橋本さん。
僕らはお台場での釣りを終え、
駐車場に向かって石畳の小道を歩いていた。
場所は小学校の奥のカップル用公園。
釣り竿を持って歩くのが申し訳ないほど、
ロマンチックな公園である。
僕らは金曜の夜のカップルたちを気づかい、
ただ黙々と歩いていた。
すると、どこか遠くで郷愁を誘う音色がした。
「なんだろう?」
耳を澄ましたが、もう何も聞こえない。
気のせいか、と思いながら歩をすすめる。
右手ではお台場の海をはさんで
フジテレビやデックス東京ビーチなどが
きらびやかな光を放っている。
「あいつとあそこ歩いたっけな」
ちょっとセンチな気分になったとき、
今度はかなりのボリュームでさっきの音が聞こえた。
たて笛である。
春の小川である。
音の発生源を見る。
ハンチング帽に半ズボンを着用したおじさんが、
ソプラノリコーダーを吹いている。
その横には彼が紡ぎだすメロディに身をまかせ、
双眼鏡でお台場を眺めるおばさんがいる。
二人はヒザを使ってタテノリで踊っていた。
帰り道、あれは何だったのだろうと思いながら、
僕は白金のトンネル渋滞に巻き込まれていた。
すると、右側の車線に「橋本商店」と書かれた
白いカローラのバンが並んだ。
なにげなく見ると、
ドライバーは助手席側にカラダをひねり、
口に何かをくわえていた。
たて笛である。
もちろん、頭にはハンチング帽。
薄く開けられた窓から荒城の月が聞こえた。
5日間、ありがとうございました。
掲示板に書き込んでくれた方、
すごくうれしかったです。
さて、次のコラムは僕の上司である森田直樹さんです。
それでは森田さん、よろしくお願いします!