「男前」
西畑幸一郎
TOO FAST TO LIVE TOO YOUNG TO DIE.
パンクロックとロカビリー、バイクとバンド。
ただそれだけを狂おしく愛していた中三の夏休み。
先輩から「週末のツーリングに参加させてやる。」と誘われた事から物語は始まりました。
僕と哲生は喜び勇んで「単車に乗れるようにならないかんバイ!」というとてつもない
勘違いをしてしまっていたのでした。
(ただ単に後ろに乗せて連れて行ってくれると言う事だったのに・・・。)
とはいえ、400ccの単車を貸してくれる人などいません。そこで僕らは家が
新聞のエリアセンターを営んでいるクラスメイトから、とりあえず「カブ」を2台
こっそりと借り出す事に成功しました。
近所のかなり広い田圃の農道で2人のチャレンジが始まりました。
もともとセンスが良いのか「カブ」なんでと言う事もあるのですが、速攻で乗り
こなせるようになり小一時間程度、その農道でカブに乗って遊んでいました。
ふと気付くとはるか前方に、白と黒のツートンカラーの車がこちらを覗うように
近づいてきます。嫌な予感!後ろを振り返ると黒いカブに乗った制服姿が2人。
「ヤバイ!囲まれたっ!!」と思ったとたん、僕はカブを飛び降り一目散に田圃
を突っ切り全速力で逃げ始めました。今までの人生の中で多分、最速のタイム
をたたき出していたと思います。僕を追ってくる気配がない事に気付き後ろを振
り返ると、包囲網がさらに縮まっていました。
「哲生あぶない!!」心の中でそう叫んだとき、哲生もようやく事態に気付いたら
しく、カブを飛び降り僕と反対方向に逃げていきます。
時すでに遅し、哲生を追い詰める包囲網は田圃のあぜにそって確実に縮まって
行きます。その時、信じられない光景がっ!
何も遮蔽物のない田圃の中を、哲生は雄叫びを上げながらジグザグに走って
いるのです。まるでそこに、身を隠せる何かがあるかのように・・・。
多分どの道、捕まるのだと確信した彼なりの抵抗のアピールだったのかもしれません。
まもなく彼は抵抗もむなしく、3人の警官に取り押さえられていました。
民家のブロック塀の影から一部始終を見終えた僕は、その後ゲーセンで
時間をつぶし哲生の事などすっかり忘れて帰宅しました。
次の日、みんながいつも集まるゲーセンで「ギャラガ」に熱中していた僕の前に、
すっかり顔の形が変わった哲生がドカリと座り一言つぶやきました。
「今、ハイスコア何点?」
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