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《対談》TCC広告賞展2014 TCC TALK LIVE Vol.1
2014.8.9
対談
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「TCC TALK LIVE」、第一回目は
本田技研工業「Sound of Honda / 
Ayrton Senna 1989」のプロジェクトで今年のTCC賞を受賞した、保持壮太郎さん、キリーロバ・ナージャさん、そしてCDの菅野薫さんです。チームとしてこのプロジェクトをどう成功に導いたのかをそれぞれの立場から語っていただきました。また、当日のスペシャルゲストとして、髙崎卓馬さんも参加されました。

TCC広告賞展2014
TCC TALK LIVE Vol.1
『Sound of Honda / Ayrton Senna 1989』


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谷山
今年TCC賞の審査委員長を務めさせていただいた谷山です。今日は進行役を務めさせていただきます。グランプリを含めて12のTCC賞が決定しましたが、「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」でTCC賞を受賞したHondaチームのみなさんに来ていただきました。コピーライターの保持壮太郎さんとキリーロバ・ナージャさん、そしてこのプロジェクトのCDである菅野薫さんです。よろしくお願いします。今日はなぜ「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」の話を伺おうと思ったかというと、D&ADなどの国外の賞を総ナメにしているこのプロジェクトが東京コピーライターズクラブの賞に選ばれたというのは何かしらの意義があると思ったんです。TCCというのはコピーの賞なので、言葉を中心にしているわけですが、新しい仕組みを考えることも広い意味での言葉と考えると、この仕事はTCCに新しい風を運んでくれたのではないかと思います。今日はそのあたりのお話をぜひお聞きしたいと思います。そして今日髙崎卓馬さんが来てくれています。TCCの審査には審査員が推薦した作品をノミネートにできるワイルドカードという制度があるのですが、「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」をワイルドカードに挙げたのが髙崎さんでした。チームのメンバーとはまた違った立場からこの仕事を語っていただければと思います。

保持
このプロジェクトの概要を簡単に説明しようと思って、写真を一枚持ってきました。何かの折に撮影した写真なんですけど、この中にはADがいて、テクノロジストがいて、営業もいて、クライアントさんもいます。この写真がこのチームをとてもよく物語っていると思うんですね。職種に関係なくみんなで企画を出し合って、どうやったら形になるかをみんなで話し合う。そういう混成チームです。

菅野
このプロジェクトってかなりぶっとんだ発想から生まれたと思われるかもしれませんが、もともとは「Sound of Honda」というプロジェクトが先にあって、その派生プロジェクトという位置づけなんです。「Sound of Honda」では先にiPhoneアプリをつくりました。あらゆる回転数と速度でエンジン音を録音して、シンセサイザーみたいなソフトウェアをつくってアプリケーションの中に搭載する。すると往年の名車のエンジン音を聴きながらドライブができる。そういうアプリなんですけど、この中にアイルトン・セナのエンジン音も入っていたんです。「Sound of Honda」が先行して進んでいるとき、僕が企画書の中に「アイルトン・セナのテレメトリデータ(走行中のマシンデータ)にこのソフトウェアをあてると、アイルトン・セナの走行音が甦ります」みたいなことを書いてたんです。アプリとはちがう形でこのソフトは使えますっていうくらいの軽い気持ちだったんですけど、ホンダさんからおもしろいという反応をいただけたので、チームに持ち帰って「こういうことを思いついたんだけど、これをなんとかプロジェクト化できないか」という話をしました。エンジン音というのはホンダにとってすごく重要な、エンジニアリングの象徴みたいなものなんです。

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保持
このチームは万事がこんな感じで進んでいくんです。菅野さんのようなテクノロジストと呼ばれる人が技術的な観点でできることを投げてくる。投げられた僕たちコピーライターやADはどうやってそれを世の中に出せばいいかを考える。最初に考えたものは今とはぜんぜん違う企画で、たとえばおじいちゃんが乗せてくれたクルマの音を聴いて昔を思い出すとか、初任給で初めて買った中古のNSXの音を聴いて当時を思い出すとか、「音」を起点にそういうシーンを積み重ねて、最後にセナのお姉さんが走行音を聴いて、セナを思い出すというような企画でした。

