『TCC広告賞展2017』トークイベント 【TCC TALK LIVE Vol.3】「国井美果 × 関陽子 × 佐藤舞葉 たまには女同士で、コピーの話でも。」
TCC広告賞展第3回目のトークイベントは、広告業界の第一線で活躍する女性コピーライター3人による対談です。女性コピーライターが日々何を思い、どんな風に仕事やコピーに向き合っているのか。今年度のTCC賞を受賞した国井美果さん、佐藤舞葉さん、審査委員長賞を受賞した関陽子さんに、ざっくばらんに語り合っていただきました。司会は木村敦子さん。女性だけでなく、男性コピーライターのみなさんにも、ためになる気づきや視点がちりばめられたお話になりました。
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『TCC広告賞展2017』トークイベント
【TCC TALK LIVE Vol.3】
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「国井美果 × 関陽子 × 佐藤舞葉
たまには女同士で、 コピーの話でも。 」
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日時
2017年6月25日(日)14:00~15:30
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パネラー
国井美果氏(TCC賞/ライトパブリシティ)
関陽子氏(TCC審査委員長賞/電通)
佐藤舞葉氏(TCC賞/電通)
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企業スローガンは育てるもの
木村
本日の司会を務めさせていただくTCC会員の木村敦子と申します。まずは伊藤忠商事のコーポレートスローガン「ひとりの商人、無数の使命」で本年度のTCC賞を受賞された国井美果さんからお話を伺っていきたいと思います。国井さんが手がけられた資生堂の「一瞬も 一生も 美しく」も、長く愛されているスローガンですが、強いスローガンをつくるために心がけていることはありますか?
国井
スローガンって、強くつくるというより、強く育てるものだと思うんです。考えて、提案して、採用されて終わりじゃなくて、そこが始まり。そのスローガンをどう浸透させていくかが大事なんです。そういう意味では資生堂さんに「一瞬も 一生も 美しく」を自分たちの意志として根気強く広めていく努力をしていただいたと思います。伊藤忠商事さんも提案してからの活動のほうが肝だと思っていました。床の間の掛け軸のような、立派だけどみんなが気にしないような言葉ではなく、日常生活の中で社員の方たちの気持ちに何かしら影響するような言葉、迷った時に指針となるような言葉がいいな、という気持ちはいつもあります。
木村
ありがとうございます。関さんもスローガンのお仕事をされることはありますか?
関
はい、あります。
木村
何かご自身のつくり方はありますか?
関
国井さんがおっしゃったように、スローガンが長く使われるものだとすると、本質的な言葉でないとどこかで破綻が起きてしまうと思います。なので、その時々の流行りの言葉とか、そういうこととは全然別の次元で考えなきゃいけない。いちばん頭を使う仕事じゃないでしょうか。
木村
ありがとうございます。
関
国井さんにひとつ質問していいですか?
国井
はい。
関
「ひとりの商人、無数の使命」というコピーはどうして句点をつけなかったんですか?
国井
「ひとりの商人、無数の使命、伊藤忠商事」と続けて社名をつける場合もあるので、そこは閉じないほうがいいかなと思いました。
関
句点をつけるかつけないかでいつも迷います。
国井
私はでも、あまりスローガンに句点をつけないタイプですね。
木村
「一瞬も一生も美しく」も、句点も読点もなく、空白で区切られてますよね。
国井
「一瞬も」「一生も」「美しく」は全部3文字なので、点で区切らないほうがきれいかなと思って。
木村
デザイン性とか見た時の感じも意識されますか?
国井
ありますね。コピーライターが書いたコピーをデザイナーがレイアウトして完成すると思うので。
佐藤
私からもひとつ質問していいですか?
木村
ぜひ。
佐藤
伊藤忠さんではスローガンをふたつ提案されたと伺いましたが、提案のあとはどのようなプロセスで決定したのですか?私もスローガンの仕事をすることがあるのですが、何百、何千と数を出して、その中で決まっていくことが多くて2案で決まるということはほぼありません。伊藤忠さんの場合はどういうプロセスだったのかとても気になります。
国井
最初に方向性を4つ提案していたんです。そこからひとつに絞って、最終的に社長にはスローガンを2案提案しました。ただ、もちろん、その前の段階ではもっと書いています。クライアントとの関係性やどういうチームで提案するかによっても違いますけど、伊藤忠商事さんの時は提案に分厚い資料も必要ありませんでした。それはやっぱりCDの川島蓉子さんがいたことが大きいと思います。伊藤忠商事の子会社でもあるifs未来研究所の川島さんがいたことで、プロセスがすごく円滑に進んだので。
関
「商人」という言葉をネガティブに捉える人もいたと思うのですが。
国井
そうですね。
関
そこはどうやって突破したんですか。決定者の方がしっかりしてたからでしょうか。
国井
最終的には伊藤忠商事のCEOの岡藤正広さんが「これでいい」と判断して決まりました。ただ、やはり総合商社なのでスマートな印象も大事だと岡藤さんご自身も思っていたようです。「商人」という言葉は確かにクセがあるけど、その分伊藤忠商事にしか言えない強さもあるので地道に言い続けていこうと。
木村
