壁にむかって目をとじて全速力でダッシュする遊び
大学生のころ、流行った遊びである。
とうぜん、全速力で壁にぶつかるので、血がでます。
血がでたら勝ちです。
でもだいたいが怖くて、壁のすごく手前でビビって止まってしまいます。
僕もはじめは怖くて5メートルくらい前で止まっていました。
そしてチキンぷりを露呈させられ、バカにされるわけです。
次第に感覚が麻痺して、
怪我することがどうでもよくなって、
ぶつかることができるようになってきます。
で、ぶつかって、血が出て、達成感。
自分を守ることの愚かさ、捨てることのできたもののかっこよさ、
を、確認しあうという遊びでした。
この遊びを提唱したのが、奥谷という同級生でした。
髪の毛をシルバーに染め、「ゆきゆきて神軍」のビデオを貸してくれる、そういう男が奥谷でした。
僕は、ジャズビッグバンドをやる部活に入っており、
そこに未経験のくせに入ってきて、技術も気にせず、テナーサックスを吹き荒らす。そういう男が奥谷でした。
守りに入ったもの、言い訳がましいもの、熱量の低いもの、そういうものを毛嫌いする男が奥谷でした。
エモい、なんて言葉が存在する前の時代の話です。
今で言う、エモい何かが僕から生まれると、
「まこやん、ええやん」と褒めてくれました。
奥谷は、10年ほど前に連絡がつかなくなりました。
メールのアドレスは生きてるようで、たまに送りますが、返事はありません。
簡単には死なないタイプなので、どこかでしぶとくやっていると信じています。
僕が働きだして、
いろんな映像を納品するたびに、
「奥谷がこれを見たらなんて言うだろう?」
と自分に問うていました。問うています。問うております。
本編試写をするときにいつも奥谷チェックを欠かさずにやるのです。
いつ、ふらっと、目の前にあらわれても大丈夫なように。
奥谷に「まこやん、ええやん」とちゃんと言ってもらえるように。
僕はいつでもヤバい映像を、ちゃんと作ってないといけないのです。
壁にむかって目をとじて全速力でダッシュする遊び
いつやろうぜって言われても、1本目から全力でダッシュできるように、
血が流せるように、そういう人間でいられるように、
してるから、
奥谷メール返せ。
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