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《対談》TCC広告賞展2014 TCC TALK LIVE Vol.3 『ズバリ!困っている人のためのアイデアとプレゼンのはなし』
2014.8.18
対談
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サントリーの「BOSS」とトヨタ自動車の「TOYOTOWN」で本年度のTCC賞を受賞され、『CMプランナー福里真一が書きました 困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』を出版されたばかりの福里真一さん。そして審査会場を爆笑の渦に巻き込んだキンチョウ「サンポール」でTCC賞を受賞された中治信博さん。TCCトークライブ3回目は受賞者のおふたりと司会進行役に岡本欣也さんをお迎えして、アイデアの発想法とプレゼンテーションの方法について話していただきました。


「サンポール」のアイデアとプレゼンのはなし

岡本
今回のトークライブの進行役を務める岡本欣也です。よろしくお願いします。今日は「ズバリ!困っている人のためのアイデアとプレゼンのはなし」というテーマで進めていきたいと思いますが、最初にTCC賞を受賞されたおふたりの作品について、お話を伺いたいと思います。まずは中治さんの「サンポール」ですが、福里さんがご覧になっていかがですか。

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福里
審査員というのはライバル同士でもあるので、作品に対して全員がすごく否定的といいますか、「絶対に票を入れないぞ」くらいの気持ちで見ているわけです。(笑)それでもおもしろいものには票を投じてしまうのですが、その時も「入れたくない。でも入れざるを得ない」みたいな気持ちで票を入れている。まさに中治さんの受賞作は、その最たるものでしたね。最初は「入れないぞ」と思って見ていたのですが、何曲も畳み込まれているうちに「うーん、入れざるを得ない」と。非常に汚い手を使っています。(笑)

岡本
サンポールはTVCMとウェブムービーで受賞されていますけど、ウェブムービーの方は4分以上あるんですよね。

<大日本除虫菊 サンポール サヨナラの文字篇>


中治
キンチョウさんへのプレゼンはわりとアバウトで、5案くらいプレゼンした中に歌詞案を入れていたんですけど、その段階ではそんなに完成度がよくなかったので、「この案に決まったらもうちょっと考えます」と言っていました。結果的に歌詞案になったので、あらためて歌詞を考えることになったんです。電通関西の古川雅之君というプランナーとつくっているんですけど、ふたりでやっているから数だけはいっぱいできる。それで全部で5本仕上げたら、1本しか流してくれなかったんですね。残りの4本がもったいないなと思って、編集し直したのがウェブムービーです。

岡本
では最初からウェブムービーをつくろうと思っていたわけじゃないんですね。

中治
まったく思ってなかったですね。4分以上ありますけど、2カット追加しただけで、あとは15秒CMと同じカットを使っています。絵も関西支社の藤井亮君というADが書いていて、劇画調の絵も彼のアイデア。だから外注をほとんどせずにつくれたんです。

福里
歌詞はどうやってつくっているんですか。パッと思いつくんですか?

中治
年末にオリエンを受けて、年明けに仮編を上げるというスケジュールだったのかな。歌詞を考える時間が10日間くらいあったので、思いつくままに書き溜めておいて、その中でいくつか選んで実際に歌ってみたという感じです。

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福里
昔の強情な友だちが「今は大統領」っていう歌詞がありますけど、すごい展開ですよね。(笑)

中治
なんで大統領なのか、じつは自分でもわかってない。(笑)あの歌詞は「あんなに黄ばんだ便器なのに白いと言い張った君が」までは最初に浮かんだんです。

福里
やっぱりそこで一回止まるんですね。

中治
最初はたぶん違う言葉が入っていたと思います。でもよくなかったので、違和感のある言葉を探していたら、なぜか「大統領」という言葉が浮かんだ。ないと思いながらも一応歌ってみたら古川君が「いいじゃないですか」と言うんですね。最終的に「サヨナラ」とどっちをオンエアするかまで残ったんですけど、大統領に特に理由なんかないんです。(笑)

福里
大統領ってことは日本じゃなくなってますよね。

中治
一応ハワイに留学していた時にオバマ大統領の同級生だったという設定があるんです。(笑)

福里
僕は大統領の歌詞がいちばん好きかもしれないです。でも商品への落とし込みは「サヨナラ」の方がいいですね。

中治
そうですね。

岡本
中治さんはキンチョウさんと長いですよね。特別な関係があると思っていたので、今の話を聞いて5案もプレゼンしているのが意外でした。

中治
ほんとうはいいものが3案くらいあって、どれを選ばれてもいいというのが理想ですけどね。

岡本
自分たちがやりたいものを猛烈に推すわけじゃなくて、わりとフラットに提案しているんですね。

中治
明らかにいいと思うものができた時はそんなに数をつくらないでおすすめを提案する場合もあります。ただ、自信のない時もあるので。

岡本
今回は自信がなかったんですか?