菅野
セナは最後にちょっとだけしか出てこないんです。エンジン音に宿る記憶の物語をつくりたいという話を僕がしたら、こういう企画ができて、実際にホンダさんにも提案しています。

谷山
これはこれでいいCMになりそうな気もしますね。

保持
演出家を決めるところまで進んでました。そこまで進行していたのに、そのタイミングでバカンス明けの某ロシア人が企画会議に戻ってきたんです。

谷山
某ロシア人(笑)。

菅野
彼女は企画の佳境の時に休暇を取っていたんですよ。

保持
戻ってきた時に「この企画、もうけっこう進んでるよ」って話したら、ものすごく不服そうな顔をしたんですね(笑)。ナージャ、そのあたりのことを話してもらえますか。

ナージャ
バカンス帰りだとロシア人モードが抜けなくて辛口になる傾向がありまして(笑)、私がバカンスに出るまではエンジン音や過去のデータがメインだったのに、帰ってきたらすごくエモーショナルな方向に進んでいて、私はそこに共感できなかったんですね。

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菅野
そもそもナージャはセナを知らなかったんだよね。

ナージャ
はい、ぜんぜん知りませんでした。ソ連では資本主義国のコンテンツは禁止されておりましたので、F1なんてもうとんでもない(笑)。会議でみんながセナで盛り上がっているのを見ていたんですけど、私は話にぜんぜんついていけませんでした。でも、セナが走った記録が残っているという事実がすごく衝撃的で感動してしまいました。にもかかわらず帰ってきたらそれとはぜんぜん違う、オムニバスなエモーションの話になっていた。しかもお姉さんが出てきたりして「誰?」みたいな。ほんとうならもうちょっとやわらかく言うんですけど、バカンス帰りだったので「セナはどこに行ったんですかっ!」みたいに強く言ってしまって。データ自体が衝撃的なので、私はそこを立たせたほうがいいんじゃないかと思ったんです。

保持
その場では僕も意地になって「いや、これはこれでいいんだ」って反論して、企画会議は終わったんです。でもなんとなく気持ちが悪くてそのあとでナージャを呼び止めて「どういうこと?」って訊いてみた。そうしたらナージャが今話したことを包み隠さず言ってくれて。一応僕の方が先輩ではあるんですけど、そのくらいチームの関係はフラットなんですね。とはいえ、僕も指摘されて悔しかったので、もうちょっと考えてみようと思いました。最初に菅野さんが書いていた企画の種やセナの走行データに対して、正面から向き合っていないと思っていたところもあったので。その時にいろいろ考えなおして、鈴鹿サーキットにスピーカーをずらっと並べるという絵を描いたんです。再現されたセナのエンジン音が響いている場所としてどこがいちばんふさわしいかと考えたら、鈴鹿しかないと思ったんですね。次の打ち合わせにその企画を字コンテにして菅野さんに持っていきました。実現の仕方なんかまったくわかってなかったんですけど。

菅野
僕に見せる前に「怒られると思うんですけど」って言ってました。いつもは言いたい放題の人たちが(笑)。

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谷山
その字コンテをちょっと読んでもらえますか。

保持
「日没直後、まだ空に明るさがのこる鈴鹿サーキット。たくさんのエンジニアがコースの上に、1~2mくらいの間隔でスピーカーを並べて行く。全長6kmのサーキットに膨大な数のスピーカーが並ぶ。スタンドにはたくさんの観客が固唾をのんで見守っている。スタート付近に陣取ったエンジニアスタッフがスイッチを入れる。すると何もないスターティンググリッドから、けたたましいF1カーのエンジン音が鳴りはじめる。それは1989年、アイルトン・セナが鈴鹿サーキットを駆け抜けたときの音。当時のテレメトリ・データを解析し、実際に録音したエンジン音と組み合わせることで生まれたその音が、誰もいないサーキットの上を駆け抜けてゆく。スタンドの観客たち。ある人は無人のサーキットを見つめながらある人は目を閉じて、あのころのセナに思いを馳せる。『ドライブセンシングテクノロジーは24年前の記憶すら蘇らせることができる。』スタンドでなつかしげに耳を澄ますセナの姉、ビビアーニ・セナの横顔。」実際のナレーションとはぜんぜん違っていて、スピーカーを1~2メートルの間隔で並べるとか無茶なことが書いてあります。セナの姉にもまだこだわってる(笑)。

