吸えない恐怖。

煙草をやめて、もう3年というか、まだ3年というか。ほ

んとよくやめられた、と思うのですよ。喫煙期間18年ほ

ど。晩年（という表現でいいのかなあ）はショートホー

プ4箱、1日40本。おいしかったなあ、ショートホープ。

で、なぜやめたか、というと、やっぱりカラダに悪いか

らとか、とうとう医者に止められた、とか健全な？理由

からではない。いや、そういう理由でやめよう、とした

ことは何度もあった。が、何度やっても半日ともたなか

った。いろんな禁煙法をやったが、全然だめ。風邪をひ

いて咳がひどく、のどがパンパンに腫れても吸っていた

煙草。それがなんで、やめられたのか。

それは、煙草が吸えない空間に数十時間もいなければな

らないという恐怖感からだった。3年前の夏休み、テニ

スのＵＳオープンが見たくて、ニューヨークに行こう、

ということになった。その頃だったと思う、どんどん飛

行機が全面禁煙になっていったのは。ニューヨークまで

十数時間、まったく吸えないのである、煙草が。ビール

の飲んでるときも、食後にも、目覚めたときも、1本も

吸えないのである。しかも、アメリカの空港もほぼ禁煙。

やっと着いた、と思ってもまだ吸えないのである。半日

の禁煙だって、すぐ挫折する自分が、そんな我慢ででき

るはずがない。これはまずい。機内で我慢ができなくな

り、トイレで吸って何万ドルと罰金をくらうかもしれな

い。「日本人旅行者、煙草吸いたさに逆上、飛行機は成

田に戻り逮捕。」ということになるかもしれない。非常

にまずい。

そう、そうだ、その前に禁煙すればいいのだ。とはいっ

ても、たとえば吸いたくなったら水を飲むとか、深呼吸

するとかで我慢できる自分でない。なにせ、禁煙パイポ

に、無意識に火をつけたことのある人間である。この発

作の原因をつくる原因はニコチン。つまりニコチンを入

れながら、喫煙習慣をとるのがきわめて成功率の高い禁

煙方法らしい。とういことを知った。というとニコチン

ガムか、パッチしかないのだが、当時はどちらも一般に

は日本では買えなかった。で、インターネットを探すと、

代理輸入のカタチ買えるというのがわかった。一箱一万

くらいだったか、高いなあと思ったが、成田に戻り逮捕

されるよりはましだ。

1週間後くらいにガムは届いた。説明書によると、僕の

ようなヘビースモーカーは2箱とか3箱使って、ゆっくり

とニコチンを減らすのがいいらしい。が、2箱なんて買

ったら、また金がかかる。僕はそのスケジュールを半分

にし、1箱でガムもいらなくなくなるように計画した。

煙草を吸いたくなると、ガムを口に入れ、なんどか噛ん

で、歯茎にキュッといれてニコチンを吸収させる。なる

ほど煙草を吸いたいという欲求は収まっていく。これを

繰り返す。最初は吸いたくなったらその都度、噛む、3

日目からは時間を決めて噛む、それを徐々に減らしてい

く、と1週間、ニコチンガムをかむだけで、煙草は1本も

吸わないでいれた。ニコチンは吸収しているのだけれど、

1週間も煙草をやめたことがなかったので、これは続け

なくちゃもったいないと思った。じゃあ、こんどはガム

がクセになるかというと、ガムはおいしいものではなか

ったし、かんで、うおお、気持ちいいというものでなか

ったので、幸いガムに対するクセは残らなかった。

そうして1ヶ月後、僕は平和に機上の人になり、トイレ

こともなく、アガシの練習を見たり、セレシュのダブル

スを見たり、杉山選手の応援をしてWOWWOWに映ったりし

たのである。

やめてみてわかったことだけど、煙草ってやめるとラク

ですよ。健康的な点もさることながら、いろんなところ

で煙草を吸う心配をしなくていいというのがラク。煙草

を吸わない人の方が優先される世の中になってるし。ク

ライアントもほとんどのところが禁煙だしさ、会社でも

いちいち禁煙コーナーに行く必要もないし。

でも、まだ時々思う。タバコ、吸いてえなあ。世の中、

いろいろあるし。この一服がたまらない、だろうと思う。

名コピーを書いた、天国の渡辺博信さんに合掌。