スピッツ君。
うまいやつがいる。
もつれにもつれた三角関係の
最終回あたりにヒョッコリと現れて、
スルスルっと彼氏になってしまうやつ。
合コンでそれぞれのキャラクターが
固まってきた頃にやってきて、
なにも発言していないだけのくせに
癒し系の称号をゲットするやつ。
うまい。
柔の心をわきまえている。
僕の周りにも、その手のタイプは3人いる。
それぞれ別グループの友達なのだが、
彼らには1つの共通項がある。
カラオケでスピッツを歌うことだ。
それもかなりいいタイミングで予約する。
たとえば、誰かが桜坂を歌って、
みんなの心がちょっぴり切なくなったとき。
たとえば、新曲にチャレンジした誰かの歌を
「そこちがう」と思いながら聞いたあと。
たとえば、ひとりよがりなモノマネを
フルコーラスで聞かされたあと。
そんなとき、ひと粒の清涼剤のように、
空も飛べるはずの前奏が流れる。
そして、次曲表示を見てわかってるくせに
「あ、おれかも?」と頭をポリポリしながら、
スピッツ君はマイクを持つ。
爽やかである。
好感度120%アップなのである。
ゆえにスピッツ君はモテる。
そのモテ様がうらやましくて、
チャレンジャー君やモノマネ君は
さらなる新曲やサザンのモノマネなど、
エクストリーム系の力技に手を出してしまい、
負のスパイラルに突入していく。
まさに柔よく剛を制す。
スピッツ君こそ夜の武道家なのである。