中治
そうですね。あんまり大きな声では言えないけど、実際につくってみないとどうなるかわからないですからね。便器のキャラクターが黄ばみについて歌うということだけは決まっていたんですけど、あんな感じのキャラになるとは思ってなかったですから。

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岡本
プレゼンの段階ではかなりラフにつくっていますよね。そこは信頼関係があるからできる感じですか。

中治
キンチョウさんも「どうせこのままつくるわけじゃないだろう」と思っているところもあります。途中段階はラフでも、最終的な仕上がりがよければいいし、逆にコンテどおりにつくってもダメならダメだし。

岡本
ちなみにあの歌は中治さんご本人が歌われているんですよね。

中治
そうです。(笑)

福里
非常に汚いというのはそこです。(笑)審査員はみんな中治さんのことは知ってますからね。しかも、なぜか中治さんは審査を欠席しているんですよ。ただでさえおもしろいのに、その場に中治さんがいないことでますます笑いを誘うという。

岡本
僕もあの欠席には意図を感じました。(笑)


「BOSS」のアイデアとプレゼンのはなし

岡本
では続いて福里さんの受賞作の話に移りたいと思います。福里さんは今回、サントリーの「BOSS」とトヨタ自動車の「TOYOTOWN」で受賞されています。まずBOSSの話から伺っていいですか。

サントリー BOSS コンサート篇>

福里
宇宙人ジョーンズのシリーズが始まって今9年目なので、あらためて語ることもないんですけど、一応今日のテーマが「アイデアとプレゼン」なので、この企画の成り立ちの話をしようと思います。いろいろなところでしゃべっているんですけど、ニュース番組を見ていると暗い気持ちになるとつねづね感じていたことが企画のきっかけです。ニュースって殺人事件とか環境破壊とか人間のひどい部分ばかりを報じていますよね。そんなものばかり見ていると暗い気持ちになるので、逆に人間のバカバカしいけど愛せる部分を報じるCMができないかと思いました。そうして生まれたのが、宇宙人が地球を調査するシリーズです。9年もやっているので、飽きられないような工夫を毎回していて、今回でいうと引退したばかりの高見盛さんを出すとか、SMAPさんを出したりしています。SMAPって批判は一切許さない大物タレントみたいに思われてますけど、「下手に歌ってください」みたいなお願いもちゃんと聞いてくれるんですよ。

中治
ほんとうにそう頼んでいるんですか、中居さんに。

福里
正直に「ちょっと下手に歌ってください」って。(笑)

岡本
そんなお願いがよくできますね。

福里
はい。このコンサート篇もたしかにSMAPの歌や踊りにつっこむ内容にはなっているんですが、もうひとつ別案もあって、SMAPのメンバーが牢獄にいるという企画も考えたんです。それに比べたらコンサート篇の方がぜんぜんいいと思われたのかもしれません。(笑)SMAPのメンバーが5人揃って出る設定って意外と難しいんですね。SMAPがそのままSMAPとして登場するときに5人揃うというのは当然ありうるわけで、それが今回のコンサート篇なんですけど、それ以外に自然に5人が揃うとしたら牢獄かなと。たまたま囚人として知り合った5人が出所後にバンドを始めるという企画でした。

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岡本
どうしてそういう企画を遠慮せずに提案できるんですか?

