《対談》トークイベント「TCCことばみらい会議」第二夜・第4部
「TCCことばみらい会議」第二夜・第4部は、堀江貴文さんと篠原誠さんによる対談です。司会の並河進さんも交えて、インターネットとデジタルの時代にことばに何ができるかを語っていただきました。
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第二夜
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第4部
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みんなのものになることば
― コピーライター × 実業家 ―
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日時
2016年9月24日(土) 16:30~18:40
登壇者
篠原誠 氏
(電通 クリエーティブディレクター/コピーライター)
※2016年度TCC グランプリ
堀江貴文 氏
(実業家)
進行
並河進 氏(電通)
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並河 本日は「みんなのものになることば」というテーマで堀江貴文さんと篠原誠さんをお迎えしてお話をうかがっていきたいと思います。まずはおふたりのご紹介から。篠原誠さんは2016年度のTCCグランプリ、そして2015年のクリエイター・オブ・ザ・イヤーに輝いたクリエイティブディレクター、CMプランナーで、みなさんご存じのauの三太郎シリーズ、「家庭教師のトライ」のハイジのシリーズを手がけられています。堀江貴文さんはみなさんもよくご存じだと思います。最近では宇宙ロケット開発やスマホアプリのプロデュースなど幅広く活動されています。僕もいま堀江さんと仕事をご一緒させていただいているのですが、堀江さんはことばをとても大事にされる方なので、出演を依頼しました。では最初に篠原さんのCMを見ていただきます。
<無駄のないことば>
並河 このシリーズは1年間でどのくらいつくっているんですか?
篠原 去年は29本です。
並河 そんなに!?
篠原 いままで何本つくったかわからないけど、平均すると年間30本はつくっていると思います。ちなみに堀江さんと僕は同い年で、昔から堀江さんのことは大好きなので、今日は話に聞き入ってしまうかもしれません。もしそうなったら許してください(笑)。
並河 ありがとうございます。つづいて堀江さんですが、堀江さんは2005年に「想定の範囲内」ということばで流行語大賞を受賞されています。
堀江 そうですね。
並河 このことばが生まれた経緯をうかがってもいいですか?
堀江 僕は四字熟語が好きで、頭の中にとっさに四字熟語がとっさに出てくるんです。あのときはニッポン放送の騒動があって、とある起業家向けのフォーラムが終わった直後にマスコミが僕のところに殺到したんですよ。「堀江、不利」みたいに騒いでいたので、「いや、想定の範囲内ですよ」っていうことばがぽろっと出た。僕にとっては至ってふつうのことばなんですけど、マスコミには違和感があったみたい。
並河 堀江さんにとっては「予想どおりです」くらいの感じなんですかね。
堀江 そうですね。でも僕の場合「予想どおり」ってことばが出てこないんですよ。「俺は完璧にシナリオを考えて、すべて想定した上でやっている」と思っているので、「予想どおり」だとことばとして弱いんです。だらだらと説明するのが嫌いなので、できるだけ短く言おうとすると、「想定の範囲内」みたいなことばになってしまう。twitterでも140字で短く言おうとすると、熟語を多用せざるをえないんですね。いまも「多用せざるをえない」って言いましたけど、こういう言い方もあんまりしないですよね。
並河 まず「多用」って使いませんね。ふつうは「よく使う」とか。
堀江 僕の場合そこが熟語になっちゃうんです。相手も慣れてないことばだから強く聞こえるんでしょうね。
並河 たしかに記憶に残りますよね。
堀江 短いコミュニケーションの中で、できるだけ情報を詰め込むにはどうしたらいいかをずっと考えてきた中で生まれたことばなので、つまりはテクニックから生まれているわけです。でも「想定の範囲内」は、このあと「想定の範囲外」へと変わって、いろんなところで使われるようになりました。2011年に津波による原発事故が起きたときに「想定外」が濫用されて。
