<TCC賞展2019トークライブ>井村光明×神田祐介×黒田康嗣 「CMはコピーのカタマリだ。」
TCC広告賞展2019トークライブ第一弾は、博報堂の黒田康嗣さんを進行役に、同じく博報堂に在籍するふたりのTCC受賞者、井村光明さんと神田祐介さん3人でのトークライブを企画していただきました。一時期同じ博報堂クリエイティブ・ヴォックスに在籍していたという3人。ストレートで息のあったトークが繰り広げられました。
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『TCC広告賞展2019』トークイベント
【TCC TALK LIVE Vol.1】
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「井村光明 × 神田祐介 × 黒田康嗣
CMはコピーのカタマリだ。」
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日時
2019年8月31日(土)11:00~12:15
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パネラー
井村光明氏(TCC賞/博報堂)
神田祐介氏(TCC賞/博報堂)
進行
黒田康嗣氏(博報堂)
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黒田
みなさん、お集まりいただきありがとうございます。本日の進行をつとめます博報堂の黒田康嗣と申します。よろしくお願いします。今日はふたりのクリエイターを招いて、「CMはコピーのカタマリだ。」というテーマでトークをしていきたいと思います。じつはこの3人は同じ博報堂所属で、長い間博報堂クリエイティブ・ヴォックスにいたことがあって、気心の知れた仲なのですが、お互いの仕事について深く語り合うというようなことはこれまであまりありませんでした。この機会に進行・パネラーというお行儀もちょっと置いておいてお互い突っ込んだ話をできればと思っています。ではまず、それぞれの紹介から始めます。博報堂のクリエイティブディレクター、CMプラナーの井村さんです。井村さんは1968年広島県生まれ。東京大学農学部を卒業し、91年に博報堂に入社。主な仕事に日本コカ・コーラの「ファンタ」、株式会社エムアイティーの「ルナルナ」、最近だと福島県の「TOKIOは言うぞ」、そしてACCグランプリ、TCCグランプリ、カンヌフィルム部門のシルバーを受賞した「さけるグミ」などがあります。
黒田康嗣さん
井村
井村です。よろしくお願いします。
黒田
井村さん、神田さんの紹介、おねがいしていいですか?(笑)
井村
あ、はい、やります(笑)博報堂のクリエイティブディレクター、CMプランナーの神田祐介さんです。主な仕事にJMS「連続10秒ドラマ:愛の停止線」「I’m My Car」、マンダム「LUCIDO」、テレビ東京のドラマ「きのう何食べた?」企画監修、スポーツくじBIG「店員石田ゆり子」などがあります。受賞歴としてACCグランプリやアドフェストフィルム部門ゴールド、 文化庁メディア芸術祭マンガ部門、ロンドンインタナショナルアワーズなど数々の賞を受賞されています。
神田
神田です。よろしくお願いします。では僕のほうから先輩の黒田さんを紹介させていただきます。黒田康嗣さんは博報堂でクリエイティブディレクター、コピーライターをされています。1965年大阪生まれ。ポッカコーヒー「オッサン。」でTCC新人賞を受賞され、三井のリハウスでTCC審査員長賞、同じく三井のリハウス「みんなの声鉛筆シリーズ」で2013年のTCC賞を受賞しています。また、小田桐昭賞、クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ACCゴールド、FCCグランプリ、アドフェストなど数多くの受賞歴があります。
黒田
あらためまして黒田です。よろしくお願いします。今日は今年の受賞作はもちろん、これまでの仕事についても振り返っていきたいと思います。ではまず、神田君の今年のJMSから作品を観てみましょうか。
15秒でも長いと感じる
井村
そもそもJMSというのはどういう会社なの?
神田
JMSはトヨタモビリティパーツという会社が運営しているカー用品のお店です。日本だと大手数社のシェアが圧倒的で、JMSは認知があまり高くないのですが郊外都市を中心に展開しています。
井村
担当どれくらいですか?
神田
4年くらいです。
黒田
受賞作は全部で14話ありましたけど、一気に全部つくったの?
