あの鐘を鳴らすのは
牧野さんからのお詫びとバトン、
しかと受け取りました、猪飼(イカイ)ひとみと申します。
現在育児休業中のため、子どもの話で失礼します。
2020年10月。生まれて初めて、子どもを産んだ。
最初に子どもの声を聞いた瞬間の、あの感覚。
安堵に近いといえば近いけれど、違う。愛、というには大雑把過ぎる。
そう、例えるなら、あれは天下一武道会の始まりを告げる、あのドでかい鐘。
自分の体がまるごとあれになって、
どがああああああーーーーーんと打たれたような感覚。
助産師さんが抱える子、そこだけに、自分の目のピントが
引き寄せられるようにバチーンと合い、
すさまじい波動のようなものが子から放たれ、私の胸の鐘を打ったのだ。
この体験のせいか、子守唄に『あの鐘を鳴らすのはあなた』をたびたび口ずさむ。
かつて和田アキコが、阿久悠先生に「あなたとは誰のことですか?」と尋ねたところ、
「アッコが今まで会ったすべての人のことだよ」と答えたと言う。
私は今までも今も、この曲のメッセージは
あなたの人生は、他の誰でもないあなたのものである、
と勝手に受け取っているのだが、出産によって新しい解釈が加わった。
「あの鐘」は私の中にあった。
「あなた」とは、娘のことだった。
あなたに逢えてよかった
あなたには希望の匂いがする
あなたに逢えてよかった
愛しあう心が戻って来る
やさしさや、いたわりや、ふれあう事を
信じたい心が戻って来る
感極まりながら唄い終えた私に娘から、
あたたかい拍手ではなく、生温かいうんこが贈られました。