四発目「檻」
人口が十数万の中途半端な田舎に生まれ育った。
大自然もなければ大都会でもない。
当時の日本ならどこにでも転がってる
端境のような街だった。
誰に言っても信じてくれないけれど
10才くらいまで、かなり病弱だった。
小児喘息という宿痾。
口にくわえてシュッとエアゾルを
吸引する気管拡張剤がいつもランドセルに
忍ばせてある。そんな子供だった。
体育の授業はたいがい見学。
マラソン大会やら運動会の当日は、
決まってマジに腹が痛くなって
にわか登校拒否児童となった。
当然の成り行きで、あの頃は、強いモノに憧れた。
同時に素晴らしい自然という
ビューティフルな方面ではなく
野生という残酷なリアルに興味を持つようになった。
辛気くさいガキだった。
強いものが弱いものを屠る。
TV番組の動物ドキュメンタリーにハマった。
キレイごと一切なしの動物記も
外であまり遊べなかった分、読み漁った。
遙か昔なのではっきりしないけれど
父の書架の片隅で埃を被っていた黴臭いシートンか何か。
もの心ついた三つか四つの頃から10才あたりまで。
ほんの数年の短い時間だったけれど、
永遠に出られない檻の中にいるようで暗澹たる気分だった。
そんなツラくて苦しくてイジケてばかりの
ちっとも楽しい思い出なんてない時間だったのに、
なんだか今は、とてもかけがえのない時間だったと
感じるのは、どうしてだろう。
その後の自分の、180度の変わりようというか
道の踏み外し方を考えると、
なんだか少しだけ頷けたりもするのだけれど。
「まさかその後、ホンモノの檻に拘留されるなんてねぇ」
あーあ、この下げを書こうか、随分、迷ったけど書いちゃった。
まあ、それはそれ。