並河 篠原さん、ふだん使わないことばを使ったり、できるだけ短くするっていうのはキャッチフレーズと共通する部分がありますよね。
篠原 そうですね。キャッチコピーは短くて強いほうがいいと言われていますから。堀江さんの場合、そういうことばが意識せずに直感的に出てくるんでしょうね。
堀江 そうですね、無意識に出てきます。
篠原 そこがすごいですよね。
堀江 でも、それは訓練しているからですよ。twitterでめちゃくちゃ短いことばで相手にリプを飛ばすときに相手の文章を引用するんですけど、いらないところは全部カットして短くしています。それって与えられたお題に毎回答えを出しているようなものです。
篠原 まさに訓練ですね。
堀江 あと、「NewsPicks」っていうニュースキュレーションアプリがあって、1日に20から30の記事にコメントしています。それもいかに短くできるかってことを意識していますね。とにかくだらだらと長い文章が嫌いなんですよ。
篠原 それはよくわかります。堀江さんをテレビで見ていると話が整理されているので気持ちがいいんですよ。コメンテーターとかで中身のない話をもっともらしく話す人がいるけど、そういう人がしゃべっていると堀江さんは露骨にイラッとしている(笑)。
堀江 イラッとしますね(笑)。
篠原 で、その人が言っていることを短くまとめて、「それってこういうことだと思うんですけど、全然意味ないと思いますよ」みたいにバッサリと斬る。それがとにかく気持ちがいい。この人は短いことばにまとめるのがほんとうにうまいなぁと感心しています。
堀江 この前「君の名は。」の新海誠監督のインタビューを読んだら、同じようなことを言ってました。長い映画はとてもじゃないけど観てられないから、あの映画は2時間以内におさめることを意識したと。そういう意味では秒単位でつくっているCMも僕はすごいと思いますよ。
<世の中を変えることば>
並河 僕が堀江さんのお手伝いをさせていただいている「ピ」というプロジェクトがあります。胃がんの99%はピロリ菌が原因なんですけど、ピロリ菌の感染を減らすことことで胃がんを防ごうという活動です。堀江さんにこのプロジェクトを始められた理由をうかがいたいのですが。
堀江 長生きをしたいので、医療に関わりたいと思ったんです。お医者さんといっしょにサプリメントをつくったり、再生医療の話を聞きにいろんなところにインタビューしに行ったりして、その中でピロリ菌のことを知りました。ピロリ菌ってパースにある西オーストラリア大学のチームが発見して、ノーベル賞も受賞しているんですけど、そのあとに日本人の医師が胃がんとピロリ菌の関係を解き明かしているんですね。「ホリエモンドットコム」にインタビューを掲載するために直接その先生にアプローチしました。「ホリエモンドットコム」って僕のオウンドメディアなので、そこで好きなことを書けるんですよ。
篠原 そういうメディアって日本にはほとんどないですよね。
堀江 そうですね。ナショナルジオグラフィックとかWIREDなんかは近いのかもしれないけど、本質を掘り下げてインタビューできる記者って日本にすごく少ない。僕は自分が興味を持った分野の人にどんどん会いに行って、ノーベル賞を受賞した人たちにも受賞前にインタビューしています。LEDの中村修二さんとかニュートリノの梶田隆章さんとか。
篠原 声をかけるのが早い!
堀江 ピロリ菌の先生もそうで、取材しに行ったら驚きの事実がたくさん聞けました。胃がんの発生率って北に行くほど高くて、沖縄県なんかは低い。これは塩分の多い食生活に関係があるといわれていたんですけど、じつはピロリ菌が原因であることが最近になってわかってきました。つまり東南アジアのピロリ菌にくらべて東アジアのピロリ菌は胃がんになりやすい。
篠原 へぇ、そうなんですか。
堀江 感染症ががんの原因であることも多いんですよ。例えば子宮頚がんもHPVというウィルスの感染症なんですけど、いろいろなクレームがついて日本ではワクチン注射が今は中止されているんです。でも、死ななくていい病気で死ぬのって嫌じゃないですか。
並河 そういうタイトルの本を出されていますよね。
堀江 2016年に予防医療普及協会を立ち上げて、『むだ死にしない技術』という本を出版しました。
