リレーコラムについて

かき氷

今井容子

かき氷を食べました。

「八ヶ岳の天然氷」という看板がなんとなく
目に止まって入ったお店。

小洒落た陶器に盛られた氷は、
ほとんど綿雪みたいにふわふわで
半分くらい食べた頃には体の内側から
涼しくなりました。

メニューに書かれた「八ヶ岳の天然氷」の
文字をそれとなく見ていたら。
高校時代、自分が山岳部員で「八ヶ岳」に
登ったことを、急に思い出しました。

夏休みの縦走
(:山頂に登った後、下山せずに次の山へ向かう)は10日間。
女子高なので、部員は全員女子。

食料、鍋、テントや寝袋など、体の3分の2ほどにもなる
巨大なリュックを背負い、南アルプスの山々とその山頂を目指します。
その間、当然お風呂にも入れず、水場で顔を洗い、川で洗濯し、
新聞紙で包んだ野菜を少しずつ使い・・・
今の私では乗り切れそうにない険しめの日々を過ごすのですが、
どういうわけか大変だったことの詳細は覚えておらず。

鮮明によみがえったのは、朝の到来の景色。

紺色が淡い紫になっていき、水色がきて。
雲海がピンク色に染まって、黄金になって、
それで、朝がやってくる。

騒がしすぎる山部の思い出のなかで、
そこだけは音なく再生されます。眠気やら疲れやらとは
別の理由でみんなが黙っていたからだと思います。

朝がくる、というのは、すごいこと。素晴らしいこと。
理屈や説明なしに、そのことが分かった瞬間でした。

10日間の修行を終えて下山する日。
登山口近くの日帰り温泉に寄って、みんなで
さっぱりしてから好きなものを食べにいくのですが。
あの日も、そういえば私は、かき氷を食べました。

今日食べたみたいに繊細じゃない、
ガリガリの粗い氷に、真っ赤ないちごシロップ味。
でも、なんだかちょっと泣けるくらいおいしかったのでした。

ずっしり重い登山靴を脱いで、
スニーカーに履き替えたときの飛べるんじゃないか
くらいの足の軽さが好きだったなぁ。

あんなに一生懸命だった山岳部でのできごとを、
ここ数年、思い出すことすら忘れていた自分にも
驚かされつつ、苦笑

ふと思い出した光景に、
元気をもらうこともあるのですね。

今も、八ヶ岳は、
私が何をしていようとしていまいと
堂々とそこにあるのだと思います。
その近くで混じりけのない透明な氷が
できあがっているのかなぁ。

と遠くの山々に思いを馳せながら最後のコラムを終わります。
読んでくださった方、ほんとうにありがとうございました。

来週は、

英語が話せない
男たちだから、
グローバル化できた。

で今年、新人賞を受賞された内田翔子さんに
バトンを受け取っていただきました。
ほんわかしつつ芯があってとても素敵な後輩です。
コラム楽しみです。どうぞよろしくお願いいたします。

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