流れ星を探しに。
せっかく桜が咲いたのに、あいにくの雨。夕方、雨がやんだので、お休みの夫といっしょにベビーカーに押してお散歩に出かけたら、案の定、日がとっぷりと暮れてしまった。真っ暗だ。桜はまだ一分咲きで花あかりにもならない。雲のすきまから火星だろうか、ひときわ明るい一番星が現れたと思ったらすぐに消えてしまった。ふだんならオリオン座や名前のわからない星たちが10個以上またたいているのに。多摩地区に引っ越してきて半年、都心より星がよく見える気がする。ふいにふたりで見た獅子座流星群のことを思い出した。11月ごろだったか深夜3時すぎまで私は頑張って起きていた。「いっしょに流星見ようよ」と私が言っても寒いからと言って夫は布団から出てこない。「このへんじゃ、そんなに見えないんじゃないの?」私はしかたなく、マンションの裏のだだっ広い駐車場にひとりで出てみた。空を見あげたが、星なんか三つくらいしか見えない。やっぱり東京はダメなのかなと思いながら、ぼんやり上を向いていると、東のほうの空で大きな星が落ちた。飛行機雲のように光の残像を残しながら。そして次々、空のあちこちで星が落ちる。落ちる。落ちる。落ちるたびにどうしてだか「あ」と声をあげてしまう。(ドラマや映画のセリフでかならず「あ、流れ星」というのはホントなんだな。)駐車場の暗闇の向こうの方からも「あ」という声がいくつもあがった。先客がいたのだ。わたしは急にひとりが怖く寂しくなり、部屋にもどって夫を起こし、いやがる夫を連れて外にでる。「ホントに見えるの?」と疑ってた夫も、ひとつ、ふたつと星が落ちるたび、目がさめてきたようで、「ここは街灯が明るいから、もっと暗いところへ行ってみよう」と夜道をぐるぐる連れまわされる。途中、街のあちこちの暗がりに人がたっており、みんなが口を開けて上を見ながら、ときどき「あ」「あ」とつぶやく。私たちも、そのたびに空を見上げるけど、もうその星は消えている。結局、東京の街に暗がりはどこにもなくて、もとの駐車場にもどった。わたしが地面にねっころがると、夫も地面にねっころがった。東京の夜空をあんなにじっと見つめたのは初めてかもしれない。最初は3つくらいしかなかった星も、目が夜空になれると、空からにじみ出るように瞬きはじめる。星空を見つめていると、流れ星が思い出したように落ちてくる。たまにふたりの「あ」がハモる。「流れ星に願ごとを三回言うと叶うんだって」と私が言うと、夫が「ねこねこねこ」と早口で言った。「なにそれ」と聞くと、「飼いたいって君がいつも言ってるみたいだから」。明け方、冷たい手をつないで部屋に戻った。あれからまだ猫は飼えるようになっていない。かわりに家族がひとり増えた。次の流星群は30年後だそうだ。3人で探しにゆけるだろうか。それが無理なら、いつか私が死ぬときは走馬灯にあの空が浮かぶといいな。
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