国井さん、ありがとうございます。それでは、続いて関さんにお話を伺いたいと思います。関陽子さんはキリンの氷結、「言わせとけ。」で審査員長賞を受賞されました。会場のパネルに制作秘話が添えられていましたが、すごく素敵なお話があったので、ぜひそこをお聞きしたいと思います。
タレントのファンだから書けたコピー
関
氷結は缶チューハイのNo.1ブランドなんですけど、最近はサントリーさんの「-196℃」や「ほろよい」などの競合商品も強くて、特に若い人に売りたいという課題がありました。その時にこの「あたらしくいこう」を立ち上げた宣伝担当の方から、「チューハイは爽快だ」とか「果汁にこだわってます」みたいな話ではなく、カップヌードルのように世の中に対してメッセージを発信して、それで氷結のファンになってもらうコミュニケーションにしたほうがいいんじゃないかという話があったんです。そこからチームで議論を重ねました。で、人って普段は自分なりのキャラを演じているけど、じつはそれはその人の一面に過ぎなくて、家に帰ってお酒を飲むと、別の一面も現れたりするよねという話になって。「裸になって人生楽しもうよ」「自分の中の違う一面も楽しもうよ」というところから「あたらしくいこう」というメッセージが生まれました。ほんとうはそこを理解してほしかったのですが、世の中に出してみると「さかなクンがかっこいい」とか「志村さんがシブい」みたいな反応が多かった。もちろんそれはそれで楽しんでもらえたらうれしいし、実際に売上も上がったので良かったのですが、次の年はどうしようかという話になった時に適役がなかなか見つからなかった。単純にタレントにあたらしいことをやってもらうのではなく、その人が本来持っている別の一面を引き出すというルールを自分たちに課していたので、「もう無理!」っていうところまで追いつめられて。ダメもとで中居さんに打診してみたら意外にも受けてくれることになりました。
木村
すごい展開ですね。
関
じつは私自身がジャニーズおたくなんです。
木村
意外です。
関
なので、ファンの気持ちがわかるというか、一企業のコマーシャルに自分の好きな人の思いを利用されるのは嫌だなという気持ちがあったんです。中居さんの気持ちに踏み込むのはデリカシーがないなと思って。「2017年の氷結は中居正広さんです」と宣言するだけで十分に扉の役割は果たしていたので、最初は他のコピーを入れる予定はありませんでした。ところが実際に撮影をしてみたら、中居さんがひとつひとつのスイングをすごく真剣にしてらっしゃった。それを見ていたらすごくコピーをつけたくなったんです。ちょうど渋谷駅でポスターを5連貼りするという媒体計画もあったので、それなら1枚ずつ違ったコピーをつけてみようと思って。アートディレクターは最初つけないほうがいいと言っていたんですけど、私がつけてみると言って。できあがった写真を見ながら中居さんの気持ちを代弁するように、「あたらしくいこう」に込めた気持ちを伝える短いコピーを30個くらい書きました。短いのにも理由があって、中居さんがスイングしている一瞬を撮っているので、スピード感を大事にしたいなと思ったんです。
木村
30個書いた最後のコピーが「言わせとけ。」だったんですよね。
関
最後というか、最後のほうですね。世の中に対してすごいメッセージを発信してやるとか、そういう思いは全くありませんでした。狙って書けるとかっこいいんですけど。
国井
ということは、ポスターはひとつひとつ違ったコピーなんですか?
関
渋谷駅はそうですけど、新聞広告はひとつだけ。もともと新聞をやる予定はなかったのですが、渋谷駅の5連貼りがちょっと話題になったんです。特にSMAPファンの方が「渋谷でしか見られないからすごく残念」みたいな話をしていて。私は「だったら大阪でもやれば」と言っていたら、アートディレクターが「中居さんのファンは全国津々浦々にいるので、新聞広告をやったほうがいい」と提案してくれて。ほんとうに急遽やることになったんです。その時にコピーをひとつだけ選ぶとすればやっぱり「言わせとけ。」だなと。
国井
他の4つはどういうコピーだったんですか。
関
他のはとても褒められるコピーじゃないので言いにくいんですけど、いちばん始めに書いたのは「前へ。」というコピーでした。過去を否定して次に行くわけではないから、「次へ。」ではなく「前へ。」だなと。あとは「世界は広い。」というコピーもありました。この先の彼の道のりのようなことを考えて、そういうコピーにしたんですけど、やっぱりちょっと説明的ですね。
木村
中居さんがスイングしているところを見ているうちに言葉をつけたくなったとおっしゃいましたが、中居さんの真剣さを世間に伝えたくなったんですね。
関
言い方は良くないんですけど、「おいしいな」と思ったんです。「あたらしくいこう」で成立しているといまだに思っているんですけど、もう一押ししたくて、むらむらしてしまったという感じでしょうか。かなり自己満足も入っていると思います。
木村
コピーライターならではの欲ですね。
関
なので、「余計なことしやがって」とファンの方に思われないかと、すごくドキドキしてました。
木村
ちなみに、SMAPのメンバーが5人いる中で、中居さんにした理由はあるんですか。
関
やっぱりグループの顔ということでしょうか。あとは自分の中の別の一面を見せるというテーマだったので、中居さんのバラエティ番組な一面と対比したら面白いんじゃないかと思って。
木村
反響はファンの方も含めてすごかったんですよね。
関
すごかった。そこはほんとうにほっとしています。
木村
関さん自身もネットでの反応をすごく検索されたそうですね。
関
そうですね。私自身は「言わせとけ。」なんて絶対言えないタイプなので、すごく検索しましたね。
木村
具体的にどんな言葉があがっていましたか。「よくぞ言ってくれた!」とか?
