(/1994
9年前。僕は27歳でした。
この年の夏はものすごく暑かったです。
僕は相変わらず、友人の家に寝泊まりし、
働いていませんでした。
週に2回はバンドの練習。月に1度はライブハウスで演奏していました。
バンドのメンバーは皆それぞれ、
郵便局で仕分けのアルバイトをしたり、
レストランでウェイターをしたりしていたのですが、
どうしても働く気がせず、すべてを暑さのせいにして、
ライブのチケットを定価で売って、
友人に顰蹙を買いながら暮らしていました。
八月の或る日の事をよく憶えています。
友人が仕事に出かけた後、昼過ぎに起きた僕は
きょうは茅ヶ崎の方に行ってみようと、
カワサキのエリミネーターにまたがったのですが、
ガソリンの警告灯が赤く点っていることに気がつきました。
しょうがねえな、2リットルだけ入れるかと
リーバイス501ブラックジーンズの尻ポケットをまさぐった
僕は、衝撃を受けました。
ポケットには、50円玉がひとつしか入っていなかったのです。
遠くに列車が見えました。その列車の線路は海に続いていました。
海にさえ行けない、あの列車にさえ乗れない、煙草もあと3本しかなく、
50円では缶コーヒーも買えねえじゃねえかと思うと、
悲しみを通り越し怒りを感じ始めました。
ただ存在しているだけなのに、
どうしてこんなにお金がいるのだろうと
資本主義社会を呪いました。貨幣制度を呪いました。
わけのわからない日々でした。お金がなく女の子とデートもできませんでした。
時間だけがやたらとありました。
いま僕のジーンズの尻ポケットには、いつだって500円玉が入っています。
でもあの頃の世界に対する文句や、まとはずれな怒りや、
余りある時間は何処かに消えてしまった。
そういえば最近、ギターの弦を変えなくなりました。
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