福里
小さい頃から愛されて育っていないので、嫌われるとか、その場の空気を悪くするとか、そういうことが苦にならないんですね。(笑)

岡本
中治さんはBOSSをすごく褒めてましたよね。

中治
そうですね、やっぱり完成度がすごい。9年もやってるわけですよね。ふつう、シリーズものって1年目がいちばんよくて、2年目はその7掛けくらいになっちゃうんですよ。3年目にちょっと持ち直すことはあっても、あとはよくて横這い。BOSSは全体で見ても、右肩上がりで続いていると思います。そこはやっぱり完成度の高さだと思う。

岡本
たしかに審査会で見ても、そろそろダメになってきてもいいんじゃないかと思うのに、ぜんぜんクオリティが下がってないんですよね。


TOYOTOWNのアイデアとプレゼンのはなし

岡本
では「TOYOTOWN」の話に移りましょうか。このシリーズはどういった過程で始まったんですか?

トヨタ自動車 TOYOTOWN 住人たち篇

福里
もともとトヨタの企業広告として、ビートたけしさんと木村拓哉さんが東北を旅する「ReBORN」というシリーズがあって、それはまさに「生まれ変わる」をテーマに展開していました。でも、企業広告だけが生まれ変わっても、ひとつひとつのクルマの広告が今までと同じだと、ほんとうに生まれ変わった感じにならない。という悩みを某佐々木宏という人が抱えていまして。今後も企業広告だけをやり続けていくか、クルマの広告にも手を広げていくか、という相談を受けました。僕は力強く「企業だけをやりましょう」と言ったんです。ところが、CMの撮影現場で佐々木さんは暇だったみたいで、「福里さぁ、すごいこと思いついちゃった」と言って、トヨタの広告に出ているすべてのタレントが同じ街に住んでいるという設定を思いついてしまった。たまたまその場にいたのが僕だったので、成り行き上、僕がプランナーをやることになってしまったんです。もしそれがソフトバンクの現場だったら今頃澤本さんがTOYOTOWNをやっていたと思います。(笑)

岡本
いろいろと大変だったんじゃないですか?

福里
みなさんも薄っすらわかると思いますが、まあいろいろと大変でした...。(笑)僕の立場で言うと、クルマの訴求やハイブリッドのことを説明しながら、たくさんの人たちが出てくるストーリーをまとめなくちゃいけないわけです。「いいこと思いついたから、あとはやれ」って言うのと、具体的に考えるのはぜんぜん違うんですよ。(笑)ただ、この企画に関して言うと、樹木希林さんがハイブリッドの樹になって、樹の目線で街のことを語るという仕組みを考えた時に、なんとなくまとめられそうだなと思いました。

岡本
複数の物語が平行して進んでいるところが壮大です。

福里
もうひとつ大変だったのは、「トヨタの街」というと明るいハッピーな街みたいになりがちなんですね。でも、ただハッピーなだけだとトヨタが生まれ変わったという感じにならない。そこで佐々木さんから「『デスパレートな妻たち』みたいな話をつくれ」というディレクションがありました。「デスパレートな妻たち」というのは、ある街を舞台にいろいろな秘密を抱えた住人たちの人間模様を描いたアメリカのテレビドラマなんですけど、「ああいう感じにしろ」と。それでちょっと不可解というか、ミステリアスなストーリーにしなくてはならなくなりまして、それも考えるほうは大変でしたね。CMのロケも実際に「デスパレートな妻たち」を撮影した街でおこなっています。

中治
これは60秒もつくっていますよね?

福里
そうですね。必ず60秒はつくるようにしています。

中治
60秒でシリーズをつくると、ふつうは一話一話で完結させると思うんですけど、なぜそうしなかったんですか?

福里
その理由がまさにデスパレートっぽくするためということで、あのドラマは一話一話がかならず謎で終わって、次回はどうなるんだと思わせる仕掛けになっています。さらにシーズンがいくつもあるんですけど、シーズンの終わりにすごい謎が出てきて、次のシーズンにつながっている。つねに次を見たくなるような工夫がほどこされていて、そういうふうにしようとしているんです。

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中治
ただ、視聴者にとってはそこが謎なわけですよね。

岡本
中治さん的には、それはいい意味ですか?それとも悪い意味?
 
中治
そういうものがあってもいいとは思うんですけど、その場合は60秒に絞った方がよかったんじゃないかと思いました。30秒だとやっぱりちょっとわかりにくくなりますよね。

岡本
そこに関しては僕も正直言うと、ちょっと難し過ぎるんじゃないかなと思いました。つくり手の目線で見るとよくこんなことが実現したなと思う反面、視聴者としては難しく感じるところもある。そんなふうにちょっと批判的な眼差しで見ている部分もあるんですけど、それについて福里さんはどう考えているんですか?