関
ファンの方たちも、SMAPさんとか中居さんに対して、マスコミがあることないこと言っていたのを気にしていたと思うんです。その時に「言わせとけ。」と言ってくれて勇気が出たという書き込みがあって、すごくうれしかったですね。
木村
言葉の力で動いたということですよね。短い言葉ですけど、世間にちゃんとアプローチしたというのはすごいと思います。
佐藤
今、関さんがジャニーズ好きと聞いて納得しました。タレントをイジるのではなく、そこに愛情があるからすごく素敵な広告になったと思います。タレントさんのバックグラウンドを利用すると、ひとつ間違えばネガティブに働くこともあるので、加減がすごく難しいと思いますけど、その点に関して関さんは気をつけていることはありますか?
関
そうですね、確かに難しいですけど、特に何かに気をつけていたという感じはないです。ただ、おせっかいはしたくないなと思ってました。
木村
関さんじゃない方が担当していたら、違う方向に行ってたかもしれませんね。
関
それはそうかもしれない。
佐藤
確かにそうですね。
木村
関さん、ありがとうございます。それでは、続いて佐藤舞葉さんにお話を伺いたいと思います。まずはauのCMをご覧ください。
TVCM │ au「三太郎の出会い」篇
TVCM │ au「春のトビラ・やってみよう」篇
チームワークで企画をする
木村
みなさんご存じのCMだと思いますが、まずはこの三太郎という人気のシリーズが生まれた背景からお聞かせいただけますか?
佐藤
三太郎シリーズは今年で3年目になるんですけど、最初は企業広告をつくりたいという話でした。今は商品の広告も三太郎でやってますけど、もともとは1回限りの企業広告というオリエンテーションをクライアントさんから頂いていたんです。auは「あたらしい自由。」というスローガンを掲げているので、今までの常識を変えるメッセージを発信していくのがいいんじゃないかということで、誰もが知っている昔話の桃太郎と浦島太郎と金太郎が実は友達だったら、という企画をプレゼンしました。それが気づいたら年間のキャンペーンになって、今も続いているという状況です。
木村
今年で3年目ということですけど、月に3~4本納品されているそうですね。人気シリーズをつくり続けるのって、すごく大変だと思いますし、毎回新しい企画を出さなきゃいけないというのはプレッシャーだと思うのですが、そのあたりはいかがですか?
佐藤
チームにCMプランナーが4人いるんです。CDの篠原誠さん、先輩の野崎賢一さん、私、そして後輩の明円卓。私は下から2番目なのでめちゃくちゃ気楽にやっています。まったくプレッシャーがないですね。
木村
毎回商品やサービスに合わせたCMになっていますけど、企画は自由にされるんですか?
佐藤
オリエンで商品やサービスの訴求ポイントが伝えられますが、それに対してプレゼンではまずCMの構造を提案します。「◯◯に関する会話劇」という構造から説明するわけですね。
木村
確かに三太郎のCMは会話によって商品やサービスの説明をしていますね。
佐藤
なので、普通は絵コンテといって、CMの企画を4コマ漫画みたいに絵で説明するんですけど、三太郎は字コンテといって文字だけ、会話の内容だけでプレゼンしています。
木村
商品の説明が多い中で、今見ていただいた2作品は60秒という長尺の歌ものです。特にサービスについて触れていませんが、これはどういう経緯でこうなったのですか?
佐藤
もともと三太郎の立ち上がりは桃太郎篇、浦島太郎篇、金太郎篇の60秒CM3本だったんです。それが好評だったので、そういうものを定期的につくっていこうというのがひとつ。もうひとつは三大キャリアと言われるドコモとauとソフトバンクのサービスはどれも似たり寄ったりで差別化がしにくいということがあります。なので、とにかくauがおもしろそうなことをやっているなというコミュニケーションを大事にしようということで、商品やサービスの説明ではないものを定期的につくっています。
国井
ドコモとauとソフトバンクってそれぞれカラーが違いますよね。ドコモは社会人向け、ソフトバンクはファミリー向け、auは若者向けという感じ。そうした差別化は意図的にやっているんですか?
佐藤
そうですね。auはもともと、若者向けのコミュニケーションや音楽サービスなどもやっていて、若い人向けというイメージが世の中にあるので、そこはドコモとソフトバンクとの差別化として、意識的にやっています。
木村
先ほど舞葉さんが下から2番目だから自由にやっているとおっしゃっていましたが、自分の企画が通るような工夫や努力は何かされていますか?
佐藤
私はコピーライターになって今年で8年目なんですけど、CDが上にいて自分がCMプランナーとしてやる仕事と、CDが形式的にいて自分が中心でやる仕事の2種類があります。自分が責任を持ってやらなきゃいけない仕事は「これでクライアントにプレゼンできるだろうか」とか「この企画は課題に合っているだろうか」という目線で企画を選んでしまいます。逆に自分がCMプランナーでやっている時はもう無邪気にやっていますね。ほんとうに自由に考えていますし、むしろ私の立場ではそうしたほうがいいのかなとも思って。オリエンからはめちゃくちゃ外れているけど、当たればホームランになるかもしれない企画もどんどん出します。自分に制限をかけずに考えられるのも今の立場だからこそだと思うので。
木村
ちなみに、「三太郎の出会い」篇と「春のトビラ・やってみよう」篇はどのように企画されたんですか?