神田
予算の都合でまず7話を撮ってローンチしました。それが好評だったので追加で7話を撮って14話になり、さらに追加して今は21話になっています。
井村
じゃあこの続きがあるんだ。
神田
はい。続きをつくりました。もう公開してるのでネットで観られます。
黒田
この企画に至った経緯を聞かせてもらえますか。
神田
JMSには商品やメンテナンスメニューが豊富にあるので、それを伝えようというのがもともとの起点でした。それに対して長尺でいろんな商品を取り上げるという手もあったんですけど、ふだん自分がスマホで動画を見ていると、15秒でも長いなという思いがあって。だったら短尺のシリーズものにして、ひとつの動画に対してひとつの商品を紹介すればいいんじゃないかと考えました。
神田祐介さん
黒田
なるほど。
神田
ただ、5秒や6秒だと言いたいことを言って終わってしまい、続きを観てもらえない。次の展開が気になるストーリーを描くためにはやはり10秒は必要で、それで「連続10秒ドラマ」というフレームが生まれました。その時に取り上げる商品を最初から指定されるとストーリーがつくるのが難しくなるので、クライアントさんに協力していただいて、商品を広めにピックアップしてもらいました。
黒田
10秒あればストーリーが描けると考えて「連続10秒ドラマ」というフレームを企画したところ、そこが勝因ですね。新しい「やり方」から考えてる。ここ、ポイントですよ、みなさん。では続いて井村さんの受賞作を観てみようと思います。
商品のシズルをどうつくるか
井村
JMSの部長役と同じ俳優さんが出てましたね(笑)。
黒田
出てましたね。びっくりしました。ちなみに、ここは言っちゃいたいとこなんですが(笑)井村さんと神田君は師弟関係と言っていいですよね。
井村
いや、今は別に師弟という関係じゃないです。(笑)
神田
いえいえいえ、師匠です、師匠。(笑)
黒田
そうですよね。そういうこともちょっと関係しているのかな。
神田
キャスティングがかぶるというのはそうかもしれないですね。
黒田
そんな神田君から見て、このさけるグミのCMはどう思いますか。
神田
「3月のさけるグミ」とか「昼下りのさけるグミ」のように時間軸で切ってますよね。この企画に行き着いた井村さんの思考の過程がすごく気になっていて、一度お聞きしたいと思ってました。
井村
全部話すと長くなるんだけど、まず、去年同じ商品でTCCのグランプリをいただいたことがすごいプレッシャーで、その翌年にどんな企画を考えても絶対につまらなくなったと言われると思うと軽い鬱状態になっちゃって。僕もこの仕事を20年以上やってきたのでわかるんだけど、そういう時に無理しておもしろいものをつくろうとすると大体スベる。だったらふつうの企画でいいやと自分に言い聞かせて、シズル広告にしようと思ったんです。子どもがさけるグミを食べるだけ、みたいな。でも、考えてみるとおいしそうに食べるシーンやかっこよく裂くシーンは昨年全部やっていて。
井村光明さん
黒田
確かにそうね。
井村
いよいよ追い詰められて、もう売り場を描くしかないと思って、コンビニ店員の話を考えたんです。さけるグミが入荷してから売れるまでを描くみたいな。
黒田
はいはい。笑
井村
ところが、予算的にコンビニをつくるのが無理で、屋台だったらどうにかいけるという。「あ、屋台いいかも」と思って、あの企画ができたんです。
黒田
なるほど。制約から突破口につなげる。クリエイティブですね。
井村
で、時系列の話ですけど、ふつう広告って商品をほめるけど、さけるグミって特にほめようがない(笑)。売ってることしかほめるポイントがないなと思って、「今売ってる」ということを言うために「2月のさけるグミ」とか「3月のさけるグミ」というふうに毎月告知することにしたわけです。
神田
そういう理由だったんですね。
井村
最初は毎回「おやじ、今日はどう?」「こう暑いとさっぱり売れねえな」みたいな感じで、何かにつけて売れないところから始まって最後はどうにか売り切るというストーリーにしようと思ってたんですけど、いろいろあって今のかたちになりました。
黒田