並河 無駄なことをしないという点でそこも一貫してますよね。ふつうは病気になってから病院に行って、お金をかけて治すという順番です。でも、予防をしていれば無駄なお金を払わなくていいわけだから。
堀江 死ぬ病気って、いまはすごく少なくなってるんですよ。脳溢血、脳梗塞なんかも年に1度脳ドッグを受ければ予防可能な場合も多い。がんの予防もどんどん進化しています。マイクロRNAという遺伝子の断片みたいなものががんの発生に関わっていて、血液検査をするとがんのリスクがどれくらいかわかる。リスクの高い人たちには四半期に1度腹部のエコー検査や超音波検査して画像解析すると、初期段階でがんを発見することができるんです。ゆくゆくは老衰以外の死因はなくなるんじゃないかというくらい技術は進んでいるので、それをやらない手はないと思います。食事をオーガニックにするとか、毎日ヨーグルトを食べるとか、そんなことよりも免疫力を上げる方法はいくらでもあるわけです。そういうことをことばで啓発していければいいと思うんですけどね。じつは予防医療普及協会でもちょっと考えているんです。ワンフレーズで世の中を変えるようなことばを。
篠原 それはすごくいいですね。
堀江 小池百合子さんが都知事になられたけど、あの人のいちばんの功績は「クールビズ」ということばをつくったことだと思います。いまは真夏にダークスーツを着て、ネクタイを締めているサラリーマンが激減しましたよね。
並河 そうですね、「クールビズ」ということばができてからは。
堀江 そう、あれってことばだけなんですよ。あと、小池さんが唱えている政策に「満員電車をなくす」っていうのがあるんですけど、そのために夜間も電車を運行しようとか、2階建ての電車をつくろうという提言をしている。2階建て電車というのも、いま新幹線にあるような2階建て車両じゃないんです。駅のホームを2階建てにするっていうコンセプトなんですよ。
並河 2階の座席には2階のホームから乗るということですね。
堀江 そう。それだとホームを2階建てにするだけだから、線路を複線化、複々線化するよりローコストでできる。でも、ほんとうは満員電車をなくすのって「時差通勤」「職住近接」「テレワーク」「ダイナミックプライシング」、この4つを徹底するだけで簡単に実現できると思いますけどね。
<コピーライターに修行は必要か>
並河 堀江さんの本をいろいろ読ませていただいたんですけど、本の中で堀江さんは「王様は裸だ!」と言うことで世の中の空気を変えていきたいと書かれています。そこが堀江さんのことばの本質なのかなと思います。
堀江 それでいうと、最近「寿司屋で10年修行する奴は馬鹿だ」っていう問題提起をしました。わりと意図的に。
並河 読みました。
堀江 イラッときた人もたくさんいたと思うし、バラエティ番組でも物議を醸しましたけど、要は10年修行しても得られるものってそんなにないと思うんですよ。徒弟制度っていまだに「見て盗め」の世界だし、そもそも調理器具にさえ触らせてもらえない。でも、効率的に教えれば寿司は半年で握れるようになるし、実際「すしアカデミー」っていう寿司職人の育成学校ではそうやって教えているんですよ。
篠原 たしかにそういうところはありますよね。
堀江 得るものが少ないだけじゃなくて、徒弟制度には弊害もあると思います。玉子焼きには関東風の甘い玉子焼きと関西風の出汁巻きがあって、舌に吸いつくようになめらかな関東風の玉子焼きを出す店があるんです。その玉子焼きは飽和濃度くらいの砂糖を入れているんですけど、砂糖の量を正確に計っている。そうなるともうパティシエの技術なんですね。パティシエの世界では計量が基本で、目分量なんてありえない。でも、寿司職人っていまだに目分量じゃないですか。それだけ進化がないんですよ。徒弟制度で育った人の玉子焼きは先代から受け継いだ古いままの玉子焼きで、それは徒弟制度の弊害だと思いますね。
篠原 なんで玉子焼きにそんなに詳しいんですか(笑)。
堀江 マイクロソフトでナンバー2を務めたネイサン・ミアボルドっていう人が分子料理の本を書いているんですけど、IT業界の人が料理の世界にやってきている。いまはITを駆使すれば最新の情報が簡単にキャッチアップできる時代なわけで、そういう時代に寿司屋で10年修行して芽が出なかったら、その時間は無駄ですよね。修行した人ほど進化できないということもあると思います。
並河 なるほど。コピーライターの世界も修行に似たところがありますけど、篠原さんはそれについてはどう思いますか?
