言葉の獲得
「おかま!おかま!」
2才ちょっとになった我が娘が、昼下がりのオープンカフェ
で声高に叫ぶ。まったく運悪く、一瞥でそちら側の方とお見受け
する御仁(姐御?)が通りかかる。私と妻の間に緊張が走った。
2才の娘に他意はない。彼女はただ、「ごちそうさま」と言った
だけなのだ。言葉を覚えたての彼女は、耳から聞いた「ごちそう
さま」を、どういう訳か自分なりに解釈して「おかま」という
省略形を好んで使用している。幸い、街のノイズに掻き消され
娘の声は件の人物には届かなかったようだ。
2歳前後は、子供が様々な言葉の意味と用法をメモリーし始める
時だ。コンピュータへの書き込みと違うのは、脳の中に
なんらかのフィルター(たとえば、好き嫌いフィルター)が
あって、完璧に記憶される言葉と、不完全な形のまま一時的に
定着する言葉とに分かれるようだ。しかも不完全定着は
いくつかの類型を持つことが研究の末明らかになった。
たとえば、
【子音前後型】には次のような例がある。
あんよ→あよん
高い→かたい
パンダ→たんば
愛くるしいパンダが霊界への案内人に置換する様は、
想像するだに恐ろしい。
【音声成分抽出型】はこうだ。
いってらっしゃい→あいしゃい
ただいま→あいまー
ごちそうさま→おかま
(これについては理解に苦しむがこう聞こえるらしい)
【意味置換型】もある。
雪→コンコン(雪やコンコ・・・から来てると思われる)
イクラ→ボール(今のところ丸いモノはすべてボールである)
こんな中でも、寸分違わず記憶されるのは悲しいかな
キャラクターのお名前であったりする。
ミッキー、ミニー、キティ、アンパンマン、ピングーなどの
錚々たる名前は、2歳児の脳細胞へもなんら形を崩すことなく
到達している。ミッキー強しで、ある。
耳からの言葉を覚え話す子供が、親の言語能力の鏡だとすると、
笑ってばかりもいられんなぁと、シン・・・と静まりかえったGW
のオフィスで一人思うのであった。
では、また明晩。