福里
すべて佐々木さんに言ってください。(笑)

岡本
(笑)

福里
ただ、トヨタのハイブリッドカーたちがバラバラではなく、ひとつのトーンの中で語られる、しかもそれがミステリアスなトーンで、というのは今までになかったやり方だと思うので、そこは志の高さとして評価されてもいいのかなと。

岡本
たしかに相当な志というか、相当チャレンジャブルな構想ではありますよね。

福里
この仕事において重要なのは、トヨタの豊田章男社長と佐々木さんの信頼関係の上に成り立っているということですね。震災のあとに佐々木さんがサントリーで「歌のリレー」というCMをつくって、それを見た豊田章男さんが「このCMをつくった人に会いたい」と言って始まった関係です。そういう流れがあるので、通常の仕事の仕方からは絶対に生まれていないと思うんです。

岡本
佐々木さんと福里さんがふたりいる場合、プレゼンはどのようにしておこなっているんですか。

福里
トヨタの場合は、今言ったような、少し特殊な成り立ちの仕事なので、プレゼンは佐々木さんにおまかせしています。それ以外の仕事は、たいてい、基本的に僕がプレゼンして、終わったあとに何か議論になれば、佐々木さんがしゃべるという感じでしょうか。たとえばクライアントに「ここは直した方がいいんじゃないですか」と言われて、僕が「いや、そこは直さない方が・・・」みたいに言っていると、佐々木さんが横から「直した方がぜんぜんいいと思います」みたいな。(笑)あと、もっとたちが悪いのは議論の最中に「その議論自体がナンセンスだと思います」みたいな感じで上から言ってくる。佐々木さんはそういうのがすごく得意な人です。(笑)

岡本
なるほど。

福里
悪口じゃないですからね。(笑)佐々木さんはその場でしゃべりながら考える人なので、僕がプレゼンした反応を見ているうちに、自分の考えが固まってくるんじゃないでしょうか。

岡本
事前に考えを用意しているようなクリエイティブディレクターではないんですね。

福里
そうじゃないかと思います。それにしても、今日は今のところTOYOTOWNを褒める意見がひとつもないんですけど。(笑)

中治
いや、いい部分ももちろんあって、いちばんのポイントはCMがわかりやすくなくてもいいと定義した点だと思います。わかりやすくなきゃいけないとみんな思ってるわけじゃないですか。

岡本
でも、福里さんは今回の本の中で「広告はわかりやすくなければいけない」って書いてますよ。(笑)

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福里
ただ、同時に「その時求められていることに対応するのが職人肌のプランナーである」ということもちゃんと書いています。(笑)

岡本
なるほど、そういうことだそうです。


新人賞のアイデアとプレゼンのはなし

岡本
では続いて、おふたりの新人賞の話に移りたいと思います。中治さんが新人賞を受賞したのはいつですか?

中治
1990年くらいだったと思います。32歳くらいの時かな。

岡本
そんなに早くないですね。

中治
ぜんぜん早くないです。電通に入って2年目の春に関西支社に転勤になって、そこから7年間ずっとコピーライターをやっていたんですけど、まったく芽が出なかった。当時は松下電器を担当していて、カタログとかをつくっていました。そのあとに当時の関西支社の大スターだった堀井さんのところでプランナーをやらせてもらうことになって、キンチョウの担当になりました。で、2本目につくったCMで新人賞をいただいたんです。

大日本除虫菊 ハイサッサ劇場デュエット篇>

岡本
大日本除虫菊ハイサッサのCM「ハイサッサ劇場デュエット篇」で受賞されていますね。いきなり上手につくれたんですか?

中治
モンティ・パイソンというイギリスのギャグ番組がありますよね。そのビデオを石井達矢さんが持っていて、カップルが音痴なラブソングを歌うというネタがあったんです。

岡本
僕なんかから見ると、中治さんは初めから恵まれた環境にいたイメージがあるんですけど、不遇な時代もあったんですね。

中治
いや、もう、長かったですね。

岡本
福里さんも20代はかなり不遇な時代を過ごしていますよね。

福里
それは株式会社電通という会社が僕をまったく評価しなかったからです。(笑)でも、ほんとうのことを言うと、電通が悪いというより、僕があまりにも感じの悪い新入社員で。そういう若者って基本的に嫌われるんです。

岡本
どんなふうに感じが悪かったんですか?

