アクロボール/遺書 172秒 男:
今日、私は死のうと思う。
あなたがこれを読んでいるという事は、
私はもうこの世にはいないだろう。
先立つ不幸をどうかお許しください。
私はもう何も書けなくなってしまった。 
物が書けない小説家などに何の価値もない。
それは、計算間違いをする電卓みたいなもので、
言わば、羽の無い扇風機、くぼみのないスプーン、
使い切った殺虫剤みたいなものだ。
…遺書で言葉がどんどん出てくるというのは、
何とも皮肉なものです。
なぜ書けなくなってしまったのかは、わからない。
ただ、昔の自分が今の私を見たらさぞ悲しむだろう。

思えば、ひたすら書き続けた人生だった。
友人は恋人を作り、べっこう飴のように甘く
幸せな家庭を築く中、
私は書き続けた。
またある友人は会社を興し、
富が富を生む螺旋階段を駆け上がる中、
私はただ書き続けた。 
…書くしかなかったのだ。

何の疑問もなく、
書きまくっていたその頃の私は、
その腹の中に石炭をしこたま蓄えた
暴走機関車のようで
回し車で狂ったように走り続ける
ネズミのようで
細胞分裂をやめようとしないアメーバのようで、
今もなお膨張し続ける宇宙のようで…

男:
どんどん、書ける…。

S:
筆が止まらぬ書き心地
アクロボール

男:
書くよ~どんどん書よ、
これからもどんどん書くよ〜書くよ!

NO.2017654

広告主 パイロットコーポレーション
受賞
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 WEB
コピーライター 廣瀬泰三 小堀友樹
掲載年度 2017年
掲載ページ 432