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菅野
ふだんは僕のことを「かおる~」呼ばわりしているこの人たちが、「怒られると思うんですけど」って持ってきたのがこの企画です。「アイルトン・セナの音を再現したい。そこに宿る記憶を甦らせたい」って僕が言ったことに対して、否定のできない真っ向の正論を出してきた。ただ、これを実現するのは論理的には簡単なんですけど、全長6キロという規模でやるのは相当に難易度が高いなと思いました。とはいえ僕も正論を突きつけられて「無茶言うな、バカ」とは言えなかった。正しいけど絶対に無理だろうとみんなが思っていることを実現してこそCDだろうって感覚があるんです。それでテクノロジストとして実現の可能性をみんなに話しました。実現の方法はすぐに思いついたんです。まず音に関しては澤井妙治君という昔からの仲間がすぐに浮かびました。彼とは以前、サラウンドで音を分解して声をつくるプロジェクトを一緒にやったことがあったんですね。それと、これはビッグプロジェクトになるから最強のメンバーで臨もうと思って、友だちの真鍋大度君に電話をしました。そしたら「セナ大好きだからやる!」ってすぐに飛んできた。監督も関根光才君に頼んで、もう同世代のツーカーの仲の人たちでやろうって決めたんです。

谷山
今までの話を聞いて、もうすでにかなり感動しているんですけど、そもそもは「Sound of Honda」というアプリの開発から始まっているんですよね。言ってみればクルマ好きのおもちゃ的なアプリから始まっているわけで、そこからのジャンプがすごいですよね。

菅野
「このアイデアは誰が考えたんですか?」という質問をよく受けるんですけど、始まりは「Sound of Honda」というアプリなんです。そこからのジャンプなので、みんなが「チーム」というのを強調しているのは、そういうことなんだと思います。

谷山
先ほどの話の中ではナージャさんのキャラもかなり重要ですよね(笑)。

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保持
重要ですね。じつは僕がこのチームに入ったのもナージャにアサインされたからなんです。やっぱりロシア人って裏で世界を動かしているんですよ(笑)。

谷山
TCCというのは基本的に個人賞なので、今回は保持さんとナージャさんが受賞者になっています。でもこのプロジェクトは全員でやった仕事なので全員を受賞者にして欲しいという話をスタッフのみなさんから聞きました。もちろんこれまでの広告の仕事だってチームの力はあったと思いますけど、今の話を聞いて特に強くチームを感じましたね。髙崎さんはこの作品をワイルドカードに選んで、非常に推していましたよね。

髙崎
ふだん僕らがつくっている広告や映像の可能性ってかなりやり尽くされた感じがあると思っていました。その中でもがいていると思っていた。でも、これは人をひとり蘇らせちゃっているんです。そこに体が異常に反応して、激しく衝撃を受けました。セナ、クルマの走行音、あらゆる人が好きだと思う要素が全部きれいに揃っている奇跡的な仕事です。すべてのパーツが美しくて完璧だと思います。だから世界中が認めるのもわかる。でもTCCは認めなさそうな気がしたんです。