福里
というか、他がみんな感じのいい若者ばっかりなんですよ。(笑)前向きで明るくてハキハキしている。そんな若者たちを見て、これはもう無理だと思ってしまったんですね。

<カタログハウス 通販生活 手帳 ほか>

岡本
そんな中、通販生活のTVCMで最高新人賞を受賞されます。これはかなりの衝撃作でしたけど、仕事には恵まれていたんですか?

福里
通販生活に関しては出版元のカタログハウスという会社の社長さんがかなり変わった方で、電通が何案プレゼンしてもぜんぜん決まらない。たまたま僕が同じ局にいたので「あそこで暇そうにしている暗い感じのやつにも考えさせてみよう」ということになったんです。

岡本
メインのプランナーではなかったんですね?

福里
もちろん、ぜんぜん違います。プレゼンにも行ってませんし。たくさんの案の中から、僕の出した案をたまたま社長が気に入っただけです。そのあとに呼ばれて、社長にあいさつをしたら、「君は通販生活のことを心底バカにしている。そこが気に入った」と言われて。(笑)ただ、僕の企画が通ったのはこの一回だけで、その後もプレゼンは何度もしているんですけど、一度も通ってないです。

岡本
最初の一回で終わっちゃったんですか。

福里
そうです。

岡本
今日のために福里さんの本を慌てて読んだんですけど、本の中に自分らしさを求めて企画をしていた時期と、その後自分には才能がないと開き直った時期のことが書いてありました。それでいうと、通販生活はどっちなんですか?

福里
明らかに自分らしさ全開の時期ですね。

岡本
じゃあ、自分らしさ全開でやった唯一の成功例ということになりますね。

福里
成功というほどではないですけど、そうですね。TCCの最高新人賞もいただいたので、これでいいんだと思ってしまいました。俺はやっぱりこういう暗い企画が得意なんだと思って、そこからまた3年か4年くらい迷走の期間が続くわけです。本にも書いたんですけど、自社のCMが暗くてひねくれている方がいいと思っている企業なんて、日本に1社もないんですよ。カタログハウスの社長はたまたま変わった方だっただけで、基本的にはそんな会社は1社もないわけです。当然の話なんですけど、30歳になってやっとそのことに気づいたんですね。

岡本
なるほど。今日は一応僕の新人受賞作もあるんですけど、時間がないのでこれは飛ばしましょうか。

中治
いやいや、見ましょうよ。

岡本
ではちょっとだけ見ていただきます。NTT-MEという会社の「社長電話相談室」という新聞広告です。10段だったかな、とにかく小さな広告でした。

社長電話相談室.jpg

福里
社長からの相談がいっぱい書いてあるんですね。

岡本
そうです。社長ってなかなか相談相手がいないので。

福里
そんなコピーを書いていた岡本さんが今やオカキンという会社の社長になられています。(笑)ふたつもオフィスを構えて、ビジネスマンとして大成功を収めている。(笑)

中治
ここにある社長の相談の言葉はぜんぶ自分で考えたんですか?

岡本
そうです。ぜんぶ自分で書いた初めての仕事でしたね。30歳くらいの時でした。

福里
岡本さんは岩崎俊一さんの事務所にいたわけですけど、デビューする時って「おまえにまかせるよ」という感じなのか、それとも岩崎さんと一緒に考えた上で自分のコピーが採用される感じなのか、どっちですか?

岡本
「この仕事はおまえにまかせる」と言われたことは15年間で一度もありませんでしたね。もちろん、直接僕に来た仕事はひとりでやりますけど、岩崎さんに来た仕事は基本一緒に考えてました。その中で時々僕のコピーが選ばれるという感じですね。若い頃は特に。

福里
自分のコピーが選ばれるコツってあるんですか?

