予言タクシー
はじめまして。
言葉に関する、賢くて気になるコラムを書いていらっしゃった、
同期の石倉さんからバトンを受け取りました。
大塚麻里江と申します。
コピーライター業界をザワつかせてしまった、
仲畑先生のお写真に「遺影じゃないよ、入社写真だよ。」のコピーで、
新人賞をいただいたものです。
仲畑先生に関しての文章を読みたい!とみなさん思っておられるでしょう。
最後の日に、とっておきたいと思います。
私からお話しするのも本当に本当に恐縮なので、まだ書くか悩んでいるからです。
タイトルを見て、一発目でいきなりオカルト話かよ!?と思われたかもしれませんが、
TCC賞をいただく前の年に、
私は少し不思議な体験をしたので、今日はそれについてお話ししたいと思います。
簡単にいうと、ちょっと変わったタクシーに乗ることになるのです。
その日は、明け方までコンペの準備をしていた。
タクシーに乗ると、運転手さんが言う。
「お客さん、『江戸っ子』かい?」
2020年に使われる『江戸っ子』というワードに違和感を感じながらも、一応、東京出身なので肯定することにした。
「はい!」
「『江戸っ子』はいいよね~。
お客さんみたいな、『江戸っ子』が乗ってくれた日は、
そのあとも、続けて『江戸っ子』が乗ってくれるんだ。」
連発される『江戸っ子』に、私の違和感は強くなるばかり。
すると、今度は、
「お客さん、上がってきているね。」と運転手さん。
一体何がどう上がってきているのか、よくよく聞いてみると、どうやら運勢の話のようだ。
「ほんとですか。そうだといいんですけど…。ははは。(苦笑)」と私。
自分の書いたコピーはなかなか通らないし、そんなこと言われてもね。とテキトーに流そうとした私に、
「…わかるんだよ、そういうの。」
突然、神妙な雰囲気を出す運転手さん。
「手を出してごらん。」
手相でも見るつもり?とパーにした手は、運転手さんによってグーに直された。
「あー…」深刻そうな顔をする運転手さん。
「悪いですか…?」不安になる私。
緊張感のある空気がタクシー車内を包む。
「ん~…膀胱炎になりかけてるね。」
「え。」
なんてくだらないことというのは、
全国の膀胱炎で苦しんでいる人に失礼かもしれないけど、
見当違いの答えにホッとした。
と同時に、つい先日病院に行ったばかりだったのでかなりドキッとした。
当たっているぞ。
さらに、運転手さんは、わたしの手のひらに触れながら呟いた。
「あと…、これは言わない方がいいかもしれないけど…。」
運転手さんが言い淀んだので、私はまた身構えた。今度は、寿命でも言い当てられてしまうのか。
「なんですか…。」
「 」
なんと、そのあと運転手さんは、
わたしが過去に付き合った人の数をピタリと当てたのだった。笑
本物だ!と思った。
「なんでわかるんですか…。」
「なんでもわかるよ。
お客さんのご先祖さんがいつもみてることを全部教えてくれるの。
僕の体を貸して、ご先祖さんが喋ってるみたいな感じかな。
嫌な感じはしないでしょ。自分のおじいちゃん、おばあちゃんと会話してるようなものだから。」
ほおほおと、すっかり感心していると、
そのあと、運転手さんが何でもないことのように言った。
「でも、10分くらいしたら、話したこと全部忘れちゃうんだ。」
「お客さん降りたら、なーんも覚えてない。
だから、また会っても、何言ったかなんて全然わかんねーんだよ。困っちゃうよな。」
運転手さんはカラカラ笑っていた。
私が、タクシーを降りるころ、
運転手さんは、もう一度、はじめと同じことを言った。
「お客さん、上向きになってきてるよ。
これから…楽しみだね。そうだな~来年かな。」
詳しくは教えてくれなかったが、運転手さんは意味ありげに微笑んでいた。
タクシーは目的地に到着して、私は通常通り精算をした。
もちろん追加で占い料金なんて請求されなかった。
「なんか、ごめんね。嫌な気分にさせてたら。」運転手さんは照れながら言った。
「とんでもないです!元気になりました!!」
おじいちゃんやおばあちゃんと会話してるような、という表現は、
あながち間違っておらず、
私は、なんだかあたたかい気持ちで満たされていた。
タクシーを降りて歩いていると、
ふと、私の亡くなった祖父が浅草の下町出身だったことを思い出した。
浅草生まれは、『江戸っ子』と呼ぶのに相応しいはずだ。
タクシー運転手さんの言った「来年」、TCC新人賞の受賞が決まった。
ただの偶然だとわかっているのに、
頭の片隅で、この出来事を思い出してしまった。
そして、なんとTCCを受賞した直後に、
私は再びこのタクシーに乗ることになるのです。笑
不思議なことってあるんだなあ。
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