リレーコラムについて

天然キノコは山の味がする。栽培キノコは何の味がする?

横道浩明

私よりひとまわり以上若い女性コピーライターで、新潟出身のコがいました。
子供の頃、よく「バアちゃんが採ってきたキノコ」を食べさせられていたと言うので、
「どんな味だった?」と聞いてみたところ、「山の味がした」と。

普段、キレイに管理された食材を食べている現代人にとっては、
自然のキノコの味わいというものは「クセ」が強い。
いわゆる「きど味」というやつで、
食べてみると確かに山の味や森の香りがします
(中にはカブトムシの臭いがするキノコもある・・・)。
いまだに栽培方法が発明されていないマツタケは、
日本人こそ「うまい、うまい」と食べていますが、
欧米人からは「松ヤニの味がする」といって評判はよろしくない。
マツタケは赤松などと共生するキノコなので、
当然のように松の味や香りがするわけです。

採ってきた天然キノコを調理する際には、
ほとんどの場合、一度、湯でこぼしてから使います。
それでも、けっこうな主張が残るのですが、
やり過ぎてクセがなくなってしまうと、
無味無臭で、無難で、意味のない一品になってしまう。
キノコも人間も、おんなじですな。

天然キノコには、もう一つ、
市販の食材では感じられない独特の味があります。
それは、街で普通に暮らしていたら体験できない
「ありがた味」というやつ。

山で採ってくるキノコのほとんどは、
都会のスーパーでは見たことのないものばかり。
天然のキノコというものは基本的に足がはやく、
地産地消で終わってしまうので、都会までは流通しないんです。
旅先の朝市などで、見たことのないキノコが売られていることがあるでしょ。
つまり、ああいうこと。

最近、現代の食ビジネスによる「濃い味」に慣らされてきた若い人たちの間に、
味覚が鈍感になる味覚障害が増えていると聞きます。
味覚というのは、育ちにより形成されていくものですから。
人間に管理された味と、自然というものがそのまま前面に出てくる味と。
どちらに「ありがた味」を感じるかは、その人の哲学によるんでしょうねえ。

ちなみに、「(キノコに限らず)今まで食べてきたものの中で、
一番美味しいと感じたものは?」という質問に対し、
私なら「その日の朝に採ってきた旬の天然マイタケ」と答えます。
味、香り、歯ごたえのどれもが素晴らしい。
油断すると2〜3mは滑落するのが当たり前の急峻な斜面で採ってきた
「ありがた味」をさっ引いても、非常に美味なるものです。
その天然マイタケを炙って熱燗に入れた「マイタケ酒」が、
これまた、なんとも、まあ。

あ、打ち合わせに呼ばれたようなので、
今日はここいらでおしまいにしときましょう。

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