谷山
たしかにTCCがいちばん認めなさそうですね。

髙崎
それが嫌だったんです。TCC賞にこれが入るか入らないかは僕の中ですごく大きかった。ここ数年TCCは言葉に賞を与えるという原点に帰って、TCCの見え方としてそれはよかったと思うんです。でも、そういう尺度で見るとこの仕事は100%無視されるだろうなと思いました。「どこに言葉があるんだ?」って。でも「Sound of Honda」という言葉がすべてを集約しているし、それを僕たちは「コピー」と感じるべきだと思った。コピーとは何かという話になるかと思いますが、僕にはこれはコピーなんです。普段仕事をしていてもこういう言葉の発見がその仕事のかなり大きな部分を決める。だから僕はTCCに対してワイルドカードを突きつけたような気がします。こういうのを無視しちゃいけないんじゃないかって。狭義のコピーを褒める限定された組織になるか、そうならないか、を見てみたかった。コピーという部分の賞にするか、コピーという機能の賞になるか。それと、進化や変化はこういうところから来るんだと思いました。山に登っていたら、この3人がヘリに乗ってやってきた感じ。俺は20年間一歩一歩進んできたのに、こいつらはヘリで飛んで来やがったみたいな(笑)。でも確実に高いところに登っているわけですよね。その高さを僕はコピーライターの視点でも賞賛したかった。だからすごくうれしかったですね。もうひとつ、僕たちの仕事は不確定要素をすごく恐れます。だからコンテやコピーを書く時はいつも先を読んで書く。プレゼンの段階では100%着地を計算している。実際にやってみないとわからない不確定要素があって、それによってジャンプするかもしれないけど、そのジャンプの幅さえもある程度は読みます。そういうやり方の中でクリエイティブの精度を上げることを20年やってきた僕から見ると、このチームは不確定要素が80%くらいある。失敗するかもしれないし、すごくヘボいことになるかもしれない。それと戦ったことも見逃せない。

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菅野
ほんとうにそういう可能性もありました。撮影から発表するまで3ヶ月くらいあって、僕が抱えていた時期があるんです。つなぎのパターンが何十通りもあったんですけど、真っ向から意見がわかれました。「俺は絶対納得してない」「わかんない」「もっと説明しろ」「こんなの出してもニッチ過ぎて誰にも理解できない」、いろんな人にいろんなことを言われました。最終的に頼むからこのまま行かせてくれということになったんですけど、「あいつは頭がおかしい」「菅野、調子に乗ったな」って言われることも自分では覚悟してました。

谷山
つなぎの話でいうと、実際の映像にアイルトン・セナの姿は一度も出てこないんですよね。

保持
一度も出てこないです。

谷山
そこを詳しく伺ってもいいですか。

菅野
オンボードカメラの映像があるのでそれをインサートで入れるとか、セナがホンダのロゴの入ったヘルメットをかぶるシーンで終わらせるとか、セナの過去の映像を使った方がいいというのが大勢の意見でした。実際につないでみたのもそのパターンがいちばん多いんです。

ナージャ
セナの名言を入れるというのも考えました。実際の彼の発言とかをいっぱい集めて。

菅野
映像が光と音だけなので余白があり過ぎるんですね。説明が足りないかもと不安に思っていました。このプロジェクトが発表された日も、フェイスブックとかに書かなかったし。

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保持
みんな黙りこんでましたね。

菅野
他人のことだとすぐにわかるのに、自分のことだとイジイジと悩む。なんだか恋愛みたいですけど、そこがこの仕事の素敵なところでもあり、恐ろしいところでもある。そんな苦しい時期を過ごしてました。

谷山
この前菅野さんと話をした時に、セナを出すか出さないかでものすごく迷ったと聞いて、「あれはセナが出てこないからクールなんですよ」って気軽に言っちゃいましたけど、たしかに僕がCDだったら迷うかもしれない。広告はわかりやすい方がいいという判断もありますからね。髙崎さんがCDだったらどうしますか。

髙崎
あの光こそがセナなので、映像で昔のセナを出したらせっかくの光がセナじゃなくなっちゃいますよね。

谷山
たしかにそうですね。

髙崎
この作品を見てひとつ思ったのは、僕は生で観た方がおもしろいものと映像で観ておもしろいものは違うって思って生きてきたんです。でもこれはそうじゃない。実際にサーキットで観ていた人は異常な体験をしたわけですけど、映像で観てもそれを感じられる。そこを共有できることに驚いたんです。もちろん何でもいいから生ですごいことをやってそれを映像にすればいいわけじゃないけど、生と映像を両立させている何かがここにはありますよね。それはいったい何なんだろう。