篠原 修行といっても師匠の技を盗むという感じじゃないよね。師匠もいるけど、最後は自分で書かなきゃいけないから。
並河 そうですね。
篠原 コピーを何百も書かせる人もいれば、そうじゃない人もいる。教え方っていうのは意外と更新されているんじゃないかな。
並河 コピーを教える技術を確立して、一週間プログラムを受けるとコピーが書けるようになる。今後はそういうこともやるべきだと、今回「ことばみらい会議」を開催してちょっと思いました。
堀江 それに関して言うと、僕は「堀江貴文イノベーション大学校」というのをやっていて、このあいだメンタリストのDaigoさんに来ていただいたんです。Daigoさんって自分が読んだ本のレビューをニコ動でやっているので、1日に20冊くらい本を読んでいる。で、イノベーション大学校でコピーライターの佐々木圭一さんが書いた本の話になって。
並河 『伝え方が9割』ですね。
堀江 Daigoさんが言っていたのは、あの本は佐々木さんの経験と感覚に基づいた定性的な分析であって、エビデンスに基づいた定量的な分析ではないと。もちろん間違ったことが書かれているわけではないけど、コピーを教える技術はまだ定性的に確立しているだけだから、学術的に掘り下げる要素はまだまだあるという話でした。
並河 なるほど。
堀江 そのときDaigoさんからコピーライティングに関する本を教えてもらったんです。デイヴィッド・オグルヴィが書いた『「売る」広告』。ジョン・ケープルズの『ザ・コピーライティング―心の琴線にふれる言葉の法則』。ジョセフ・シュガーマンの『全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術』。ダン・ケネディの『究極のセールスレター シンプルだけど、一生役に立つ!お客様の心をわしづかみにするためのバイブル』。みなさんも読んでみることをおすすめします。
並河 ありがとうございます。
堀江 そういう本の中に全部書いてあるんですよね。A/Bテストの話とか、リピートの法則の話とか。読んで実践したらすぐに一流のコピーライターになれますよ。つまりコピーライターの世界もまだ寿司職人と同じということです。
並河 でも、コピーライティングの技術を共有して、パッと学べるようにしても、最後の最後はセンスの問題になると思うんですよね。
堀江 センスも重要ではあるけど、やっぱりほとんどは技術だと思うんですよ。プロ野球にくらべると高校野球のほうが下手だけど、それは単純に技術を教えてもらってないからで、プロと高校生が交流してプロがちゃんと教えれば、高校生にもプロのテクニックが身につくと思います。
並河 なるほど。コピーライターの技術について篠原さんはどう思いますか?自分の方法論とかありますか?
篠原 僕はすごい才能があるわけじゃないので、片っ端から考えていくようにしています。
並河 1年間に20本以上もつくっているということは篠原さんの中にたくさんの引き出しがあるんでしょうね。
篠原 脳というのはおもしろくて、たくさんの仕事を一度にやっているときのほうがいいアイデアが浮かぶ気がします。auをやりながら家庭教師のトライもSOYJOYも宝くじもやっているようなときですね。逆にプレゼンまで一ヶ月もあったりすると、おもしろいアイデアが浮かばなかったりする。
<キュレーションとDJの時代>
並河 アイデアの発想に関して、方法論とは別に、感覚的な側面もあると思います。そういった理屈では語れない部分について堀江さんはどう考えていますか?
