ネコ肌のラガーマン
【Chapter 2 ネコ肌のラガーマン】
奴にはじめて会ったのは、大学1年の4月。たしかフランス語講読の教室でした。
なんかヤーサントラッド(死語)な服装でやばそうな輩が隣の席に。
たしかラグビー部の奴だ、なんかうざいなぁと思っていると
「どうも、鶴田もこの講座履修してたんだ」と屈託のない笑顔。
なんだこいつ妙に馴れ馴れしいなと思いつつ「あぁ」と作り笑顔を返すと、
「ごめん、俺、教科書とか持ってないんだけど…見せてくれる?」
いやだ、と心は叫びながらも「あぁ」とひきつり笑い。
しかし、講議が始まると奴は10分もしないうちに「ZZZZZZZZZZZ」と轟くような高いびき。
仏語の教授はやさしいおばさんで、僕たちのそばを通る時も見て見ぬふり。
なんか僕の方がバツが悪くて…。
「おい、講議終わったぞ」
「あぁ、そう…あっ、おまえ次、何の講議?」
幸か不幸か。その日は一日中、履修科目が一緒で
金魚のふんのように僕につきまとった奴。
ただ何がきっかけだったのか4講目が終わる頃には、
10年来の親友のごとくすっかり仲良くなっていたのでした。
(まぁ、まだ19歳の坊主が2人いれば、話題は女。
しかもこのコラムでは決して書けないような、
いまだと赤面しそうな、下ネタで盛り上がっていたことは想像に難くないと思います)
それから奴は週5日は僕の部屋に「居着く」ようなりました。
残りの2日は彼女とデートしてたみたいですが、
まったく自宅へ帰らないんで、洋服はもとよりパンツだって僕のを平気で履くし、
(「鶴田、パンツもうないよ、洗濯しておいて」と言われた時は、唖然でしたが)
終いには僕の歯ブラシを使おうとする。
「いいじゃん、ちゃんと洗うんだし…」
さすがに「それだけはやめてくれ」と拝み倒し、コンビニで奴の歯ブラシを買ってあげました。
で、ほぼ毎日(ラグビー部の)練習が終わると泥だらけのなりで、僕んちの風呂へ。
当然入浴後の湯舟は沼のように。
「なんで体育会の風呂に入って来ないんだよ?!」と責めると、
「俺、ネコ肌なんだよ」
「ハァ?????????」
なぞはすぐに解けました。奴が風呂から上がると、
せっかく沸かしたお湯がプール並みの温度に下がっていたのでした。
「まじ熱いのが苦手で…」
ただそれだけならよく聞く話。
奴ときたら、当時の僕のかけがえのない食糧であったカップ麺を食い散らかす際、
お湯を入れて3分経つと、なっなんと氷を入れて食っているのです。(ありえない)
「おまえ、おかしいよ」
「いや、ネコ舌なんだよ。舌もな、人一倍デリケートなんだよ」
ネコ舌って???氷の入ったカップヌードルを食べる奴なんて、
罰ゲームをくらったダチョウ倶楽部か奴くらいでしょう。
その後も唖然、呆然は当たり前の数えきれないエピソード。
考えてみれば奴とはもう20数年の付き合いなんですから。
本当に奴のことを書けばキリがない。
ただそんなどうしようもない奴ですが、
僕が最初の会社を辞める日に、
朝会社の前で待ってて「本当に辞めていいのか?」と心配してくれたり、
“朝広”の作品が載った新聞をキオスクで20部も買い占めてくれたり、
数年前の日比谷線事故の日、いの一番でケータイを鳴らしてきたり、
僕には大切な大切な悪友であることには違いありません。
いま奴は誰もが知ってる外資系コンピュータ会社の営業部長になっています。
「おまえ、宣伝部とかへ行けよ、俺がおまえの会社の広告、やってやるから」
「おう」と奴は笑います。
でも万が一奴が宣伝部長になっても、奴の会社の広告は担当しません。
奴との間には決して変な利害関係を生みたくない。
きっと、みなさんにもそんな友人がいるでしょ。
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