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菅野
古川裕也さんも髙崎さんと同じことを言ってました。プランナーの仕事というのは、企画コンテやオフラインの段階でほとんど勝負がついていて、そこから点数を飛躍的に上げるのは難しい。でも、君の場合は本番を迎えるまでまったくわからないよねって。僕は本番でリハーサルまでと違うものを出したりもします。そういう意味では一度しか起こらない事件を捉えているともいえます。

髙崎
表現ってある程度異常値がないとおもしろくなんないんだよね。わからないことを抱えながら走り切らないと異常なものはつくれない。設計図通りのものをつくっていたら、得体の知れないものにはならないから。

菅野
そうですね。試してみないとわからないことはあります。

谷山
そういえば、保持さんの字コンテには光は出てきませんよね。そこにすごい変化がありますけど、何があったんですか。

菅野
光は真鍋大度君のアイデアです。走行データという足跡からセナの走りを再現したい。でも音だけで軌跡を表現するのは無理じゃないかという話を大度君にしたんです。そしたら「光ですね」って。ホログラムなんかじゃなく、抽象的にやった方がいいというのが彼の考えで、それはまさにナイスなアイデアでした。

髙崎
あと思うのはやっぱりホンダっていうのがずるいよね。ホンダってすごくいいもん。

菅野
そうです、そうです。

髙崎
日本人にとって特別な会社だし、世界にも通じている。そこにセナがプラスされるわけだから、最強の武器を持って土俵に上がれる状態。その武器があったらテンションは上がるよね。真鍋君が即決する感じもよくわかる。

谷山
話を聞いて思ったんですけど、ふつうのCDだったらできるかできないかの判断を専門家に委ねるしかない。でも菅野さんみたいな人は迷いながらもどうやったらできるかを自分で判断できる。そこがやはりクリエーティブ・テクノロジストってことなんでしょうね。髙崎さん、僕らにはそういうことができるのでしょうか。

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髙崎
菅野に対してどうやって話をすればいいのかまったくわからなかったけど、保持の字コンテを見てちょっとわかった気がします。すごく高いところに球を投げれば、走ってくれる人がいるってことだよね(笑)。

保持
このチームは2011年くらいからずっと一緒にやっていて、やっとこういう形になったんですけど、アウトプットがムービーみたいなわかりやすいものじゃないこともあるんです。そういう時でも仕事の仕方は基本的に同じ。テーマがあったら技術的なことをまず菅野さんに聞いて、僕とナージャで何となく理解する。「何となく」っていうのが大事で、理解し過ぎると自分でブレーキを踏んでしまうんです。何となく理解して、企画をつくって菅野さんに投げるという感じですね。

菅野
たとえばの話をすると、ゲノムデータって解析がかなり進んでて、今おもしろい領域なんです。唾液からゲノムデータが解析できて、そのデータから人の骨格がわかる。それとフェイスブックなんかでも導入している顔認識システムを掛けあわせて何かできないかっていうお題を投げたりするんです。これはひとつのアイデアですけど、ポイ捨てのタバコに含まれている唾液から骨格を割り出して、フェイスブックから犯人を見つけるとか。ゲノムデータと顔認識というふたつの技術を合わせることで社会問題が解決できる可能性もあるわけですね。

保持
この3、4年くらい、毎週こんな話をしているんですよ。かなり頭のおかしいCDですよね(笑)。最初はどうやって仕事をしたらいいのかわからなかったんですけど、一緒にやっていくうちにあまり考えなくてもいいのかなと思うようになりました。企画打ち合わせの段階ではお互いにかなり無責任に球を投げ合うんです。無責任に投げ合ったあとにそれぞれが自分の持ち場に帰る。菅野さんはプログラマーに、僕やナージャはコピーライターとして定着を考えたり、プランナーとして監督と一緒にコンテを切ったり。ノールールで投げ合って最終的に自分の持ち場で定着させるという形がこの3年くらいでだいぶできあがってきた頃に、ちょうどセナのプロジェクトが動き出したんですね。