このシリーズを見て、さけるグミという商品にすごくはまってると思ったんだけど、シズル広告という話を聞いてすごく納得しました。今年のが、さけるグミの広告という感じが今まででいちばん出ているような気がします。
井村
僕は「なが〜いさけるグミ」という商品がすごいと思っているんです。もし自分がUHA味覚糖に就職して、さけるグミの派生商品をつくることになったとしても、40センチのグミをつくるなんて考えられないと思う。あきらかに発想がおかしい(笑)。そのいい意味でおかしいところを商品のシズルにして、CMの中で商品をずっと映すということもテーマにしました。
黒田
最後の「なんでもない日のさけるグミ」はリリーさんが「あるよあるよ」って言ってるだけじゃないですか。途中、商品で通行人を叩いたりして(笑)。ああいうのは最初にどのくらい設定を決めて撮っているんですか。
井村
リンゴをトマトと間違えるというのは決めてたんですけど、叩くのはリリーさんのアドリブです。何かやってみましょうかと言ったら、ああなった(笑)。
黒田
屋台のおやじという設定でリリーさんが何を言ったらおもしろいかをプランナーとして感じ取って企画にしているわけで、そこがすごく重要なところですよね。
井村
僕も歳をとって細かい展開をあれこれ考えるのが最近めんどくさいんですよね。この企画は屋台があってそこに商品が置いてあればいいので。
じゃぁ、次はそろそろ黒田さんのお仕事にもつっこみを。(笑)
黒田
あ、では、相互ツッコミということで(笑)。僕の以前のTCC賞仕事を観ていただこうと思います。少し前の三井のリハウスの仕事です。
井村
この動画はよくタクシーで見ていました。黒田さんがやっているとは知らずに観てたんですけど、画面にすごく目が行くなと思って。音がなくても画面の強烈なコピーと絵でも何を言いたいかがわかる。この頃はもう部署が変わっていたので、こういう話をする機会がありませんでしたよね。
黒田
そうだね。
井村
あと思ったのは、広告って企業の言いたいことをおもしろく伝えようとするじゃないですか。僕も若い頃はそういうふうに考えていましたけど。でも今は言いたいことをそのまま伝えたほうがいいんじゃないかと思うようになって。三井のリハウスのCMも広告として言いたいことをちゃんと見つけて言っていて、しかもちゃんともっと観たくなるようにできている。そこがすごいなと。
黒田
ありがとうございます。
神田
さっきシズルという話が出ましたけど、このCMも住み替えというテーマから遠すぎず近すぎず絶妙な距離で言葉を構成していて、それもひとつのシズルなんだろうなと思います。結局商品から逃げないというのが広告でいちばんおもしろいんじゃないかと僕もおじさんになったので思えるようになりました。笑
黒田
今はもう3人ともクリエイティブディレクターになって、一緒に仕事をすることはまずないと思うので、あらためてこういう話をする機会があってよかった。
井村
そうですね。ほんとに。
黒田
それではここからは受賞作以外の作品も観ていきたいと思います。まずは僕がオススメの神田君のマンダムです。僕、これがすごく好きなんです。
CMのフレームのつくり方
黒田
マンダムの仕事は始まってからどのくらい経つんですか。
神田
2015年からなので4年目ですね。
井村
このCMにロボットキャラみたいのが出てくるけど、神田が若い頃にいつも出す企画があって、それが昭和のロボットものと天狗だったんです。
黒田
確かに。見たことある気がする!(笑)
井村
何かにつけて天狗の企画を出していて、「また天狗かよ」とか「おまえ天狗のことおもしろいと思ってんのかよ」って言われてた(笑)。その頃は天狗がおもしろいと思ってたんだろうね。
神田
入社2年目とか3年目くらいの時ですね。みうらじゅんさんが天狗に注目してましたけど、なぜか天狗が生理的に気になる時で(笑)。
井村
ロボキャラ企画も何度も出してて、ロボットに「ゲバラ」って名前をつけてたりしてた。
神田
そうですね。
井村
でも、なんで昔のロボットもの知ってんの?若いのに。笑
神田
小さい時によく観てたんです。その頃ロボットの特撮シリーズが流行ってたので。
井村