佐藤
子ども時代の話の「三太郎の出会い」は、三太郎の「エピソード0」みたいなものをずっとやりたいと思っていたんです。ただ三太郎のキャラが浸透していない段階ではできないので、企画をずっと温めていて。このタイミングでやろうと決めたのはCDの篠原さんです。「春のトビラ・やってみよう」篇も篠原さんから「お正月に家族全員がテレビを見ている時に、今年がいい一年になりそうだとみんなが思えるようなCMをつくりたい」というディレクションがありました。それを受けて「新しいことはじめてみよう」とか「苦手なことやってみよう」というナレーションを書いたのですが、最終的に「やってみよう」というキャッチコピーになって、このCMになったという感じです。
関
チームでやるのが好きな人と苦手な人がいると思いますが、佐藤さんはどっちですか?
佐藤
難しいですね。仕事にもよると思います。「私この会議で一言もしゃべってないな」ということもあるので。「なんでこんなに大勢の人がいるんだろう」と思ったりして。auに関しては、ほんとうに4人が責任を持ってやっているので、すごくいいチームワークでできていると思います。
関
ひとつのフレームで企画を転がしていると、企画が世の中に浸透して、自由に何でもできるようになることがありますよね。子ども時代の話もキャラが浸透したからできたとおっしゃっていましたが、三太郎がこれだけ認知されると、今は自由にいろいろできるんじゃないですか?
佐藤
最終的に商品やサービスに落とし込む会話をつくるのが意外と難しくて、最初の頃は企画にすごく苦労していましたが、今はキャラクターが動き始めたというか、「この人だったらこういうことを言うな」という感じで考えられるようになったので、企画するのがすごく楽しいです。
関
それはいいですね。
国井
このCMに出ている役者さんたちがみんなブレイクして今や大人気ですけど、撮影は大変じゃないですか?
佐藤
そうですね。スケジュールを合わせるのが大変らしくて、キャスティングの方がいつも悲鳴を上げています。
国井
セリフも全部佐藤さんたちが書いているんですよね?
佐藤
そうですね。ただ、役者さんのその場のアドリブみたいなのもすごくあります。CMの最後のオチとかはだいたいアドリブで(笑)。
国井
アドリブがいちばん冴えているのは誰ですか?
佐藤
三者三様でみなさんほんとうにすごくて。もうアドリブの応酬というか、私は絶対にあの場には参加したくない(笑)。
自分のコピーをどこまで客観視できるか
木村
佐藤さん、ありがとうございます。本日、観覧されているみなさんから事前に質問を頂いています。ここからは関さん、国井さん、佐藤さんに質問に答えていただこうと思います。まずいちばん多かった「コピー」についての質問です。「コピーやアイデアを出す発想を広げるためにふだんから心がけていることはありますか?」。国井さん、いかがでしょう?
国井
ものすごく地味な答えになりますけど、「健やかな心」でしょうか。ネガティブにならないようにとにかく自分をフラットな状態に置いておく。いい発想をするためにはまずコンディションを整えておかないといけないので。とはいえ、日々怒ってばかりなんですけど(笑)。
木村
具体的なやり方はありますか。例えば、ひとつの言葉から連想を繋げて、ツリー的に発想する人もいると聞きます。国井さんはいかがですか?
国井
型みたいなものは人それぞれあると思うんですけど、私の場合はとにかくオリエンシートを読み込んだり、クライアントや競合企業に関する情報を調べます。ほんと地味でしょ(笑)。
木村
関さんと佐藤さんはいかがですか?
関
私も地味ですよ(笑)。
国井
まずは基本的な情報をインプットして、そこからどうジャンプするか、という感じですよね。
木村
ジャンプするために心がけていることはありますか?
国井
クライアントにとって私はプロジェクトを共に行なう関係であるけれど、消費者でもあるので、ニュートラルな立場にいるわけですよね。まずはどうしたら競合会社より優位になれるかをクライアントと同じ立場で考える。次にそれが世の中からどう見えるかを消費者の立場で考える。そんなふうに検証をしながらコピーを書いています。
木村
ありがとうございます。佐藤さんはいかがですか?
佐藤
先ほど国井さんがおっしゃっていたこととつながるのですが、情報を知る前の自分の状態を大事にしようと思っています。たとえばCMの仮編集ってひとつのCMを何回も見るので何が正解なのかだんだんわからなくなってくる。そういう時はいちばん始めに見た時の印象に立ち戻ります。それが視聴者の感じる印象と同じだと思うので。オリエンを受けた時も、まっさらの状態の自分がどう思ったかというところからコピーを書いてみます。そのあとにいろんな情報をインプットして、違った視点からコピーを書いてみる。意外と、何も情報を入れないで書いた時のコピーが良かったりもするので、最初の素の状態を大事にしたいと思っています。
木村
関さんはいかがですか?
関
質問の中に「ふだんから」という言葉がありましたけど、それってつまり、仕事をしている時ではなく、普段の日常生活ってことなのかなと。そういう意味で言うと、私はドラマチックな半生を歩んできたわけではないので、ドラマや映画を観たり、本を読んだり、人に会ったりして、いろいろな人生の景色や人の気持ちに触れようとしています。
木村
電車の中の些細な会話とかですか?