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谷山
こちらが話すことがないくらい理知的な話が続いて、オールドメディアの人間としてはドキドキしてしまいます(笑)。先ほど髙崎さんからもTCC賞が原点回帰しているという話がありましたが、とはいえそれはTCCの総意というわけじゃないんですよね。TCCの中でもひとりひとりの考え方ってわりとバラバラで、キャッチフレーズこそがコピーと思っている人もいれば、こういう仕組みも含めてコピーと思う人もいる。で、ちょっとだけ言わせてもらうと、僕も昔から言葉だけがコピーじゃないだろうと思っているんです。1991年という遥か昔ですが、JR東海で「消えたかに道楽」という広告をやったことがあります。大阪に「かに道楽」という有名な店がありますよね。そこにある巨大なカニがある日突然いなくなって、どうしたんだと思ったら新幹線で旅行をしていたという企画です。広告を流すのと同時に、実際にあのでっかいカニを撤去して、そこに「JR東海CM出演中」という貼り紙を20日くらい貼って。当時としてはそれなりに話題になって、テクノロジーの差は歴然としていますが(笑)、何かを起こすという意味では似たようなところがあるかもねという話をこの間菅野さんとして、勝手に親近感を感じました。

菅野
ちょっと思うんですけど、TCC賞という賞があって、コピーライターが重要な役割を占めているというのは世界的に見てかなり特殊だという気がするんです。海外でいえばD&ADという賞があって、それは「Design & Art Direction」の略なんですけど、デザインとアートディレクションの賞から始まって広義のアイデアを褒めるというふうに成長してきました。今ではその中にコピーライティングの部門もあって、そこでは作品の中にコピーがなければいけないし、コピーから先行したアイデアじゃなければいけないんです。コピーライティング部門だからそれはわかるんですけど、むしろTCC賞の「かに道楽が消えることもコピーじゃないか」という議論が不思議に聞こえるんですね。アイデアがよければ褒めるというというシンプルな原理に基づいた賞がどうして日本にはないんでしょうか。

谷山
TCCもいろんな流れがあって、一度年鑑から「コピー」という名前を外したこともありました。それがまさに1990年あたりのことかもしれません。その時に僕は「ローリングK」というコピーのない広告でTCC賞をもらっているんですけど、もしかしたらその頃がいちばんアイデアそのものを評価していた時期かもしれない。ただ、コアなアイデアを褒める賞が日本にあるかと問われると、そういう賞は存在しないかもしれない。それはTCCというよりも我々クリエイティブの人間全体の責任かもしれません。髙崎さんはどう思いますか。

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髙崎
僕がさっきワイルドカードをTCCに突きつけたというのは、そういう方向にシフトしていかないとTCCは10年後にニッチな賞になると思ったからなんです。それでもいいのかもしれないけど。もっと大きなところで何を褒めるのか。それとも特別なスキルを褒めるのか。そこをみんなが認識しないとなあって思っていました。新しい広告をつくろうとしていくと、なんだか応募しても難しい感じのものになるんですよね、最近とくに。そのズレは年々感じてはいます。コピーなのか、広告なのか、って言う論点にしてしまうこととは違う気がします。優れたアイデアに素晴らしいコピー。その両立がなされた表現には拍手をしたい。そういう場であってほしいなと。

菅野
TCCというのがひとつの賞としてあり続けるのは素敵だし、ギルドとしても素晴らしいと思います。日本語って誰でも書けるわけで、その中からちゃんと価値のある言葉を書ける人を見つけて、それを褒めるというのは、コピーライターという職業としてお金をもらうためにも重要だと思うんです。でも最近若いクリエイターから相談を受けるんですけど、今の若者って選択肢がありすぎて困ってるんですね。コピーを勉強した方がいいのか、プログラミングを勉強した方がいいのか。一方でカンヌは獲ったのにTCCの新人賞を獲ってないから営業に異動になる可能性もあったりして。

