが多かったですよね多田さんは。「写ルンです」とか「アイシティ」とか。

多田
だからそれは変わってきたよね。ギャグっぽいものは今でも好きだけど、軽犯罪みたいなことをやってよろこぶ感じはもうない。年をとったというか、大人になったんだろうね。それとさ、昔は世の中にかっこいい広告がいっぱいあったよね。あの頃かっこいいことをやってなかったのは関西の人たちで、東京では唯一山内健司さんだけだった。俺は山内さんをすごく尊敬してたから、山内さんみたいなギャグを東京でやるぞと思っていた。でも今はかっこいい広告がないからさ。

福里
かっこいい広告が、空白地帯な感じはありますよね。

多田
他にないものが見たい。ただそれだけだね。今は番組も含めてテレビ全体がちょっと幼稚になっているから、意識的にそうじゃないものをつくりたいと思ってる。

照井
なるほど。そこは意識的なんですね。じゃ、僕の3つ目です。


照井
グランプリがペプシだからというのもあるんですけど。多田さん、今これを見てどうですか?

多田
これ見た時、「うわっ、これやりたかったのにやられちゃったよ!」ってものすごく嫉妬したのを覚えている。すぐに誰がやったのか調べたら大貫さんで、見るのも嫌なくらい悔しかった。

照井
これは大貫さんが博報堂を辞めて一発目くらいの仕事ですよね。ちょうどその頃僕は大貫さんと別の仕事をしていて、つくったばかりのCMを見せてもらったんです。コピーも何もないんだけど、ペプシを擬人化したメタリックのキャラクターが「シュワ〜」っていうだけで全部を語っているというか。とにかくすごく明快でペプシらしくてかっこいいと思いましたね。当時は博報堂の大貫さんと電通の佐藤雅彦さんがゴジラ対メカゴジラみたいな感じでしのぎを削っていましたよね。博報堂ではやっぱり大貫さんが神様のように崇められていて、「大貫さんがまたこんなのつくっちゃったよ!」って大騒ぎでした。僕はまだ入社2、3年目でしたけど、大貫イズムの影響というか余波をかなり受けて育ちました。福里さんはまた違う感想をお持ちかもしれませんけど。

福里
いやいや、すごく好きですよ。

照井
本当に?(笑)

福里
すごく好きですけど、これはペプシマンの材質とか走り方とか、ディテールまで思いつかないと成り立たない企画なので、多田さんとは違ってそんなに嫉妬はしなかったですね。

照井
もう別世界って感じですか?

福里
僕はフジカラーのお店で樹木希林さんが会話しているのをいかにおもしろくするかというタイプのCMプランナーなので。そういう意味では自分のできないことを気づかせてくれたCMのひとつかもしれません。

照井
福里さんはペプシマンみたいな、ワンビジュアルでセリフもないCMをやってみたいとは思わないんですか? 

福里
それをやるということは、演出家の方にすべてお任せして、僕はただそれを見守るだけってことになっちゃいますからね(笑)。


自分の仕事ベスト3

照井
では残りの時間で、3人の自薦の広告を見ましょうか。まずは多田さんからお願いします。






多田
この3つはもちろんペプシを除いて、ということだけどね。ここで選んだのは自分が好きなものというより、考え方の転機になったものって感じかな。ある時期、自分のつくるものが世の中とズレてるんじゃないかと悩んでたことがあってさ。TCCを休んでたのもその頃なんだけど、小田桐(昭)さんに相談したんだ。俺はてっきり企画の方法論とか「人間を見つめなさい」みたいなアドバイスをされるのかと思ったら、「クライアントと企んでないからですよ」って言われて、目から鱗が落ちた。確かにそれまで俺はクライアントを説得して自分のつくりたいものをつくっていた。でも、それだと本当にいいものはつくれないんだよ。ちょうどその後キヤノンの人から声をかけてもらってさ。俺、新入社員から7年間キヤノンの営業をやってたんだけど、その時その人にものすごくお世話になって、ものすごく影響を受けてる。同世代なんだけど今はずいぶん偉くなってて、十数年ぶりに声をかけてもらって、その人が本当によろこぶような、キヤノンにとって理想的なカメラの広告がつくりたいと思った。そういうイメージでつくることのできた最初の仕事がEOS70DのCM。ハリアーもトヨタの人が「一緒につくりましょう」って言ってくれてつくったもの。だから今は、「俺が俺が」みたいな意識がなくて、クライアントと一緒によろこびたいという気持ちでつくっている。そのほうが結果的にいいものができるんだよね。

福里
広告はやっぱり広告主あってのものですからね。

照井
では、続いて福里さん、お願いします。

福里
はい。





多田
最高新人賞のやつ、俺すごく好きだよ。毒があって。

福里
通販生活ですね。でも、それで仕事が来なくなったんです。

多田
今毒をやってみたいという気持ちはないの?あの方法論は今誰もやってないじゃん。

福里
そうですね。BOSSにはちょっとだけ入っている時もあるんですけどね。今ひとつ世間からは求められてない感じかもしれません。

照井
さっきから僕のところに、もう終わりですというメモが来まくっています(笑)。なので、僕の自薦の3本を紹介するのは諦めまして、そろそろまとめたいと思います。では多田さんからひと言お願いします。

多田
俺はしゃべり過ぎたから、最後は福里が締めてよ。

福里
あの、僕は昔から映像が好きだったというわけでもなくて、たとえば学校の教科で言うとどちらかと言うと国語が好きなタイプだったんですね。決して美術ではなくて、国語好きでした。そういう意味で言うと、TCCのような言葉で選ぶ賞があるのはすごくありがたいなと。カンヌとかいろいろありますけど、日本語しかわからない僕みたいな人間には、なんだかよくわかんないわけですよ(笑)。だから、日本にTCCがあって本当によかったと思いますし、僕以外の国語系の人々にとっても大事な存在なのではないでしょうか。ちなみに、多田さんはそんなTCCになぜか数年いらっしゃらなかったのに、去年戻ってきて、今年はすかさずグランプリを獲ってしまいました。僕のここ数年は何だったんだろうと思わなくもないのですが(笑)、そんなところもTCCのいいところだと思いますので、若い人にはぜひTCCを目指して欲しいと思います。

照井
そうですね、ここに集っている若いみなさんもどんどん応募してください。では、本日はここで終了させていただきます。多田さん、福里さん、それから集まってくださったみなさん、本当にありがとうございました。

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(おわり)