天職さがし
武藤多恵
奇跡的に、外傷はありませんでした。でも
それだけ大きな事故でしたから、後遺症は
残りました。去年の春ごろまで、首と肩が
ズキズキ、時にはシクシク痛みました。
実は私、その前にも、仕事で乗ったタクシ
ーで追突事故に遭いまして。もともと具合
が悪かったから、完治までに時間がかかっ
てしまったんです。
いつになったら、痛みが取れるのだろう。
一生治らなかったら、どうしよう。
不安でたまらなかった時、友だちが手紙を
くれました。
「あんな事故で助かったなんて、ムトウち
ゃんには何か、やらなければいけないこと
があるんじゃない?早く元気になって、そ
れが何かを見つけてね」。
驚きました。そんな風に励まされたのは、
初めてでしたから。
それからずっと、考えました。そして、そ
の「何か」があるとすれば、仕事に関する
ことだろうと気づきました。
学生の頃、私は心理学関連の職種をめざし
ていたんです。けれど事情があって、それ
は一旦、あきらめました。リクルートに入
社したのは、新卒で入った会社の営業職が
どうしても合わなくて、3ヶ月で辞めたか
ら。「B−ing」の求人広告を見て、「
営業以外だったら、何でもします」と応募
したのです(弱っちい。今の私からは、想
像もつきませんが)。
それで編集系の仕事をしていたら、「広告
の制作にも向いていると思うよ」と、呼ん
でくれた人がいて、制作に異動しました。
確かに、ディレクターの仕事は楽しい。こ
のままでも十分、やっていける。けれど、
自分は何をして生きていくのかを、今度は
私の意志で決めなければいけないんじゃな
いか。そう気づいたんです。
その時、私の心に浮かんだのは、事故に遭
う前に見た、TCC展のことでした。
97年の春、後輩に誘われて、TCC展を
初めて見ました。会場の作品からは強い、
本当に強い力が伝わってきました。トヨタ
の「あしたのために、いまやろう。」を見
て、「私もやろう」と思ったり、ナショナ
ルの「おつかれ山(さん)」にため息をつ
いたり(これはビジュアルと一体になって
いて、本当にすごい)。そして、宝島社の
「ヤクザ 1,010円」の前では動けな
くなって、何度もコピーを読みました。
言葉には、人の心を動かす力がある。
それに、コピーを書けると、普通だったら
一生かけても会えないくらい、たくさんの
人たちと「会話」できるんだ。
いいなあ。
そう感じたことを思い出して、コピーの学
校に通い始めたのは、後遺症もずいぶん和
らいだ、去年の春からでした。
やるなら、早い方がいい。だって人は、あ
る日突然、死んじゃうかもしれないから。
今、私は自分でコピーを書いて、広告をつ
くることができます。それも、大好きな仲
間たちと。しあわせです。
さらに先日、うれしいことがありました。
クライアントの学校の新入生に、モニター
をさせていただいた時のこと。「なんでこ
の学校を選んだの?」という私の質問に、
「リクルートの雑誌に載ってた広告が楽し
そうだったから、見学に来たんです。そし
たらホントに、明るい雰囲気だったから。
毎日、楽しいですよ〜」と答えてくれた子
が、たくさんいたのです。
うわ〜ん。って、泣かなかったけれど、う
れしかった。もっとがんばろうと思った瞬
間でした。
追記その1:コラム301を改定し、30
2をアップしました。
夕べ、ADの永田武史さん(超二枚目。新
婚。奥様もキュート)と打ち合わせしてい
たら、「むとうちゃん、あの幽霊の話、よ
くわかんないんだけど〜」って、ニコニコ
しながらいわれて、反省したのです。
すみませんでした。
追記その2:あしたのアップ、もしかした
らとっても遅くなってしまうかも知れませ
ん。でも、交通事故に遭っている訳では決
してありませんので、ご心配なさらず、ち
ょっとお待ちください。ごめんなさい。
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