髙崎
TCCがどうのこうのとは関係なく、コピーは書けた方がいいと思います。というのは、言葉のスキルを持ってない人が、人を動かすことはできないと思うから。賞に関して言えば、無視できないものをつくるしかないと思うんですよ。カンヌは獲ったけどTCCの新人賞は獲れなかった。それはTCCに無視されないものをつくれなかったというだけの話。ほんとうにすごいものをつくったら誰も無視できないし、誰もが賞賛するはず。そこまで達していないのであれば、次の手を考えないといけないんじゃないかな。「俺を認めないお前らを、俺は認めない」みたいなことになっちゃうと自分の能力を矮小化するだけだと思います。TCCもADCもACCもそれぞれの価値基準があって、その中で世代交代やメディアの変遷に当然影響をうける。いつもそういう意味だと過渡期だと思うんです。まあ、みんながやられたなあと思う、圧倒的なものをつくること以外に僕たちが目指すべきものはないというか。部分を褒められるより、気持ちいいものをつくりたいから。

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保持
僕はコピーライターになって10年目で、名刺にもコピーライターって書いてあるんですけど、実際はコピーを書く仕事よりもCMとかインタラクティブの仕事の方が多いんですね。下の世代のコピーライターを見て元気がないと思うこともありますけど、コピーライターって楽しい仕事だし、言葉で物事を前に進めていくことは今後も絶対に必要だと思っています。だから狭い意味でのコピーライターにならない方がいいと思うんですね。ナージャもコピーライターですけど、やっている仕事を聞くといわゆるコピーライターとはぜんぜん違う。世の中の理解の方が遅れているので「なんでコピーライターの方がここにいるんですか?」って言われちゃったりするんですけど、その認識が変わっていくような仕事を僕らの世代がして、従来のコピーライター像を変えるというのが目標かなと思います。

谷山
今のような話を聞くと、コピーライターでしかも審査委員長という肩書がつく僕なんかは、保守派や主流派に思われてしまうんですけど、じつはTCCの中ではちょっと異端であると自分では思っているんです。

髙崎
そう思います。年鑑に掲載されている谷山さんの作品を見ると、ほぼすべてがラディカル。いわゆるコピーライターはこうです的なものに真っ向から立ち向かって来てますよね。すごく尖っている。

谷山
髙崎さんに言ってもらえると光栄です。

髙崎
濡れた言葉で濡れたことを言うんじゃなくて、カラッカラに乾いた言葉でチクチク刺すみたいな(笑)。

谷山
濡れた言葉は書けないから。

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髙崎
そんなことないじゃないですか。濡れたのもたまに書いてるし(笑)。そういうのはもうできる。そこから先に行く。という感じをずっと背中に感じてます。だから今のTCCってそんなラディカルな谷山さんが審査委員長をやるっていうのがすごくおもしろいと思うんですよね。

谷山
でも悩みもあって、今年TCC賞全体の応募数がかなり増えた割に、新人賞は微増に留まっているんです。いろんな理由があると思うんですけど、若者たちの目標として、TCC新人賞の魅力がなくなってきているんじゃないかなって。若い人から見たらまさに菅野さんやホンダチームみたいな仕事の方が輝いて見えて、「一行のコピーにこだっているTCCは今さらどうなの?」と思われているんじゃないか。そういう意味でも今年のTCC賞に「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」が入ったことは、TCCがそうじゃないことを象徴的に示していて、よかったと思います。ということで、なんとなく締めの言葉のようになってしまいましたけど、最後に、事前に募っていた質問に答えていただこうと思います。まずは、どんなオリエンがあって、どういうチームで臨んで、どういう話し合いをしたのかという質問が来ています。

菅野
オリエンに関して言うと、正確にはないんです。最初にオリエンがあって、いつまでに何案プレゼンして、そこからひとつを選ぶというスタイルではなく、ディスカッションしながら方向性を決めていくんですね。なので、このプロジェクトは他のクライアントに置き換えられないんです。先ほど髙崎さんが言っていた最強の武器っていうのはまさにそうで、トヨタには置き換えられません。何かの事件を起こしてそれを無理矢理クライアントの商品にくっつけるんじゃなくて、ホンダのど真ん中の、いちばんかっこいいところからジャンプする。それはホンダさんと毎日話しながら進めていく中でできることで、とても重要なファクターです。先ほどの保持君の写真の中にホンダさんの方がいたというのがまさにそういうこと。なので、オリエンがあってプレゼンをするというスタイルや、競合プレゼンにほんとうに意味があるのかは今後提唱していきたいですね。

