明石町SLタワー日誌(その4)
きょうはガラッと内容を変えて、
僕のチームのメンバーを紹介してみたい。
現在、僕のチームには9名のスタッフがいる。
最年長は、CMプランナーの斉藤和典君。
38歳。日清焼きそばUFOの「ヤキソバン」
シリーズが大当たりで「化ける」ことに成功
した。以来ヒットCMを連発しており、最近
ではトヨタガイアの神さまシリーズ、
UCCブレイクの地獄シリーズなどを手がけた。
斉藤君は、実は超合金・塩ビなどのおもちゃ
の権威でコレクター・バイヤーとしてその
世界ではちょっと知られた存在だ。著書も
確か5冊ほど出している。
だから「ヤキソバン」を企画したときも、
斉藤君でなくては考えられないこだわりが
随所にあって、それがキャンペーン成功の
一因にもなった。
CMプランナーとしても売れっ子である
ためよそのCDから声がかかることも多く、
僕の仕事を入れるのも実は苦労している。
染川理咲。女性コピーライター。エスニック
なアート、音楽、演劇、映画などにめっぽう
詳しく、デスクのまわりはあやしい小物で
いっぱいになっている。最近、僕の思いつき
で「劇団四季」を担当しているCDに売り込
むことに成功した。ようやく彼女の蓄積して
きたものが仕事に反映するかもしれないと
期待している。
山路浩之。9年目のCMプランナー。最近、
HITショップの「携帯買うなら、ヒットショ
ップ」という広告で当てた。「雷波少年」
のような感覚の企画が世に受けたようで、
本人も気を良くしている。
他にもニューヨークのアーティスト・ロド
ニーを起用した「ファミリーマート」シリ
ーズも山路の企画。今年は新人の角田の面倒
を9ヶ月間みる「メンター」に任命され張り
切っている。
ウン千万のマンションを35年ローンで買った
という噂がチーム内で流れ、
「どうりで最近ケチになった」とか
「キャバクラ通いをやめたのはそれでか」
とみんなから陰口をたたかれていることを
本人だけが知らない。
武田美喜男。7年目の金髪アートディレク
ター。金髪ではあるが、めっぽう性格が良
い。いや、髪の色と性格の良し悪しを結び
つけることこそ、そろそろ止めた方がいい
のだろう。
マイルドセブンのF1ポスターを作ったり、
資生堂メンズナチュルゴの、反町をカウボ
ーイに仕立てた企画を阿部(洋)君と一緒
にやった。深夜を中心にオンエアしていた
ので、夜ふかしの人は見た記憶があるかも
しれない。僕のチームでは唯一のアート
ディレクターである。
中澤俊吉。7年目のコピーライター。
近頃、東芝の新聞広告シリーズである広告
賞のグランプリを射止め、そろそろ化ける
頃かと僕もお尻に火を点けている。
のんびりした性格なのでときどき火を点けて
「あっちっち〜!」とさせないと、進歩が
止まるのだ。他には久光製薬の、松井選手
が登場する「エアーサロンパス」や
竹中直人の「のびのびサロンシップ」を作っ
た。本人は「週刊文春」に連載している
東京三菱銀行のエッセイシリーズ広告の
仕事を一番楽しんでやっている。後輩たちに
も決して譲ろうとしない。それはそれで悪く
ないのだがドカンとした仕事にも取り組め、
と巨漢・中澤の尻にきょうも火を点けるのが
僕の日課の一つだ。飲んべえなので、自分の
酒のつまみを冷蔵庫の残り物などでササッ
と作るのが上手。したがって、嫁はまだいな
い。
阿部洋士。6年目のコピーライター。
メンズナチュルゴのCMは、先ほど紹介した
武田君とのデュオでやっている。「こばさん」
と僕は名付けているのだが、出勤するとなに
やらおばさんが愛用するようなヘップサン
ダル(死語)にはきかえ、あっちにパタパタ、
こっちにパタパタと噂話に忙しい。
社のコンピュータシステムへの不満から、
ボーナスがまたも下がったことへの痛烈な
意見、同期のCMプランナー鈴木健司がどの
ブランドのスーツを愛用しているか、それが
似合っているかどうかの採点まで「こばさ
ん」阿部君の押さえる範囲は大変広い。
上司である僕としては、噂話にかけるエネ
ルギーをもう少し節約してここらで仕事でも
ヒットを産み出してもらいたいものだと思う。
ヘップサンダルも生活感が出すぎるから
いいかげんで止めた方がいいのだが。
北田三重子。5年目のコピーライター。
ワコールの「5/8カップブラ」「NATSUブラ」
「マシュマロブラ」などを手がけ、資生堂
「アクエア水分ヘアパックシャンプー」の
CMも企画した。菜食を頑固に貫いている
ため、めったに食事には誘わない。本当は、
肉も魚も食べられるらしいのだが、豆類・
野菜類・酒類とお菓子で生存している。
自宅で飼っているモモンガのモモちゃんと
二匹の金魚の話をするときは少女の顔に戻
る。北田のお父さんは家中に動物を飼って
いることで近所でも有名らしいから、おそ
らくそのDNAが影響しているに違いない。
コピーを頼むとたちどころに100案くらい
書いてきて平気な顔をしている。中山チー
ムはそれくらいのヤツでないとつとまらな
いのだ。
最後は新人の角田寛。京都大学アメリカン
フットボール部「京大ギャングスターズ」
の元補欠だ。先ほど書いたように山路が
メンターだが、「メンターシップ制度」と
いうのは要は「徒弟制度」である。現場に
配属されてから次の新人が入ってくるまで
の9ヶ月間、一対一で仕事のいろはを学ぶ。
実はメンターに選ばれたスタッフも新人を
教えることでもう一度、自分の仕事を見直
す機会にするのがねらいだ。山路も、まん
まとそのねらいにはまって角田を可愛がっ
ている。可愛がりすぎである、と僕はとき
おり注意している。どうも角田を個人所有
物と間違えているのではないか、と疑って
いるのだ。
そして、デスクには現在バリ島で休暇中の
小澤さん。僕の20年以上の会社生活でも
ベスト3に入るくらい仕事ができるデスク
だ。僕たちクリエーティブの人間は、
ときどき社会性が不足することがあるので、
小澤さんがおおいに補ってくれている。
なるべく長く働いてもらいたいので、僕も
出張に行ったときはおみやげを忘れない
ようにしている。
広告会社のクリエーティブ部門は、とり
わけ人間動物園である。臆病な動物がい
る。ずぼらな動物がいる。神経質な動物
がいる。偏執狂な動物がいる。自分勝手
な動物がいる。でもどの動物も作ること
が大好きで、自分のアイデアで世の中を
ビックリさせたり、笑わせたり、感動さ
せたりしたくて毎日仕事をしている。
だから、僕は最低限の社会のルールと
最低限の会社のルールさえ守れば、アイ
デアを産み出すため、実現するために
何をしてもいいと日頃から部下たちに
言っている。もちろん、大人同士として
の信頼をベースにしているからだが。
そんな意味では大学のキャンパスの
延長のような自由な雰囲気を大切にした
いと思う。東京の土地代が高いのと、
会社にはクリエーティブ以外にもたくさ
んの部署があるので限界はあるのだが、
アイデアが産まれやすい、柔らかい仕事
環境を作りたいといつも考えている。
それは部下たちのためだけでなく、
僕自身もCDとして、現役のクリエーテ
ィブとして仕事をするのにその方が嬉し
いからなのだ。
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