金鳥ロマン小説 ピンクのよろめき
第四話<小俣拓也> こんなまっピンクのポロシャツ。初めてこうた。鏡見て
わろたでほんま。これで太ったらどうしようもないけど、
腕立て一〇〇回日課にしてきた甲斐があったなあ。
作戦はこうや。
あのおばはんが来る時間を見計らってスーパーの外をう
ろうろする。むこうがこっちに気がつくのを待つ。目立つ
色や。いやでも気ぃつくわな。そこで初めて自慢のバリト
ンボイスで声をかける。
「あ、偶然ですね」
と言うてから三秒、間を置いて
「いや、偶然じゃなくて・・・運命かも」
で、ちょっとはにかんで、目をそらす。決まりや。いや
あ、自分のこの才能がこわい。キンチョールで蚊ぁ落とす
より簡単や。
肌の色ももうちょっと黒しとかかと思てサンオイル縫っ
てベランダに寝転がってたら、ポン太が学校から帰ってき
よった。
「・・・また、女の人だまそうとしてるね」
「人聞き悪いなあ」
「父ちゃんみたいな人、社会のダニっていうんだろ」
うわ。傷つく。そやけどまあ、ほんまのことやから反
論でけへん。てへへ。
「勤労感謝、勤労感謝」
と言いながら、ポン太を置いてアパートを出る。
スーパーに近づいた頃に腕時計を見ると、そろそろタ
イムセールの時間やった。おばはんが来るはずや、急ぐ
か。と思って曲がろうとしたときーーー
ごす、と強烈な衝撃がアゴに走った。ふらっとなって、
後頭部から地面に倒れる。目の前に火花が散ったところ
へさらに「いったぁい」と悲鳴を上げながら、なにやら
あったかくてものすごい重みがおれにのしかかって来た。
それはつきたての巨大な餅やなく・・・臼井ピン子やった。
------------------------------------
小俣拓也が「偶然ですね」と声を漏らしたとき、彼の
アバラがぼきぼきぼきと音をたてた。
(次週につづく)