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谷山
では次の質問に移ります。「大学を卒業していないのですが、コピーライターになるためにやっておくべきことをいくつか挙げてください」。おそらくまだ大学に在学中の方からの質問だと思います。保持さん、いかがですか。

保持
ちょうど今日開講されると聞いてますが、宣伝会議の谷山さんの講座に通うのがいちばんいいんじゃないでしょうか。

谷山
何ですか、その宣伝(笑)。

保持
いや、ほんとうに。10年前に僕がコピーライターになった時は迷うことなく先輩の仕事を見ていたわけですけど、今の人たちは難しいと思うんです。コピーの勉強をしなきゃと思いつつ、菅野さんみたいな人もいるので勉強するならプログラミングなんじゃないかと思っちゃう。とはいえ僕はそういうことは何かひとつ身につけてから悩めばいいと思うので、今までの歴史が形式知になっているコピーを学ぶというのはいいと思う。そういう意味で谷山さんの講座に通うというのがいちばんいいと思います。ナージャはどうですか。

ナージャ
はい、私も谷山さんの講座に通うのがいいような気がします(笑)。

保持
ちなみにナージャはどうやってコピーを勉強したの?

ナージャ
私はコピーライターとして配属されたんですけど、配属後に師匠からそんなにコピーを書かなくていいよと言われたんです。でもあまりに不安だったので80年代後半くらいの年鑑を写経しようと思って開いてみたんです。そしたら私の感覚とずれ過ぎていて、コピーがいいのか悪いのかぜんぜんわかりませんでした。80年代の日本の広告に載っている商品とかがもう衝撃的過ぎて。ウォシュレットとかが載ってましたから。

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谷山
「おしりだって、洗ってほしい。」じゃなくてウォシュレットに感動したんですね(笑)。

ナージャ
そうです(笑)。この不思議なものをどうやって広告するのか、コピーを読んで分析したりして。コピーがうまくなるかわからないけど、発想とか日本人の思考法みたいなことがわかったのは勉強になりました。

髙崎
捉え方がでかい(笑)。

ナージャ
切り口とか企画の発想とか課題の発見をするというのも大事だと思います。言葉を磨くことも大事ですけど、言葉の技術はコピーライターになってからでも学べる気がします。

谷山
ほんとうにそうですね。素晴らしい答えだと思います。では最後に菅野さんからもお願いします。

菅野
僕はもともと音楽をやっていて、そこでコンピューターのプログラミングや表現について学びました。その時、同世代に真鍋君や澤井君がいて、僕らはインタラクティブな表現で何かが変わると純粋無垢に思っていました。広告が変わるのか、アートが変わるのかわからないけど、とにかく何かが変わると思っていた。その時MAX/MSPというソフトを使っていたんですけど、それは楽器を演奏するソフトではなくて、楽器をつくるためのソフトみたいなもの。たとえば何かを触ったら音が出るってことを思いついたら、そんな楽器がなくてもMAX/MSPがあれば音が出せるようになる。要は表現の仕方自体をつくるソフトなんですね。僕らはそれにかなり影響を受けてて、セナのプロジェクトでも3人ともMAX/MSPを使っている。10年前に夢中になっていたことがある日なぜかぽーんと転がって、今広告の表現になっている。そのことに僕はすごく感動するんですね。だから髙崎卓馬みたいになりたいとか、宣伝会議の講座に通えば勉強になるんじゃないかとか、先人の真似をしている限りはその人を超えられないとも思います。自分がいいと思うもの、信じているものをやり続ければ、自分にしか得られないスキルがつく。それが何かの拍子に転がる可能性があるとしか僕には言えません。すいません、コピーの話じゃなくて。

谷山
菅野さん、ありがとうございます。では時間になったので、ここで終わらせていただきます。今日は僕自身もすごく勉強になりました。ホンダチームの保持さん、ナージャさん、そして菅野さん、ありがとうございました。

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(おわり)