岡本
ひたすら書くことで選ばれる確率を上げるくらいですね。若い頃は岩崎さんと面と向かって会話もできなかったので。岩崎さんからは「考えを言え」とよく言われてました。どういうことを考えて書いたのかを説明してからコピーを出せと。そういう癖がついたので、その後プレゼンの場なんかでもすごく役に立ちました。


「困っている人のためのアイデアとプレゼンの本」のはなし

岡本
ということで、だいぶ時間がなくなってきたんですけど、今日は福里さんから『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』について、猛プッシュをして欲しいと言われています。(笑)

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福里
そうなんです。わたしの書いた本が最近出まして、じつは今日編集者の方も会場に来ているんです。おまえに本を書かせてやったんだから宣伝活動をしないとダメだと、厳しいプレッシャーを受けておりまして。印税が欲しいとか、決してそういうわけではありません。(笑)よろしければ、おふたりから感想などをいただければ幸いです。

岡本
編集の方が見えているのなら、どんな方なのか一度拝見したいですね。この本って往復書簡的な感じがあって、編集者とのメールのやり取りがそのまま載せてあったりするんです。福里さんは編集者の方に非常にシンパシーを感じて、その人からのお願いを断れないという状況の中でこの本が生まれたと書いてありました。いらっしゃいますか?

編集者
はい。どうもよろしくお願いします。(会場拍手)

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岡本
ありがとうございます。たしかに福里さんに近い感じがする方ですね。(笑)中治さんは福里さんの本を読んでいかがでしたか?

中治
自分をよく見せようという部分がなくて、すごく正直に書かれています。そこがよかったですね。何でしたっけ、自分にできること・・・

岡本
しかできない。

中治
そうそう、「自分にできることしかできない」。自己肯定ですよね。そこに力づけられました。これを読むと何かできそうな気がします。

福里
先ほどの話ともつながりますが、自分ではひねくれた暗いCMが得意なんじゃないかと思っていたけど、ぜんぜんうまくいかず、逆に与えられたことに素直に応えていったらわりとうまくいき始めた、ということなんです。自分にできないことって絶対にできないので、できることだけをやった方がいいと思います。

中治
あと、具体的な企画の方法として、白い紙の左側に「商品」の特長を書いて、右側に「人生」を書く。そのふたつを結ぶ線を考えるんですよね。

福里
ええ。

中治
これは誰でもやっていることだと書いてありましたけど、僕は初めて聞きました。そんなことをしている人を今まで見たことないです。(笑)ふつうは商品から出発して、それを連想ゲームのように転がしていくと思うんです。この商品の特徴はAである。AということはA'である。A'ということはA"である、というふうに。それをいきなり使う人の人生から書いてみるというのは新鮮でした。さっそく役立ててみようと思って、先週ある仕事の企画でやってみたんです。

岡本
どうでした?

中治
ある程度はできました。(笑)あともうひとつ、ひとことで説明できる企画にした方が通りやすいという話もよかったですね。

福里
それはどういう話かというと、たとえば「宇宙人ジョーンズが地球調査をします」とか「トヨタのタレントが住んでいるTOYOTOWNという街があります」とか、短い言葉で説明できる企画にするとプレゼンもしやすいし、世の中でも話題にしやすいという話です。

岡本
その話を真に受けて僕も先週やってみたんです。

福里
ええ。

岡本
すごく外しました。(笑)

福里
応用の仕方を間違ったんじゃないんですか。よくわかりませんが。(笑)

岡本
でも、アイデアを考えることやプレゼンテーションってほんとうに難しいので、それで悩んでいる人やつまずいている人にいいヒントがいっぱい書かれています。ぜひ読んでみてください。

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中治
僕は福里君のプレゼンを何回か見たことがありますけど、すごくうまいですよ。

岡本
僕もご一緒させていただいたことが何回かありますけど、たしかにうまいですよね。ってことは、この本は嘘をついているんですね。(笑)

中治
ただ、無理をしていないのは確かです。よく見せようとしてないから、聞きやすい。福里君はわりと相手が言って欲しいことを言いますよね。そんなことない?

福里
まあ、全般的にそうかもしれません。

中治
言って欲しいことを言うから、相手はうなずくしかないという感じ。

福里
僕のプレゼンって、ほんとうにふつうのプレゼンなんですよ。ふつうにしゃべってるだけ。もちろんそういうのがウケないクライアントもいますけど、ふつうにしゃべっている感じが客観的に見えていいと思ってくれるクライアントさんもいるんですね。この本ではそういうことについても書いてみました。

岡本
なるほど。ではそろそろ時間になりましたので、この辺で終了とさせていただきます。本日は中治さん、福里さん、ありがとうございました。(会場拍手)

<おわり>