関
そうですね。ファミレスとかにもよく出没したりして(笑)。
国井
コピーを書くために日常生活を送るということはないけど、ふつうに街を歩いて、買い物をして、いろんなものに触れると、それが結果的にコピーにつながることはありますよね。
木村
ありがとうございます。では続いての質問に移りたいと思います。ひとつ目の質問とちょっと似ているのですが、「良いコピーを書けるようになるように日常で行なっていることはありますか?」とか「自分で手応えを感じるようになるまでどうやって努力をしましたか?」という質問が来ています。最初は右も左もわからない状態でも、新人賞を取る頃にはなんとなく手応えのようなものを感じることがあると思います。佐藤さん、いかがですか?
佐藤
私はまだ道半ばですし、手応えも感じていないので、立派なことは何も言えないですね。とにかく、やるしかないんじゃないでしょうか。根性ですね(笑)。
関
コピーや企画を人に見てもらったりしますか?
佐藤
私はわりと見てもらいます。それもなるべく事情を知らない人に。オリエンとかクライアントの状況を知らない、会社のデスクの女性とかに見てもらいます。自分だけで考えていると客観性を失ってしまうので。
国井
客観性は大事ですよね。自分の書いたコピーをどれだけ愛情をなくして、冷たい目で見られるか。自分のコピーを客観的に選ぶのがいちばん大変なので。
関
客観性は私も大事だと思います。私はいまだになかなか選べないですね。
国井
選べないですよね。人に選んでもらって、「あ、これがよかったんだ」みたいなこともすごくある。自分でいいと思っていても、他の人は違う意見だったりすることもあります。
木村
自分で書いたコピーを他人が書いたコピーと思ってみなさい、という話もありますけど、客観視するのはなかなか難しいですよね。
関
私はいつも自分でツッコミを入れながらコピーを書いています。コピーの最後に「なんちゃって」とつけたり、「こんなコピー書いて恥ずかしくない?」と言ってみたり。自分と会話をしている暗い人みたいですが(笑)。
国井
私も11歳の娘に見せたりしますよ。まったく知識がない人が見るとどう思うんだろうと思って。けっこうするどいことを言われたりします。
木村
例えばどんなことですか?
国井
「これってちょっと狙ってるよね」みたいな。人生経験が11年の子どもにそんなことを言われる(笑)。とにかく人の意見を聞くのは大事です。
コピーが書けない時は
木村
コピーライターやCDに限らず、まわりの人に聞いてみるのがいいみたいですね。ありがとうございます。では、次の質問です。「書けない、納得できないという時に、どうやってその状況から抜け出しますか?」。
国井
寝ます。
木村
即答ですね(笑)。
関
抜け出し方なんてあるのかな。
国井
あったら教えてほしいくらい。
佐藤
そうそう、教えてほしい。
木村
別の仕事に移るという人もいますよね。コピーを書くのに行き詰まったら、別の仕事のコピーを書く。そうすると頭の中がリフレッシュされると聞いたことがあります。
国井
はまっている沼からいったん離れるという意味では、仕事とはまったく違う日常生活をしてみることはあるかな。散歩とか掃除とか皿洗いをしてみたり。あとは寝る。
木村
やっぱり寝るんですね(笑)。舞葉さんはどうですか?
佐藤
私はひとりで考えてもダメだと思ったら人に相談しちゃいます。「今こういう状況で、こんなことで困っているんだけど」みたいなことを人に説明していると、自分の頭の中が整理されることがあります。「あ、自分が悩んでいたのはこういうことだったんだ」って。
国井
それは誰に相談するんですか?
佐藤
友だちとか同期とか、隣の席の人ということもありますね。
木村
佐藤さん、ありがとうございます。いっぱい質問があるので、どんどん進めたいと思います。「自分だから書けるというコピー、コピーの書き方はありますか?」。
国井
これはどういう意図なんだろう。
木村
この質問をされた方に確認したら、「絶対の自信を持ってこれは自分にしか書けないと、ずうずうしいくらいの気持ちで書けることはありますか?」ということだそうです。
国井
そんなふうに自信を持って書くことはあんまりないですね。いろんな情報を自分に通過させてコピーを書くので、どうしようもなく自分が出てしまうということはあると思う。でも、自分を出してやろうと思って書くことは私の場合はないですね。
関
それはみなさんそうでしょうね。自分を出したいと思って書いている人はいないんじゃないかなぁ。
国井
この会場に児島令子さんの「earth music & ecology」のコピーが貼られていますよね。児島さんも自分の内面を表出させて書かれているのではと思いますけど、それは個人の表現としてではなく、あくまでも企業から世の中へのメッセージを書こうとしているのだと思います。秋山晶さんが1980年代にTCC年鑑の編集長を務めた時、「コピーは僕だ」というテーマを打ち出しましたが、それもやはり自分を出そう、ということとは違うと思うんです。秋山さんが書くキユーピーのコピーも最初に大量の情報をインプットした結果、アウトプットがどうしようもなく秋山調になる。結果、そうなっちゃうのですね。コピーを一度英語で考えて、そのあとに日本語に変換するとも仰っていましたが、それぞれの考え方のプロセスによって、その人らしさが出てくるんじゃないかと思います。
木村
国井さん、ありがとうございます。では、次の質問に移りますね。「今世の中で機能するコピーはどんなものになっていると思いますか?」。この質問の意図はSNSなどでみんなが自分の言葉を発信できるようになった時代に、どういう言葉が機能するのか?ということだと思いますが、関さんいかがですか?
