仕事の名付け親になる。というしごと
前原佳世子
求人広告をつくる仕事を10年くらいやっていました。
小さいころから、社会に出るまで、
わたしは世の中にあるたくさんの仕事(学校の先生、お豆腐をつくる人、野菜を育てる人、パン工場の人、服を作っている人、本を書く人・・・などなどなどなど)に支えられて、これまで生きてきたわけですが
仕事って「営業」とか「事務」とか「販売員」「作家」「先生」「医者」っていう言葉で認識していたので、
実はあんまり「ありがたなぁ」なんて感じたことはなくって
「誰かが何かの仕事をしていてあたりまえじゃん」くらいに思っていました。
それで、社会に出て、たまたま求人広告をつくるという仕事について、びっくりしたのです。
毎日、取材にいって、いろんな仕事の人と会いました。
まず最初に名刺交換をしますので、そこでいただいた名刺を見ると
「○○株式会社 姫路営業所 営業所長」
なんて、やっぱり書いてあるわけですが
その営業に同行させていただくと、「姫路営業所 営業所長」なんて仕事じゃないんです。
例えば、その営業所長Aさんは、車を走らせてある田舎のおばあちゃんのところを訪ねていきました。
おばあちゃんは一人暮らしで、そのAさんの車が家の前に止まったのを見つけると、
子犬みたいに、すぐに玄関から出てきて、満面の笑みで「よーきたね。ありがとね」といって
家へあがらせてくれました(わたしもいっしょにお邪魔しました)。
それからAさんは、1ヶ月ぶりに会ったおばーちゃんの近況を聞いて、体の具合を聞いて、1時間くらいお茶を飲んでお話をして、薬箱の薬を補充して、車をまた走らせて次の家へ向かいました。
このAさん、置き薬の営業マンなのですが、その仕事は「営業」ではなくって、明らかにおばーちゃんたちの大切なお話し相手なのです。Aさんは生まれた街でこの仕事に就いて、もう20数年間もずっと同じお客様を担当していて、毎日10件ずつ家庭を訪問しています。
「Aさんとはもう20年のつきあいですから、わたしの息子みたいなもんですなぁ」「次はいつ来てくれるのかな?って楽しみにしてるんです」と、おばーちゃんは言っていました。
すごい、世の中とのつながりかただなぁ・・・って思いました。
Aさんの仕事はなくてはならないものなんです。
目に見えるものでこの仕事を表現すると、「歩合給制。地域密着型。置き薬の販売」みたいになるんでしょうけれど、Aさんの仕事は「自分の好きな街でたくさんの家族をつくる仕事」なんです。そんな風にAさんの仕事を名付けたら、Aさんはすごくうれしそうにしてくれました。
・・・そういったひとりひとりの仕事を、どんなふうに世の中とつながっているのか?っていう視点でじっくりと見て、ひとつひとつの仕事の名づけ親となること、それがわたしの「しごと」のスタートでした。
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