感性を眠らせない

私はすぐ眠ってしまう。

見たくてたまらなかった話題作の上映中でも、

厳粛な空気に包まれた法事の最中でも、

最近では、録画視聴できない大事なウェビナーでも。

気がつくと、視界にゆっくりと瞼がおりてくる。

眠ってはいけない。絶対に眠るものか。

そういう場合に限って、音もなく眠気が忍び寄り、

そんな時の眠りほど、甘くとろけるような味わいがある。

眠くならない仕事のやり方の一つに、

立ってやるという方法がある。

最近では、職場の環境も多様化して、

立ったまま仕事するデスクも珍しくない。

リモート会議もだらだら長引かせるんじゃなくて、

テキパキと前に進める一助になるわけです。

これはなかなか集中力も高まって

よろしいのでは、と気に入っている。

立つと言えば、立ち喰いそばをよく食べる。

若い頃は、金がないのでよく食べたし、

最近は最近で、時間がないからやっぱり食べる。

でもそれは、立ち喰いですませる、という感覚ともすこし違う。

だって、旨いじゃないですか。

立ち喰いそばの真髄は、

ちょっと旨いだけで、相当ありがたく感じられる、

まさにソコじゃないだろうか。

期待値を上げないことが感動の秘訣である、

なんて言ってるようで情けないが。

少しでも良いところは積極的に、割り箸で拾い上げ、

レンゲで掬い取り、ありがたく味わおうじゃないか。

そんな、食べる側の協力があって成り立つ美しい関係がそこにはある。

なかなかこれ、集中力がいる作業です。

味覚を研ぎ澄ませる行為です。

この立ち喰いの醍醐味をより最大化するために、

せっかくならば、立ち喰いは豪勢にいきたいなあ。

ちゃんと天ぷらがのっていたり、

生玉子を割ったり、

カレーだったらロースカツのせたり。

そして、衣はどの程度カリカリでいくか、ぐずぐずにするか、

生玉子はまず白身だけチュルッと吸い取り、

黄身にお汁の温度をダイレクトに伝えてみようか、

なんて繊細かつパーソナルな作業の途中で・・・

うわっ！！

隣のサラリーマンと肘がぶつかって手もとが狂う。

しかし、負けてなんかいられない。

今度は脇をもっと固く閉め、足を踏ん張って体勢を安定させる。

ランチタイムの混雑の中、

全身でアグレッシブに喰らうその感覚は、

ますます研ぎ澄まされていくのである。

そうか僕は、そういう大切な感覚を眠らせないために、

立ち喰いそばを食べている気がしてきました。

いや、どうだろう・・・

まるで違う気もしてきました。