関
難しいですよね。マスメディアだけじゃなく、さまざまな場がある中で、コピーはますます目印としての役目を果たさなければならなくなっている気がします。誰でも感想を言えて、共感も否定もできる時代だと、弱い人とかダメな人の気持ちに寄り添うものが機能しやすいんじゃないかと個人的には思っています。機能するというより、支持されるものが書けるといいなと。
木村
おふたりはいかがですか?
佐藤
私は新しい概念を生み出している言葉はすごいなと思います。たとえば「ブラック企業」とか「社畜」って、みんなが抱いているイメージを端的に言い表してますよね。だからこそ世の中に浸透したと思います。そういう言葉を発見できたらすごく拡散すると思うので、一度は書いてみたい。
関
「ジェネリック萩の月」という言葉がネットで話題になりましたよね。「萩の月」という仙台の銘菓にそっくりなスイーツをセブンイレブンが売り出したんですけど、ある人がそれをジェネリックという言葉で表現したんです。ツイッターで。
木村
本家じゃないという意味ですね。
関
そう、ジェネリックという言葉の使い方がいいなと思いました。
国井
ハッシュタグになりそうですね。
木村
最近、クライアントに提案する時も、ハッシュタグはどうしますか、みたいな質問を受けることはないですか?
関
すごくありますね。
木村
そうですよね。あと「この広告を見た消費者はどう言ってシェアするか?」とかも。今の時代はどう拡散されるかまでプランに入っているのがあたりまえみたいなところがあります。ちなみに「言わせとけ。」はハッシュタグになってましたね。
関
そうですね。
新人からのキャリアの積み方
木村
そういう意味でもすごく機能した言葉だと思いました。はい、では、続いての質問です。「新人時代の目標とそのために行なった努力を教えてください」ということですが、国井さん、いかがですか?
国井
ライトパブリシティは研修などがなく、いきなりオン・ザ・ジョブ・トレーニングで先輩につくので、とにかくがむしゃらについていく感じでしたね。新人時代はカタログのコピーをひたすら書いていました。ヤマハのグランドピアノのカタログ一冊とか。あとは防音壁のコピーでボディコピーをものすごくたくさん書いたり。今考えるとそれが基礎トレーニングになっていた気がします。
木村
その当時は何を目標にしていたんですか?
国井
自分で書いたコピーが世の中にデビューするという夢を見ていましたね。それが叶ったのが何年目だっけ、3年目くらいかな。伊勢丹のクリスマス用の広告。香水のコフレの15段の新聞広告でそれが出た日はもうほんとうにドキドキしました。
木村
ありがとうございます。関さんはいかがですか?
関
私は新卒で電通に入ったのですが、まわりにすごい先輩がたくさんいらっしゃったので、まずはその人たちに褒められることを目標にしていました。あとは同期や年次の近い人たちもたくさんいたので、その中で「この人に頼もう」と思われるものをつくらなきゃいけないというのを意識していました。みなさんもご存知の磯島拓矢というコピーライターがいますが、彼とは同期で、しかも配属先が同じだったんです。彼はやっぱり最初から優秀だった上に、映画にすごく詳しくて。映画のことは磯島に聞けば何でも答えてくれるとか、映画の主人公の気持ちでコピーが書けるとか、そういう強みがあった。で、私もそういうものをつくらなきゃいけないと思って、すごく短絡的に「じゃあ芝居にしよう」と。それから1年で80本くらい舞台を観ました。努力というよりは好きなことだけをしていただけかもしれませんが、とにかく自分の目印をつくろうとはしていた気がします。
国井
これだけは自信を持って答えられる、これだけは負けない、というものがあるとやっぱり強いですよね。
関
芝居のセリフを全部覚えているとか、そういうことではなくてね。コピーを書くことと関係のないことでも何か強みを持っているとちょっと自信になるということですね。
佐藤
私はどうしてもコピーライターになりたくて電通に入ったわけではなかったので、誰々がACCのゴールドを取ったという話を聞いても「ACCって何?」みたいな感じで。だから具体的な目標みたいなものはなかったんですけど、負けず嫌いな部分があって、クリエイティブに配属されたからにはがんばろうと思ってました。今日会場にいる方はおわかりだと思いますが、私は人前でしゃべったりするのがすごく苦手です。そういうコミュニケーション下手なところを賞を取ることで解消しようと思ってとにかく公募の賞に応募しました。年次の近いADと朝広、毎広、読広に出しまくって。そしたらいくつか受賞することができて、まわりの人がだんだん認めてくれるようになった気がします。新人の頃は好きな仕事ばかり来るわけじゃない。だから自分でチャンスをつかむために、いろいろなことにトライしてもいいのではないかと思います。
木村
ありがとうございます。では、もうひとつキャリアについての質問です。「コピーライターとして一人前になったと初めて実感した仕事を教えてください」。関さん、ありますか?
