くりこ
子供の名前をつけるときに、
やたらコピーライター魂を発揮しようとする人が多くて
困ります。
おいおい、なんて読むんだよ。
おいおい、詩人か?
おいおい、ガイジンか?
そんな名前の日本人ばかり増えたら、世も末です。
かくいう私は、
もし子供が出来たら、
好きな食べものの名前をつけたいと思っています。
いまのところ、断然「栗子」です。
大きくなって男の子にからかわれようが
「くりちゃん、くりちゃん」とセクハラされようが
これしかない。
固い固い殻に包まれた中に、
ほっくりと甘く、
ぽってりとまろやかな味わいを秘めた栗のように、
強く優しく妖しげに育って欲しい。
だから、これしかありません。
そのくらい、大の栗好きです。
さて、イタリアで出回っている栗は
日本のそれよりかなり小さくカスターニャといいます。
マローネという大きな品種もあるけど、値段も高く、
洋菓子店でマロングラッセになるケースがほとんどだから
一般的には、栗といえばすなわち、
この小さなカスターニャのこと。
毎年秋になると、イタリア中北部の山村では、
村の活性化をはからんとばかりに、週末ごとに
「フェスタ・ディ・カスターニャ」(栗祭り)が
あちこちの村で開催されます。
祭りといったって、村の小さな中央広場で
農家のおじさんが手作りの栗菓子や栗料理を販売するという
文化祭の模擬店みたいなものだけど、
そのメニュー内容が、すごい。
栗のクレープ、パウンドケーキはまだわかるが
栗ドーナツ、栗のポレンタ、栗ニョッキ、栗パスタまである。
んもう、どれもこれも食べてみたかったので
全種類の食券を買って片っ端から食べまくりました。
・・・が、どれもこれも、なんと、マズイのです。
しかも、栗のかけらすら存在しないではありませんか。
理由がわかりました。
彼らが使っているのは、正確にいうと、栗ではなくて栗の粉。
毎年秋に収穫したカスターニャを砕いて製粉したものを
使ってたのです。
そう、ちょうど蕎麦粉のようなもの。
いってみれば、イタリア人にとって
栗は、貧しい山村の、貧しい時代の保存食にすぎません。
なるほど、
イタリア人に意外と栗嫌いが多いのも納得がいく。
どおりで「まあ、リツコはカスターニャが好きなの?
あたしは嫌い。カスターニャなんて貧乏人の食べ物よ」
といろんな人からバカにされていたわけです。
なんだか、悔しくなってきました。
子供の名前を「栗子」としたところで
奴らにいっそうバカにされるのが落ちです。
カスターニャが貧乏人の食べ物なら
奴らの手の届かない上位品種マローネにちなんで、
いっそ、子供の名前は「麻呂根」とでもつけようか。
「日本に栗はあるのかい?」
栗のうまさを知らない奴らに聞かれるたびに、
怒りをぶちまけました。
「もちろんあるよ。日本にも。しかも、日本のは
甘くておいしいし、粉なんかにしないでそのまま食べるし、
なんたって、カスターニャみたいにちっこくないんだから。
マローネよりもっともっとデカイんだよ、デカイの。
もっともっと、もーっともっとデカイんだからっ」
と、デカイデカイを連発していたら、
一緒にいたイタリア人に、後でそっとたしなめられました。
イタリアでは、男のナニがものすごく大きな人のことを
マローネというんだそうな。
子供の名前は、やっぱり「栗子」にしておきます。
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