好きのチカラ

突然ですが、うちの祖母は後妻でした。
娘時代からずっと祖父のことが好きだったそうです。

でも祖父は別の女性と結婚してしまった。
その女性は、うちの父を含む７人の子をもうけて
まもなく肺炎で亡くなります。
そこへ祖母が嫁いで来たというわけです。
祖母は７人の血の繋がらない子供たちと日々闘いながら、
自分の子は産まずに95歳まで生きました。

祖父は大の競馬好きでした。
父がまだ若い頃には競馬場で意気投合した女子大生を
「おまえ、嫁にどうだ？」と家まで連れて来ちゃったり
したそうです。

ハイライトを一日二箱吸っていた祖父は
晩年、重い気管支炎を患い長く入院していましたが、
病も快方に向かったある日、退院の準備段階として
外泊許可が下りました。祖母はぴしっと和服を着込み
病院に祖父を迎えに行きました。

が、病院から２人が向かった先は
久しぶりの我が家ではなく、
競馬場でした。

まっさきに競馬に行きたいと言う祖父に
黙って祖母はついて行き、朝から晩まで
２人は競馬場にいたそうです。

そして、祖父は風邪をひき、
その三日後に亡くなりました。

日がな一日競馬場にいて、風邪をひいて死ぬなんて。
なんてアホな、でもうらやましい最期なんだろう。

祖父母のことを思い出すとき、私はいつも
競馬場にいる２人の姿を想像します。
寄り添って一日じゅう馬を眺めている小さな２人を。
そして、“好き”のチカラってすごいなぁと思うのです。