おしりの火傷と、A子ちゃん。
時代は令和になりましたが、
さかのぼること三十年。
小渕さんが「平成」と掲げたあの年、
僕は小学一年生になりました。
神戸といっても西区は山の上、
「100万ドルの夜景」ではない神戸の冬は寒く、
そんな冬の思い出といえば、トイレです。
冷たい便座におしりをつけるのが嫌で、
トイレの度に、空気イスのように
ふんばっていました。
でも結局、おしりと便座がくっついて
「ひゃっ!」となるのでした。
だからトイレに行く前、
居間にある石油ストーブで
おしりをあたためていました。
やかんを置いて湯気が出る、
おもちとか干し芋が焼ける、
網で覆われたストーブです。
ズボンを後ろだけずらし、
地肌をギリギリまで近づけて
暖をとっていたのです。
「そのままオナラせんといてよ、火事なるで。」
ある冬休みの午後、
そう母に制されたのですが…
あたためられたおしりが便座に冷やされると、
なんとも気持ちよくて。
その日はいつもより寒く、
普段よりおしりを突き出して、
おしりをストーブにかざしていたとき、
事件は起こりました。
僕は、おしりを火傷しました。
ストーブの網目が、
僕のおしりに焼き付きました。
高級なハムのようでした。
そしてジンジンとおしりから
脊髄を刺激するような、痛みが走りました。
何もしなくても痛い。
触っても、座っても痛い。
もう我慢できません。
何よりトイレをしたい。
でもこのおしりを、冷え切った便座に
つけられるはずがないのです。
僕は様々な苦痛に耐え、
母に連れられて家の近くの病院に行きました。
そして入り口の前で、僕は足が止まりました。
その病院には、
同級生の女の子、A子ちゃんのお母さんが、
看護士として働いていたのです。
僕は思いました。
このまま診察すると、
A子ちゃんのお母さんに
「おしりを火傷した子」と知られ、
仲の良かったA子ちゃんに嫌われ、
きっとみんなからキモチ悪がられる、と。
僕は「おしりを火傷した
『キモチ悪いヤツ』」として、
小学校生活六年間を送ることになる。
尻に火がつくとはこのことか——。
くだらないことを考えながら
うつむいていました。
すると「こうちゃん、どうしたん?」と
後ろからA子ちゃんの声。
まさか…。
おしりを突き出して、
明らかに不自然に振り向く僕。
そんな僕(のきっとおしり)を見つめる
A子ちゃんのまっすぐな目。
きっと引くだろう。キモチ悪がるだろう。
でも、僕はあきらめました。
すべてをA子ちゃんに伝えました。
するとA子ちゃんは
「なにそれ!アホやな!」と笑ってくれました。
今度私もやってみよかな(やめたほうがええよ)
なんて言いながら、
キラキラした笑顔で
僕を励ましてくれたのでした。
冬休みが明け、
僕はA子ちゃんの尻に敷かれながらも、
「おしりを火傷した『おもろい奴』」
になることができました。
自分ではおしりの火傷
を「恥ずかしい」と思っていました。
でも「それはおもしろい」と価値転換し、
尻拭いをしてくれたA子ちゃん。
そんなA子ちゃんの
「それってAではなくてBじゃない?」
という言葉。
ここに僕の、広告を考える原点がある、
と、今改めて思います。
どんな人もモノもコトも、
企業・商品・サービスにももちろん、
いいところも悪いところもあります。
その価値をどう言葉にして、
いいところはもっと魅力的に、
悪いところをどう価値転換できるか。
ご本人、当事者にはなかなか見出せない、
そんな新しい価値を言葉にしていきたい。
「働くって、いいもんだ。」で
2019年新人賞を頂きました、歓崎浩司です。
これから5日間、
僕がこれまでに出会った、
勇気をくれた言葉たちを通じて、
自己紹介をさせて頂けたらと
考えています。
よろしくお願いします。
追伸:
古い病院でトイレは和式でしたので、
診察後、無事にトイレを
することができました。
おしりが便座につかない
冬の和式トイレに、
ぬくもりを感じた
小学一年生の冬でした。
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