児島令子さんは癖になる④
振り返れば、僕の青春後期は児島さんとの本当に
くだらなくて楽しいエピソードにあふれている。
旦那でも恋人でもないのに彼女のマンション購入
会につきあわされて不動産屋さんが戸惑っていた
件。酒の席で大物ADに「あんたの話は、おもろ
ないねん!」と何度もからむもんだから横で冷や
汗をかいていた件。貧乏時代の児島さんの事務所
の薄っぺらなユニットバスのトイレを借りようと
したら「ジョボジョボ音たてんといてな」と無茶
な釘をさされた件などなど。
ひとつひとつがバカバカしくておもしろいのだが、
また稿を改めよう。
最後はやはり「コピーライター児島令子」のはな
しをしよう。
昔、児島さんと宣伝会議のトークショーに出たこ
とがある。ほんとうは彼女が目玉なのだが、「ひ
とりで出るのはやだ」とか主催者にわがままを言
って、僕に白羽の矢があたったのだ。なので、対
談といっても僕はもっぱら黒柳徹子的な聞き役に
徹した。
その時に彼女がしてくれたハナシというのは、ほ
んとうにお宝だったのだが、コピーライター未満
の人にはちょっと難しかったかもしれない。
彼女が一貫して言っていたのは、「コピーは私の
中にある」。
コピーライターは商品や企業のエージェントとし
て世界の森羅万象を語らなくちゃいけないのだけ
れど、コピーライター本人の「どう感じる?どう
思う?どう考える?どう生きる?」抜きにして、
つまりライターの「わたし」というフィルター不
在でよいコピーなど書けるわけがない。というの
だ。
それは単純すぎて見過ごされやすい真実だ。
時おり「コピーはビジネスで自己表現ではない」
としたり顔で言う人がいるけれど、まあそれはそ
れで分からないわけでもないけれど、そういう意
味では児島さんのコピーはすべて「自己表現」だ。
少女のころから、私はなにかが「特別」だと思い、
でもその特別の正体が分からず、一時は服飾デザ
イナーを目ざし、著名なアパレルメーカーに入社
したもののコンビニの本棚でコピーライターとい
う職業と出会い、転職し、独立し、大成し、愛し
していたお母さんの死に打ちのめされ、大病し、
恋し、破れ、今日も大阪で友人たちとカラカラと
笑いながら酒を酌み交わしている。そんな児島令
子さんの人生がまるごと反映して、彼女のコピー
は生まれている。彼女はコピーのために、「わた
し」とその感情を捨てたりしない、無視したりし
ない、曲げたりしない。コピーのシュトゥルム・
ウント・ドランク。
そう考えると、彼女の代表作のひとつのこのコピ
ーの理解深度がひとつ上がるはずだ。
私、誰の人生も
うらやましくないわ。
(1999年 松下電器 シングル家電)
(終わり)
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さて、次はコピーライター和田佳菜子クン、通
称ワダカナ。そういえば、話し出したら止まら
ない感じが児島さんに似てるな。うん。
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