LUCIDOのCMを観た時にようやくその想いが実を結んだと思った。昔の知り合いに会うという設定とロボットものがやっと結びついたなと。
神田
成長したのかもしれません。
井村
あとは天狗をどう使うか(笑)。
黒田
では続いて、井村さんの「去年の」受賞作を観てみましょうか。TCCグランプリに輝いたさけるグミです。
黒田
すごいなと思うのは、これ、カンヌでも賞を取ってるんですよね。
井村
はい、シルバーですけど。
黒田
国内でもカンヌでも認められるコンテンツというのはほんとにすごいと思う。
井村
なんで評価されたのか審査員に聞いてみたんです。そしたら「どエロ」だと(笑)。外国人から見ると、ロングというのは明らかに男性の象徴として受け取るみたいですね。
黒田
それは企画の段階でほんのちょっとくらいは計算に入ってたんですかね。
井村
いつも言ってるんですけど、そんなことを考える余裕なんか全然なかったんですよ。そもそも商品自体が長さの違いを売りにしているわけですから。とはいえ、そういうふうに受け取る人もいるだろうなとは思いましたけど。
黒田
それは仕方ないなと。
井村
ただ、もし僕が意図的にエロをやっていたとしたら、もうちょっと露骨にやると思うんです。もっと露骨な言葉を入れたりして。
黒田
なるほどね。神田君はこのシリーズを観てどうですか。
神田
ひとつ聞いてみたかったんですけど、これは恋愛モノとVS構造はどちらを先に考えたんですか?
井村
最初にクライアントから言われたのは「なが〜いさけるグミ」をメジャーにしたいということ。どちらかと言うと、さけるグミがニッチな商品なので、長いほうをメジャーな商品にしたいと。そこから真面目に考えて、メジャーにするには説明しちゃダメだと思ったんです。長いとかおいしいとかの説明を一切せずに、コピーもないほうがいいなと。メジャーな商品って説明しないじゃないですか。商品名を言って終わり、みたいに。
黒田
そうですね。
井村
なので最初は、若いカップルが短いのを食べてる横でおじさんが長いのを食べてるというくらいの構成でいこうと思ったんです。VS構造もなくて、コピーも「さけるグミとなが〜いさけるグミ」だけ。ただ、何本かつくるとなると、それだけだと続かないので、じゃあVSをつけてみるかと。
黒田
それで対立構造になったんだ。
井村
はい。さけるグミとなが〜いさけるグミという2つの商品を同時に印象に残さなきゃならないんだけど、VSにするとそれ以上の説明がいらないんですね。
黒田
なるほど。なぜ2つの商品が出てくるかというと、「対立しているから」で済む。
井村
そう、それ以上の説明はいらない。
黒田
いちばん速くフレームに興味を持ってもらうための方法が「VS」という言葉だったんですね。
井村
タイトルがあると、何が言いたいのかがはっきりしてくるんです。でも、そこの考え方も僕と神田ではだいぶ違っていて、「愛の停止線」は最初どういうことかわからなかった。あのタイトルにはどういう意味があるんだろうって。
黒田
CMの構造を説明しているタイトルじゃないですからね。
神田
「愛の停止線」は商品を説明するタイトルではなくて、連続ドラマのシズルとしてつけています。30秒のCMだとストーリーとオチがあって、商品が出て終わるというパターンが多い。でも、10秒だとそんな余裕がないから、どこでおもしろくすればいいのかと考えて、予期せぬタイミングで商品が飛び込んでくる構造にすればおもしろくなるなと思ったんです。商品がオチで出てくるところから逆算して連続ドラマをつくっているので、それを際立たせるために「愛の停止線」というタイトルをつけたという感じです。
井村
シリーズでやる時のまとめ方って、プランナーの個性がすごく出ると思う。
黒田
そうだね。プランナーそれぞれの意識の違いはすごくありますよね。
企画のつくり方
黒田
今日は会場に、若い方が多いですね。ここからは時間をずっとさかのぼって新人賞の話をしたいと思いますが、時間があまりないみたい。
井村
ではまずは黒田さんの新人賞を観てみましょうよ。(笑)
黒田