堀江 僕の場合まず重要なのがインプットです。ネットにある大量の情報をキュレーションして効率的にインプットする。それを頭の中で整理をしながらどんどんアウトプットする。そういうことを毎日やっていると、テーマを与えられたとき、蛇口をまわすと水が出るように、いくらでもアイデアが出てくるようになりますよ。メルマガで読者からの質問に答えたり、オンラインサロンで参加者とやりとりするのも刺激になるし、対談なんかもそうですね。
並河 大量の情報をインプットして、それを整理しながらアウトプットしていく。ことばの技術に関してとてもいい話をしていただきました。
堀江 そうそう、つまりDJです。キュレーションの時代っていうのはDJの時代なんです。
篠原 リミックスするということですね。
堀江 そうです。イノベーションをいちばん先取りしている業界って音楽業界なんです。どうしてかというと、音楽ってデータが軽いから。レコードがCDになってデジタル化したことで、初めて音楽がデータになったわけです。で、いまは形すらなくなって、mp3とかの完全なデータになっちゃった。音楽が安価で大量に流通するようになったことで、DJのハードディスクには数千万の曲が入るようになって、彼らはそれを全部知っている。つまり僕がさっき言ったように、膨大なデータをインプットしているわけです。どんなメロディーラインが心をつかむかとか、いまのトレンドが頭に入っているから、あとはそれをアウトプットするだけ。誰に作曲を頼むかとか、誰をフィーチャリングするかとか。
篠原 ビジネスモデルが完成されていますね。
堀江 他の業界もこれからすべてDJの時代になると思います。僕はだから音楽業界をベンチマークにしています。音楽業界で起こったことは必ず他の分野でも起こるので。定額制の配信も音楽業界がいち早く取り入れたけど、いまは定額制の映像配信サービスだってある。この先、定額制の飲食店とかも出てくると思いますよ。で、そうなると、売れないミュージシャンがロングテールの端にいっぱいいるように、すべての業界がロングテール構造になっていくんです。そうするとどうしてもキュレーションが必要になってくる。これからはキュレーションをする人がいちばん偉くなるし、いちばん稼ぐようになると思います。いまもDJが何十億円も稼いでるでしょう。
篠原 コピーもキュレーションしたほうがいいかも。
堀江 そうだと思いますよ。コピーって蓄積されたデータ量がそれほど多くないのでキュレーションもしやすいし、もしかしたらAIにもできちゃうかもしれない。売れるコピーをAIにいっぱい覚えさせたら、コピーメーカーみたいなものがつくれるかも。
篠原 そうですね、とくに「売れるコピー」はできるかもしれない。
堀江 AIに10個くらい候補を出させて、A/Bテストをやらせる。そしたらメソッドが全部つくれますからね。そうなったら広告代理店のクリエイターの仕事はボタンを押すだけになるかもしれませんよ。
並河 職種はコピーキュレーターですね。
堀江 コピーのキュレーションができるごく少数の人たちが独占する業界になるかもしれませんね。その頃は篠原さんも自分用にすごくチューンナップされたAIのボタンを押すのが仕事になる(笑)。
篠原 それだったらいいけど、ロングテールの端にいるかもしれない(笑)。
堀江 いやいや、左うちわで何十億と稼いで馬主ですよ。
篠原 僕も堀江さんも競馬が共通の趣味なんです。でも、たしかに音楽業界から学ぶことは多いですね。
堀江 そうなんです。僕はいま「テリヤキ」っていうグルメサービスをやっているんですけど、そこでもキュレーションがすごく大事。どういうことかというと、食べログみたいなグルメサイトって評価の高い店も低い店も載ってるじゃないですか。
篠原 そうですね。
堀江 でも、ぶっちゃけて言うと不味い店なんか行く必要ないわけですよ。テリヤキでは年間500食以上外食している人たちがキュレーションした店だけを厳選しています。だから掲載は3000店くらい。それでもふつうの人は一生に3000店も行けないですよ。
篠原 なるほど。
堀江 ユーザーも食に興味のあるアーリーアダプターばかりなので、店からすると客筋がいいんです。「堀江さんのアプリのおかげですごく助かっています」と言われることがあるんですけど、win-winの関係が築けてよかったと思います。こういう分野ってほかにもいろいろあるんだろうなと思うんですけど。
並河 コピーライター業界はどうですかね。定額制のコピーサービスとか。
堀江 定額制のコピーがあったら僕は使うかもしれない。
並河 ほんとうですか?
堀江 うん。あとは定額制グラフィックデザインとかも。グラフィックデザインって技術的な部分が大きいから意外と定額制と相性がいいかもしれないです。定額制のプレゼンテーションなんかもいいかもしれないな。
並河 プレゼン資料をつくってくれる人ですね。それはいいですね。
堀江 ちなみに今度、プレゼンの本をつくるんですよ。
篠原 ほんとうにたくさん本を出しますね(笑)。
堀江 それは本を量産できる仕組みができたから。
篠原 どういう仕組みですか?
