(再)真夏の夜の回転レシーブ
武藤多恵
東北自動車道、北上付近。居眠りでもして
いるのか、走行車線をふらついている4W
Dが一台。追い越そうとして、私のクルマ
を運転していた知人が、車線を右に変えた
ちょうどその時。並んで走っているはずの
4WDが、助手席の私にどんどん、迫って
くるではありませんか!
その後のことは、今でもはっきり覚えてい
ます。
ドライバーは驚いて、ハンドルを右に切り
ました。私のクルマは猛スピードのまま、
中央分離帯に激突。その反動で横滑りをし
て、今度は左路肩の壁にぶつかりました。
さらに勢いづいて、車体は360度、大回
転(バレーボールの回転レシーブをご想像
ください)。なんとか着地できたのが、今
でもホント、不思議です。
恐ろしくて、声も出ません。タイヤがキュ
ルキュル鳴る音も、途中から聞こえなくな
りました。残っていたのは、視覚だけ。
激突するたび、真っ暗闇の中に浮かび上が
る路面や壁をただ、じっと見ているしかあ
りませんでした。
なんとかクルマから這い出すと、屋根は無
残にも「く」の字に折れ、運転席側の窓ガ
ラスは跡形もなく、枠だけが残っていまし
た。「発煙筒をたかなきゃ!」と、ダッシ
ュボードをまさぐったけれど、中はもぬけ
のから。壊れた窓から、荷物は全て吹き飛
んでいってしまったんです。
仕方ない、とハザードを点滅させ、追い越
し車線をふさいでいるクルマを、せめて端
に寄せようと、何度も何度も体当たりしま
した。けれど重い車体は、びくともしませ
ん(後で分かったんですが、車軸がぐにゃ
っと、曲がっていたらしいです)。
居眠りの4WDは、すっかり眠気がさめた
らしく、とっくのとうに逃げてしまいまし
た。
そうこうしているうちに、暗闇の中から一
台、また一台と、猛スピードで後続車がや
ってきます。
「キキキキイィィィ・・・・」
急ブレーキの悲鳴をあげながら、すんでの
ところでよけていく車たち。「ごめんなさ
い。本当に、ごめんなさい」。頭をさげて
いると、一台の白い軽自動車が、よけきれ
ずに突っ込みました。
グアッシャン!!!!!
中から飛び出してきたのは、18歳くらい
の女の子3人。真っ白な顔をして、ただた
だ、泣きじゃくるばかりです。
この惨劇は一体、いつまで続くのだろう。
ドラマだったらこの辺で、救急車が来るの
になぁ・・・。
呆然と立ち尽くしていると、「プワーン」
と、クラクションの音が聞こえました。
見ると5トントラックが止まり、運転席の
窓から、日焼けしたお兄さんが顔を出して
います。
「おーい、だいじょうぶかあ。警察は呼ん
だかあ」「まだですー」「じゃ、呼んでき
な!あんたたちのクルマ、かばっててやっ
から!」
そういうと、彼はハザードを点滅させなが
ら、車線をまたぐようにトラックを止め直
しました。そんなことをしたら、自分が追
突されるかも知れないのに。
「ありがとう、お兄さん!」
私は夢中で、非常電話に走りました。
5分後、通報で駆けつけた警察官は、大破
した二台のクルマと、私たちを何度も何度
も、見比べました。そして、「ちょっと、
いい?」といって、私の肩に恐る恐る、手
を伸ばして、ふれました。
「ああ、生きてる。いがった(よかった)
なぁ」。
「そっか。警察の人に私、幽霊かと思われ
たんだ。だから肩をたたかれて、生きてる
か、確認されたんだ」。
そう気づいたのは、実況見分が終わり、や
っと見つけた宿舎について、寝入る間際の
ことでした。
(実際、事故車を見ると、乗っていた人が
どれ位のケガを負ったか、想像つくらしい
です。私のクルマは、死んじゃっても不思
議ではない程のこわれっぷりだった、とい
うことなのでしょう)
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