関
初めて私ひとりに任されたのがある生理用品で、ネーミングから考える仕事でした。先輩もいないし、女性スタッフは私だけ。全然書けずに泣きながらやっていた記憶があります。肌触りのやさしさが特長だったので、当時日本で流行していたベルギーワッフルをヒントに「ワンダーワッフル」という名前を考えました。そのあとにCMをつくることになったのですが、女性タレントって生理用品のCMに抵抗のある人が多いんですね。そこで考え方を180度変えて、SMAPの草彅さんに出演をお願いしました。私は「やさしい」とか「肌触りがいい」とか、一生懸命コピーを書いたのですが全然うまくいかない。で、最後はヤケになって「めざしたのは、草彅君。」というコピーを書きました。草彅君のやさしい感じ、あの感じが得られる生理用品ということなんですけど、それが書けた時に、もしかしたらコピーって単純に商品の説明をするんじゃなくて、世の中の人を振り向かせる言葉を書くことなのかなと感じました。一人前になったというか、そういう実感を得た仕事として印象に残っています。
木村
ありがとうございます。国井さんは、ありますか?
国井
一人前になったと感じたのは自力でコピーを通したと実感した時ですね。2005年に資生堂のマキアージュというブランドが誕生して、その時のコピーを担当させていただいたのですが、ブランドのタグラインがなかなか通らなかったんです。「ビューティ・クライマックス はじまる」というコピーだったのですが、とにかく社内で通らない。そしたら最後、メーキャップの担当の責任者の女性が「これいいじゃない」と言って、マーケティングの方たちを説得してくれたんです。その人を動かすことができたというか、自分のコピーを自分で通せたという感覚がありました。
関
それは一人前ですね。
国井
もっと物性を言って欲しいという要望もあって。だけど、マキアージュはふたつの大きなブランドを統合してつくったブランドだったので、新しいブランドの向かう先をお客さまに示すタグラインが必要だと思ったんです。そういうことや、なぜ「ビューティ・クライマックス はじまる」がいいのかということを、たくさんの人に何度も説明して。伝わらないことの歯がゆさを感じながら、時には涙を流しながら、必死に通した記憶があります。
木村
ありがとうございます。舞葉さんはありますか?
佐藤
私は一人前になったという実感は全然ないです。ただ日々仕事をしている中で、この仕事に食らいついてやるという覚悟を持った時に社会人としての責任のようなものを感じることはあります。
女性が書くコピーと男性が書くコピー
木村
ありがとうございます。それでは、次のテーマに移っていきますが、今回質問が多かったのが女性コピーライターの表現方法。具体的に言うと、「女心に刺さるコピーを書くために心がけていることありますか?」とか「女性のインサイトを理解するのに、何を見て勉強すればいいですか?」とか「女性と男性で表現の違いはあると思いますか?」とか。みなさんいかがでしょうか?
関
私がすごく難しいと思うのは、決定権のある人ってほとんどが男性なんです。でも、世の中には男性にはまったく理解できないけど、女性にはめちゃくちゃ刺さる表現もありうるわけですよね。現状のプロセスの中でそういう表現が選ばれて、世の中に出ることができるのか。
国井
刺さるかどうかはディテールが重要なのかなと思います。ベースの考え方は普遍的なんだけど、ディテールがちゃんと女性向けになっている。たとえばシャンプーのコピーだったら、どんな髪になりたいかというディテールの言葉はちゃんと女性が望むものになっている必要がある。
木村
ディテールで言うと、国井さんが最近手がけられた「レディにしあがれ。」というコピーは、女の子の気持ちをすごく上げてくれる言葉だと思いますが、そういうコピーを発想する時に心がけていることはあるんですか?
国井
「レディにしあがれ。」はマキアージュの2015年以降のブランドのタグラインなんですけど、その年のトレンドとして、女の人たちが目指すファッションとか仕上がりがレディモードになっているという話だったんです。それを「勝手にしやがれ」みたいな強いひと言で表現できないかと思って書きました。
関
そういう言葉もやはり、ターゲットに刺さる表現にしてやろうというより、国井さんの中から自然に湧き出た言葉なんですか?
国井
そうですね。自分が女性だからそういう言葉になったというところはあるかも。
木村
さっきのお話で言うと、「レディにしあがれ。」はベースが普遍的ということですよね。今の時代の中で女性がどんな方向に向かっているかというのはきっと男性にも読み取れる。だから女性向けのコピーであっても男性にも理解ができるという。
関
そういう意味では、もし自分と縁のない仕事が来たら、ターゲットの人にたくさん話を聞いたり、自分の目で見たりするのがいちばんいいということですね。
国井
そうですね。逆に男性が女性向けの商品のコピーを書く場合はとにかくまわりの女性に聞いてみる。
木村
コピーを書く上で女性と男性の違いってあると思いますか。女性だから書けることというのは実際あるんでしょうか?
関
やっぱり重要なのは、性別よりも人ですよね。自分の中にあるものは人それぞれ違う。女性だから、男性だからというのはあまり意識しませんね。
国井
男性が書いたものでも女心をうまく捉えているコピーはありますよね。
関
男性のほうがロマンチストですからね。
国井
女性に対する理想がちょっと入ってる。化粧品も客観性の商品なので、そういう意味では男性が書いたものに、「あ、そうか」と気づかされることもあります。やっぱりコピーは気づきが重要だと思う。
関
気づきという点では逆に自分とかけ離れたもののほうが書きやすいかもしれない。
国井
男性でもいかに興味があるかですよね。担当する商品が女性向けだったとしても、興味があれば女子受けするコピーが書けると思う。反対に女性でも興味がなければ書きにくいと思います。
木村
いいコピーを書くにはまずその商品を好きになれという話もありますよね。女性か男性かよりも、商品に対してどれだけ真摯になれるかが結局は大事なのかもしれませんね。
国井
そうですね。
木村
ありがとうございます。男性からも質問が来ています。「男性だからこそ注意すべき考え、表現ってありますか?」。いかがでしょうか?
