青山の美容室
美容室なるものに初めていった。
この歳で初めてというのは恥ずかしいが事実なので仕方ない。
別に「男は黙って床屋だぜ」なんてポリシーがあったわけでもない。
何となく入る勇気がなかっただけだ。
そんな私がどうして未踏の地へ足を踏み入れたかというと、
急に髪の毛を染めようと思いたったからだ。
前から若者たち(笑い)の茶髪が羨ましくて仕方なかったのだ。
そんな折も折。
たまたま送られてきた掲載誌(男性誌)に美容室特集が載っていた。
おおシンクロニティ。
ちょうどその日は午後から暇だった。鉄は熱いうちに打て。
私は一番よさげな店をセレクトして、早速予約を入れた。
雑誌によると男性客も30バーセントぐらいはいるらしい。
その店は、青山の外れのビルの2階にあり、
スノップな雰囲気をビンビンに漂わせていた。
私は気後れしそうになる自分を奮い立たせて店のドアを開けた。
平日の昼間のせいだろうか。男性客なんてひとりもいない。
女の子ばかり。それもかなりレベルが高い。
そんな中で髪を切られるのはやっぱりかなり恥ずかしい。
担当になった美容師はいかにもって感じのカッコイイお兄さんだ。
彼の巧みな話術に引き込まれ、すべてを委ねることにする。
「お仕事お休みですか?」
「いや、そこの事務所で打ち合わせがあって。ついでに」
わざわざ青山まで来たと言うのが恥ずかしくてつい見栄を張る。
「どんなお仕事ですか?」
ここで私は致命的なミスを犯した。
「コピーライターを。フリーで」
美容師の目がキラリと光った。
「本物のコピーライターなんて初めて見ましたよ。
ねえ、どんな風に発想されるんですか?」
「いやーそのー本物というより偽物に近いんですけど」
私は消え入りそうな声でつぶやく。
「糸井重里以外にもコピーライターっているんですね。
ねえ、どんな風に発想されるんですか?」
私は心の中でコピーの神様に謝った。
ごめんなさい。たいしたコピーも書いてないのに、
もうコピーライターなんて絶対名乗りませんから。許してください。
しかしそれから2時間以上、拷問は続いた。
「すんごいイメチェンしてますからびっくりしますよ」
そう言ってアルミホイル(?)をとった美容師の顔に動揺が走った。
髪の毛の色が殆ど変わっていなかったのだ。
何でも私の髪の毛は色素が濃すぎるらしくうまく染まらなかったらしい。
「もう一度チャレンジさせてください」と言う美容師に、
「今日は時間がないから」と断わる私。
もちろん時間はあったが、もうそれ以上その場所にいるのが耐えられなかった。
そんな訳で、今も私の髪の毛は中途半端な色のままだ。
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