堀江 本を出して売れると、次はさらにクオリティの高い本が出しやすくなる。そうすると書店に平積みされやすくなるので、さらに売れる。売れてる本の著者の本が売れるという仕組みです。それとやっぱりDJの要素ですね。たとえば先ほどの予防医療の本なんかも僕が自分で執筆している部分よりインタビューがメインで、僕が会いたいお医者さんのところに行って話をしているわけです。だからこれもキュレーションなんですよ。
並河 今日のキーワードはDJとキュレーションで決まりですね
堀江 5年くらい前に佐々木俊尚さんが『キュレーションの時代』という本を書かれているんですけど、僕はそれを実践しているだけです。
<みんなのものになることば>
並河 他の業界で起きているイノベーションを自分の業界に置き換えて考えたことがなかったので、今日はとても新鮮でした。そろそろ時間がなくなってきたので、最後におふたりから「ことば」についてひとことずついただきたいと思います。では篠原さんからお願いします。
篠原 僕はすべての職業の中で小説家がいちばんかっこいいと思っているんです。なので、ことばで何をしたいかということ言うと、個人的には小説を書いてみたいですね。
堀江 小説いいですね。僕も福岡県のPR企画でこのあいだ短編小説を書きました。小林麻耶さんとか、田中里奈さんとか、何人かがリレー形式で執筆しているんですけど、「ぴりから」というサイトで読めるのでぜひ読んでみてください(http://pirikara.jp/pc/)。ことばに関することで言うと、先ほども言ったように、僕はワンフレーズで世の中を変えられると思っているので、一度そういうことをやってみたいですね。やっぱり世の中を変えるのはことばとテクノロジーだと思うんですよ。テクノロジーもいまの時代に大事なのはインベンション(発明)ではなく、イノベーション(革新)。昔は図書館で本を読んで必死に暗記をしていたけど、いまはググるだけで膨大な知識が得られる。だから暗記に時間を使う必要がないんですよ。小説家の冲方丁さんが言ってたんですけど、昔は50代、60代にならないと時代小説が書けなかったそうです。なぜかというと、時代小説を書くためには、過去の膨大な資料を読み込まなければならないから。でも、いまはネットでいくらでも調べることができるので、冲方丁さんも『天地明察』のような傑作を30代で書くことができた。ネットで得た知識をDJのようにミックスするだけであたらしいものがつくれるようになったわけで、それって発明の本質なんですね。先人がやってきたことをリミックスするのが発明。なので、リミックスを効率よくやればインベンションは簡単に起こせるんです。一方、イノベーションの種っていろんなところにいっぱいあると思うんですけど、それを世の中に広めるのがすごく難しい。そこで重要なのがことばの力だと思います。キャズムを越えるためにことばってすごく重要なツールだと思います。
篠原 僕のいまのテーマも「大衆化」です。僕も昔は尖ったコピーを書いていて、それをおもしろいと言ってくれる人もいた。でもそれって大衆化しないんですね。ボリュームゾーンにいる人たちには尖った難しいコピーより、もっとゆるいもののほうがウケる。
堀江 アーリーアダプターはほっといても食いついてくるから、いかにレイトマジョリティーにリーチするかが重要ですよね。そこでことばの力です。講演会でよく話すんですけど、iPhoneを成功させた最大の要因は「iPhone」という名前だと思います。「電話」という名前にしたからレイトマジョリティーの人たちでもすんなりと受け入れることができた。でもiPhoneの実態ってUNIXパソコンですからね。BSD/OSを源流とするNeXT/OSで動いている立派なUNIXパソコン。でも、そんなことを言わずにスティーブ・ジョブズは「電話を再発明しました」と言った。
篠原 自分にも関係のあるものだと思わせたんですね。
堀江 まさにそうですね。iPhoneが登場したことでいろんなネットサービスが普及したし、さらにいうとiPhoneの中にたくさんのセンターが積まれたことで、センサーのコストがものすごく下がって、センサーの小型化、低消費電力化が進んだ。それがドローンやロボットや自動運転につながっているんです。つまり、現在のIoT革命はすべてiPhoneから始まっているわけ。
篠原 ネーミングの勝利ですね。
堀江 ジョブズは世界最高峰のコピーライターでもあったと思います。とにかくことばですよ、大事なのは。
並河 まだまだお話を聞いていたいのですが、終了の時間が来てしまいました。最後に「イノベーションを生み出すために必要なのはことば」という話をうかがえて、コピーライターとして勇気をもらえました。堀江さん、篠原さん、本日はどうもありがとうございました。
(了)