国井
それは今デリケートな問題ですよね。気をつけないとすぐに炎上しちゃうので。大事なのはわかった気にならないように、なるべくいろんな人の意見、いろんな女性の意見を聞いてみることだと思います。でもこれ、逆の場合もありますよね。私たちが男性の価値観や感性を捉える時は何に気をつけないといけないんだろう。
木村
プライドを傷つけないとか?
関
プライド。それもありますね。
国井
相手が言われたくないことを言わないとか。
関
でも、刺激的なことを言おうとすると、そこに触れちゃうことがありますよね。
国井
強い言葉にしようと思うとね。
関
ただ、今は女性が弱い立場として世の中にあるから、表現がデリケートにならざるを得ないけど、相手に対する表現は基本全部いっしょですからね。
木村
わかった気にならないというのは確かに大事だと思います。では、残りの時間が少なくなってきたので、どんどん進行したいと思います。次は女性コピーライターの人生についての質問です。「結婚や出産を経験して、書くコピーが変わったと感じたことはありますか」。国井さん、いかがでしょうか?
国井
そういう意識は自分ではないですね。まわりからそう言われたこともありません。ただ、出産してからはとにかく時間がなくなりました。書くコピーは変わらないけど、書くスタイルは変わったと思います。
木村
子ども向けの商品のコピーを書く時はいかがですか。何か変わりましたか?
国井
働く女性を応援するプロジェクトのネーミングとか、子ども番組の企画とか、そういう仕事は格段に増えましたね。そういう仕事に関しては、自分の経験を生かして迷いなく書くことができるようになりました。
木村
やはりそうなんですね。ありがとうございます。では続いての質問です。「女性としてご自身のキャリアを築いていく上で悩んだことはありましたか」。関さんから伺ってよろしいでしょうか?
関
「女性として」という枕詞がついてますね。
木村
ついてますね。
関
「女性として」というのはすごく困るんですよね。どちらかというと私は女性っぽい仕事が苦手です。TCC年鑑で児島令子さんや尾形真理子さんのコピーを見ても、こういうのは書けないと思うし。「女性なりの感性を期待します」みたいなことを言われると、私でいいのかと思ってしまう。悩みといえばそれが悩みかもしれない。
国井
女性らしさってなんだろう。私も女性らしさを期待される仕事は苦手かも。
関
資生堂さんをやられているから、全然大丈夫じゃないですか。
国井
でも、児島さんや尾形さんのルミネのようなコピーを書いてみたいと思っても、なかなか書けるものではないです。女性の中でも人それぞれなんですよね。
関
「キャリアを築いていく上で」という質問の趣旨とは違うかもしれませんが、女性ということで型にはめられちゃうことはありますね。
国井
そうですね。
木村
ありがとうございます。いよいよお時間がなくなってきたので、最後にみなさんにひと言ずつお言葉を頂戴できたらと思います。まずは国井さんからお願いします。
国井
今日ひとつ言い忘れていたことがありました。先ほどスローガンの話をさせていただきましたが、伊藤忠商事さんの仕事はグラフィックとCMがあるんですね。で、CMのほうは映画監督の是枝裕和さんを始め、「分福」のみなさんに協力していただいています。事実に基づいて社員の方の人物像や企業の個性を浮かび上がらせるというのが狙いなので、徹底的に取材をして、一切コンテなどをつくらず、すべてドキュメンタリーで撮っています。もちろんオーディションをして誰を追うかというのは事前に決めますが、そこから先は何も決まっていません。そうしたつくり方における是枝監督のセンスがすごいので、誰が見ても共感できるCMになっていると思うんです。今日はその話をぜひしたいと思っていました。
木村
国井さん、ありがとうございます。続いて、関さんお願いします。
関
役職的にはクリエーティブディレクターになった今も、私は名刺にコピーライターという肩書きを載せています。コピーライターを名乗る以上は、誰よりも言葉を好きでいたいし、誰よりも言葉の力を信じていたい。言葉に対する責任を全うし続けたいと思っています。今言葉に興味を持っている人が少なくなっているという話を聞きますが、今後言葉を信じて書く人が増えるといいなと思います。言葉がなくなることは絶対にないので。
木村
関さん、ありがとうございます。では最後に佐藤さん、お願いします。
佐藤
私はこのおふたりと並んでいるのが申し訳ないくらいまだまだ修行中の身なんですけど、ほんとうに運良く三太郎の仕事に携わることができて、このような機会をいただきました。今日は女性コピーライターの話が中心でしたが、私はあまのじゃくなところがあって、「女性のコピーライターが必要だから」と仕事を頼まれると、「女性なら誰でもいいんですか」みたいなことをよく言ってました。入社早々にもかかわらず。今思うとすごく生意気なことを言っていたと思います。自分の性質や素質は活かしたほうがいいし、チャンスにつながるのであればいろんなことに挑戦したほうがと思います。やって無駄になることは何もないと思うので。ということで今日はほんとうにありがとうございました。
木村
佐藤さん、ありがとうございます。本日のトークライブは以上をもって終了となりますが、ここからまた女性のコピーライターが生まれるといいなと思います。みなさま、お忙しい中、ありがとうございました。
(了)