黒歴史の公開処刑〈タイミング調整機〉
学生の頃に書いた小説まがいのもの(=黒歴史)を、
あえて今赤裸々にオープンにして、公開処刑するコーナーです。(誰得?)
改めて当時の文章を読み直すと、書くものって読むものに本当に影響されるんだなあと。
自分の書いた文章を読んで、「うわ〜これあの作家の影響めちゃめちゃ受けてるじゃん」って。
きっとコピーも一緒。人生で触れてきたもの以上のことって出せないんだろうな。
と、自分の黒歴史を漁りながら、インプットの重要性を再認識した28歳の春。
はい。ということで、今回取り上げる黒歴史は、
星新一のショートショートに影響されまくって書いたであろう小説になります。
慶應の図書館地下三階で、星新一ショートショート全集1001を読んでいた夏休みが懐かしいなあ。
1001個も読んでこのレベルかよっていうのは置いといて、一度さらさらーっとご覧ください。
(星新一さんに1001回くらい謝りながら載せてます)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「タイミング調整機」 原学人
「二人で笑えば、二倍楽しい」
一日に何度同じことを聞けばいいのだろうか。この広告に聞き飽きてから数ヶ月が経とうとしていた。
「こんなにも流行っているのに、どうしていまだに広告を打つ必要があるのだろう」と少し疑問に思ったこともあるが、金が余っていて他に上手な使い方がないのだろう、と納得してみた。
私はこの広告が生まれる前にその商品を買っていた。「タイミング調整機」というネーミングセンスの低さに何か惹かれるものがあったのだ。と友人にはかっこつけて言っているが、結局のところ、僕はiPhoneが発売された当日にわざわざ行列に並ぶ、そういうタイプの男なのだ。
タイミング調整機とは早く言ってしまえば、相手の感情のタイミングに自分を合わせる機械だ。誰かと話す際にその人の目を見れば、相手が笑ったり泣くときに自分も同じタイミングで笑ったり泣いたりすることができる。このタイミング調整機のおかげで随分と生きやすくなった。昔みたいに、感情の違いから友情や恋心が冷めるということがなくなったからだ。友達が笑うときには自分も笑えるし、彼女が泣くときには自分も泣ける。共同体である社会の本質をついたこの商品は瞬く間に広がった。一部のひねくれ者は、「人はそれぞれ違うからこそ、面白いんだ」などと古いことを言っていたが、それを除けば正常な人々はほとんどタイミング調整機を持ち歩いている。昔みたいに、一家の食卓で父親だけがテレビを観て笑うなどといった状況も無くなった。同じテレビを観て、同じ感情を皆で共有する。
「二人で笑えば、二倍楽しい」
この広告もあながち大袈裟なものではなかった。小学校のいじめもなくなり、結婚率も鰻登りだった。間違いなく世界は良い方向に変わっていた。誰の目から見ても、それは明らかだった。もちろんタイミング調整機の売上は凄まじく、使っても使い切れないお金によって次々とアップデートされていった。最初は目を見なければ調整できなかったが、今では半径1.5メートル以内であれば自動的に調整する機能も加わった。
ところで、ある日地球の裏側のある国で、殺人事件が起こった。自分を蔑ろにする上司に対してとても強い「殺意」を覚えたらしい。その数時間後、第三次世界大戦が起こった。
遠い将来、教科書にはこのように書かれるだろう。
「21世紀三大兵器のうち一つは悪夢のような第三次世界大戦を引き起こす原因にもなった、『タイミング調整機』である。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・・・・
って後半急だなおい!!!途中まで不覚にもちょっといいかもと思ったのに…
「ところである日」ってやばいだろ。そんなのありかよ!!!
最後に商品名出せばなんでもありのひと世代前のバズ広告ですか!?!?
まあいったん落ち着いて冷静に分析しますね。
今回は前回取り上げた小説〈負けず嫌いの先生〉とは違って割とテーマは分かりやすい気がするぞ。
タイミング調整機という奇妙な商品の話を中心に置いたSF短編小説。感情を効率化してスムーズな社会が築きあがるはずが、ひょんなことから殺意が拡散し、第三次世界大戦が起きる話。
うん、あらすじだけ見ると悪くない気がするぞ。世にも奇妙な物語でもありそうな感じもしなくもしなくもしない。
まあタイミングを合わせるというよりかは、感情を合わせてるから、厳密にはそもそもタイトルが間違ってるんだけどね。それが企画を分かりづらくしてるんだけど。
まあそれは大学生の自分だし、目つむってあげるとして、やっぱり最後のオチがなあ・・・
第三次世界大戦が起きるまでのストーリーをこんなに二行で終わらせず、がんばってほしかったなあ。(自分)
いつも喧嘩ばかりだった恋人とタイミング調整機のおかげでうまくいくようになった主人公。
なんでも恋人の感情と同調できるようになる。ある日、恋人が仕事の愚痴を言う。同調する主人公。負の感情に同調を重ねることで、ちょっとずつ愚痴が怒りに、怒りが嫌悪感に、嫌悪感が殺意に変わっていく。
とか?主人公視点でもう少し、驚きと納得性がある結末に向けて粘れたんじゃないかな〜俺。
にしても、「ところである日」は逃げすぎですよね…これで執行猶予つかなくなるくらい大罪。
「方向性は悪くない。詰めが甘い。」って言われるやつですね。
でもこういうの今でもしちゃうときあるよなあ。ふんわりいい感じの企画ができて、大事な詰めの部分から逃げちゃって、とりあえずプレゼンはして通ってから「やばいやばいどうしよ」って焦る時のあれ。
「企画はいいけど、演出が違う。」「コンセプトはいいけど、中身がダメ。」
師匠からの怒鳴り声が聞こえてきそうです。
「もう、俺は逃げなくなったよ」って昔の俺に言ってやれる日が来るまで、逃げずにがんばりますか。
・・・ってなんだか昔の俺を処刑するつもりが、今の自分まで処刑することになっちゃいましたね…
昔の俺だからって、偉そうにはできないものですね。それではまた次回。
5103 | 2021.04.15 | 黒歴史の公開処刑〈広告コント〉 |
5102 | 2021.04.14 | 黒歴史の公開処刑〈タイミング調整機〉 |
5101 | 2021.04.13 | 黒歴史の公開処刑〈負けず嫌いの先生〉 |
5100 | 2021.04.12 | 黒歴史の公開処刑〈はじめに〉 |