ひょえー。そうですか笑。僕ら3人は同じ部署にいて、それぞれ考えた企画をCDにせーので見せていた頃もありましたね。これは、その後3人が散り散りになった頃の仕事でした。若い頃何で突破を図ったか、という意味でもちょっと観てみましょうか。
井村
これは何年くらいの仕事でしたっけ。
黒田
2005年くらいかな。
井村
僕と黒田さんが同じ部署になったのって2000年くらいですよね。僕が30歳くらいで、黒田さんが3つくらい年上で。
黒田
そうですね。クリヴォ(博報堂クリエイティブ・ヴォックス)で研鑽を積みました。
井村
歳が近かったので一緒に仕事をすることがあったんですけど、僕は黒田さんのことをすごく真面目な人だと思ってたんです。そんな人が「オッサン。」みたいなコピーを書いたので驚いた記憶がある。
黒田
「オッサン。」だって真面目なコピーじゃない。(笑)
井村
そうなんですけど、(笑)なんかギョッとしたんですよね。「缶コーヒーと男は、ちょっと甘めがいい」っていうナレーションが入ってて。一瞬納得しちゃうんだけど、「ほんとにそうか?」とも思う(笑)。そこを説明抜きに言い放っていて、黒田さんって真面目な人だと思ってたけど、やるなあ!と。
黒田
なるほど、そういう意味ね。この時は普通にタレントさんが出てコーヒーを飲むっていうCMじゃないものを!って提案したんです。ほんとに甘い缶コーヒーシズルがあるのは建設とか漁業とか林業とか体を使って働く男たちだと思いついて。甘いコーヒーというのはそういう人たちに愛されてるというマーケティングデータも見つけたんです。で、そこで表現をつくりたくて、そういうノンタレントの男たちかっこいい!って思って「缶コーヒーと男は、ちょっと甘めがいい」ってあえて強引に言ってみたわけ。
井村
「缶コーヒーと男は、ちょっと甘めがいい」の前に来るのが「オッサン。」みたいな強い言葉じゃなかったら、その論理の綻びに気づかれたかもしれませんね。
黒田
突っ込むねー!(笑)まさにそうですね。
井村
えらそうに説明するんじゃなくて、「オッサン。」で押し切る。ちょっと暴力的なところかっこよかった。
黒田
ありがとうございます。(笑)さあ、では次に井村さんの新人賞を観てみましょう!
JリーグカレーのCMです。これは何年でしたっけ?
井村
1994年ですね。もう25年前だ。
黒田
今観てもインパクトがありますね。
井村
会場はシーンとしてますけど(笑)。
黒田
いやいや、そんなことはない(笑)。
井村
これは僕が2年目くらいの時の仕事で、観てわかるように広告の王道なんですね。食べたら大きくなる、みたいな。
黒田
神田君は観てどうですか?
神田
井村さんとはずっと一緒に仕事をしていたので、たくさん企画を見ているんですけど、言葉で勝負している印象が井村さんにはあります。でも、このCMは言葉より絵で勝負という感じですよね。若い時はこういう企画が多かったんですか?
井村
まあ2年目だからね。ただ、これは今でも変わらないけど、出始めのタレントを起用すると新鮮に見えるんです。で、この時はラモスさんがそういう存在だった。企画としてのレベルは低いんだけど、わりと話題になって、僕のところに取材が来たり、マクドナルドで隣にいた女子高生たちがこのCMについて話したりしてた。みんながCMを観て、それを話題にするという時代が昔はあったわけ。商品と一見、直接的に関連しないエリマキトカゲやウーパールーパーのような動物が出てきたりして。
黒田
そうですね。
井村
世の中で話題になりそうなものをそのまま出せばいいというゆるさがあったけど、今はもっと理由が求められますよね。商品に結びついてないとダメで。
黒田
商品のセールスポイントをそのまま言うんじゃなくて、商品の持つ大きな概念をつかまえてそれをコピーや企画にしていたと思うんです。それは今でも大事だと思いますね。ということでそろそろ終わりの時間が近づいてきたのですが、最後に事前に受け付けていた質問に答えていただこうと思います。
「企画をする際にポイントにしていることがあれば教えてください」。井村さんいかがですか。
井村
特にないんですけど、強いて言うと、おもしろくしようがんばると必ずスベりますね。
黒田
なるほど、深いですね。神田さんはどうですか?
