2.名前から変わりはじめる。
5年間勤めた広告代理店を辞めて独立した。
独立するからには屋号が必要である。
さんざん悩んだ挙句、neuron(ニューロン)という言葉を
自分のとなりに置くことに決めた。
ニューロンとは、脳の神経細胞のこと。
外からの刺激に反応して柔軟にネットワークを変え、
連想や、空想や、創造などをもたらすもの。
平たく言えば、考え、つなぎ、生み出す集合体、といったところである。
新しくて、大きくて、知的で。
何より自分「らしくなくて」良いと思った。
音にしたとき、ニューと入っているのもよい。
名前をつけた効果はすぐあった。
立ち位置に悩まなくなったのだ。
代理店にいた頃は、自分がコピーライターなのか、
コミュニケーション・プランナーなのか
はたまたクリエイティブ・ディレクターなのか、
時々わからなくなることがあった。
正確に言えば、どの職能を買われていて、
どの職能で生きていきたいと思うのか。
器用貧乏がゆえの悩みである。
ところが、今の僕は神経細胞である。
個体であると同時に、集合体である。
この名で活動するからには、必然的にユニットにならざるを得ない。
それは小山田圭吾にとってのコーネリアスみたいなもので、
ジェームス・マーフィーにとってのLCDサウンドシステムみたいなもので。
マリリン・マンソンにとってのマリリン・マンソンや、
ファイト・クラブにおけるタイラー・ダーデンとは、ちょっと違う。
まあとにかく、案件によって自由に有機的にチームを組み替え、
その中で相対的に、色んな立ち位置を取ることが苦でなくなった。
代理店も制作会社もフリーも、ときにはクライアントも。
上下じゃなくて、横に並んで、近い距離で、
ともにつくり上げていく仕事が増えてきたように思う。
コピーもできるだけ二人体制にして書くようにしている。
相手のアイデアに驚かされるのはもちろんのこと、
相手に刺激を受けて、
自分自身から思いもよらない案が出てくることが面白い。
これも、名前に導かれるように、
無意識での選択を続けた結果、と言ったら大げさだろうか。
人は生まれたときに名前をつけられる。
けれど、その名は自分では選べない。
そして周りを見渡しても、
「真実(まこと)さん」は不器用すぎるほど真っ直ぐだったり、
「俊一さん」はとってもフットワークが軽かったり。
無意識のうちに名前で性格や行動が規定されていくことも、あると思う。
もしもあなたが今、生きづらいと感じているなら。
それは手持ちの名前が、
今の自分に合わなくなってきているのかもしれません。
屋号でも、ペンネームでも、肩書きでも。
行き詰まったら、名前をつけること、おすすめです。
*
neuron 味村 真一
mimura@neurontokyo.com
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