胃酸過多のコピーライター
きのうの予想どおり、やっぱり二日酔いです。
胃酸過多で、歯ブラシをくわえただけで、オエーッて感じ。つらい。
こういう状態になると、どうしても思い出してしまうのが、去年の1月のこと。実は、僕、胃から血を吐いて、病院に担ぎ込まれました。
その緊急事態になるまでの1週間、僕は、毎日、深酒をしてました。
僕が師匠としていたT氏の一周忌ということもあって、いろんな知人と会っては、生前の彼の話でグラスを重ねました。
T氏は、僕を拾ってくれた人、僕をコピーライターにしてくれた人、僕を酒飲みにした人でした。
あれは入社4カ月目。「おい、松下。いま何やってんだ」と彼が声をかけてくれたときのこと。僕は「Aさんから頼まれて、スペックの整理をしています」。「その仕事、いつ終わる?」。「夕方には仕上げなければいけませんので」。「分かった、じゃ、あしたから、これやってくれ」。と、T氏から手渡されたのは、雑誌広告のオリエンシートでした。僕にとっては、初めてのマス媒体です。
その夜、ひとりの部屋に戻って。シャツを腕まくりしながら、あれこれキャッチコピーを考えました。
翌日。10枚の原稿用紙に書いたキャッチをT氏に見せたところ、「もう1日、やってみるか」。はい。
2日目。20案を持っていくと。「方向としては、これだけが面白いけど。あとは原稿用紙の無駄づかいよ」。そんな…ガックシ。
3日目。あまりにも悔しいので、キャッチに通し番号をふって持っていきました。100という数字を見た瞬間、T氏は「ま、ここまでやれば、いいか」といいながら、ようやく赤ペンを手にすると…。僕の書いたコピーに、ちょいちょいと修正を加えると、「これでデザイナーのところへ持っていきな」。
それが、また、的を射たコピーになっていたから、「まいった」という感じです。
4日目。自己嫌悪に陥っている僕に、T氏は「おい、赤坂の店にいるから来い」と電話をかけてきました。しぶしぶ行ってみると、彼はひとりで飲んでました。いまにして思えば、仕組まれた計画でしょうが。ここでひとしきり、T氏のコピー論を聞くことができました。
そして、最後にひとこと。「俺とお前は15年もキャリアが違う。だから、ちゃんとしたものをつくるんだったら、俺のほうが優れているのは当たりまえだよ。ただね、ひとつだけ覚えておいてほしいのは、たとえ人に仕事を頼んだときでも、いつでも自分で考えるクセをつけとかなければ、この仕事は破綻するんだ」。
そして、きょう。胃酸過多をかかえながら、コピーを書いている僕がいます。あの日のT氏と、僕はいま同じ年齢になったにもかかわらず、相変わらず、悩みながら歩いています。
「それ、いいよ」とか「もう一息、やってみなよ」とか。的確なサゼッションがほしいときがあります。
コピーは出てこないのに、ますます胃酸ばかりが出てきます。
それより、何より、深酒をやめろって…か。はい、重々承知してはいるのですが。
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