神田
さきほどJMSの時にも話しましたけど、企画していると商品から逃げようとしがちなんですね。商品が出てくるとつまらないんじゃないかと考えて、つい奇をてらったことをしたくなる。それが今、井村さんが言われたようなスベるということだと思うんです。それよりもちゃんと商品に落ちているほうがおもしろくなると今は思うようになりました。
黒田
続いては、WEB動画に関する質問が来ています。
井村
WEB動画に関して言うと、これは博報堂に限った話じゃないと思うんですけど、CMプランナーってテレビ好きの古い人たちみたいに思われていて、WEB動画はデジタルに強い人がやるみたいな風潮がありますよね。
黒田
ありますねえ。
井村
僕そういうのがめちゃくちゃ嫌いなんですよ。
黒田
きたきた(笑)
井村
WEB動画が特殊なものとは思ってなくて、映画なら2時間、テレビ番組なら60分、ショームービーなら15分、CMなら30秒という時間があって、それぞれ得意な人、不得意な人がいていいと思うんです。WEB動画はTVCMより尺が長いから、その分おもしろいものがつくれるかというと、長くてもつまらないものはいっぱいある。僕はたまたまCMで鍛えられてきて、短い尺がいちばん得意と思っているので、特にWEB動画を意識することはないですね。
黒田
新しいやり方を自分で見つけていけばいいんですもんね。神田さんはWEB動画に関してどう思いますか?
神田
WEB動画は尺の制限がないけど、企画に対して尺がマッチしていないものがけっこうあると思っています。僕がJMSでチャレンジしたのは、短い尺の中に多くの情報を詰め込むのを訓練してきたCMプランナーならではのWEB動画をつくれないかということでした。それができたら新しく見えるんじゃないかと思って。それで10秒動画にしたというところはあります。
黒田
ありがとうございます。では、最後にこれだけは聞きたいという方が会場にいたら受け付けますが、いらっしゃいますか?あ、いましたね。
質問者
CMプランナーはそれぞれ意識が違うという話がありましたが、自分がおもしろいと思ったことをチームに伝える時に意識していることなどはありますか?
黒田
僕が最初に答えるのもなんだけど、僕も含めて、この3人はみんな企画作業もふくめて、けっこうひとりでやってますよね。3人ともよく会議室に籠もってた!(笑)
井村
僕は単純に友だちがいないだけです。
黒田
いやいや、そんなことはないけど(笑)。でも、みんな基本はひとりですよね。
神田
僕はひとりでやりたいタイプですね。
黒田
ひとりで孤独におもしろさを追求するタイプですねこの3人は。
井村
今の質問に答えると、ひとりでやっているとチーム内に伝える必要はないんですけど、クライアントさんには伝えなきゃいけない。その時は盛らないで、正直にしゃべるようにしています。さけるグミの時も「場合によっては地味に見えるかもしれません」とか思っていることをそのまま話しています。ただ、競合プレゼンでもそんな感じなので、勝率はめっぽう低いです(笑)。
黒田
神田さんはどうですか。
神田
僕も井村さんに近くて、盛らないというか、うそはつかないようにしています。一時期、クライアントさんの言ってることをうまく消化する企画ばかり出していたんですね。そういう企画は通りやすいし、競合にも勝ちやすい。でも、世の中に出すとワークしないんです。そういう意味で自分が納得しないものを出すのは、自分に対しても、クライアントさんに対しても、世の中に対してもうそをついていることになるので、そういうことはやめようと思っています。
黒田
いい感じに熱くなってきたとこですが、ありがとうございます。というわけで時間になってしまいました。本日は井村さん、神田さんありがとうございました。会場のみなさんもご静聴ありがとうございました。