舵
お酒を飲むとその日の体調が分かりますが、
心の調子は本屋に行くと分かります。
蔵書が多くて、広い、静かな本屋。
どんなに体調がよくても、心が健やかでないときは、
長く滞在していられません。
逆にたとえ少しくらい体がだるくても、心に張りがあれば、
何時間でも飽きずに過ごせます。
私にとって情報は、
ないと不安になるけれど、
ありすぎると混乱する、諸刃の剣。
嘘や中傷や偏ったものが多すぎるから、
整理しないと安心できません。
精神的に元気なときは、簡単に自分で整理できるし、
ほしいものを選ぶことができますが、
弱っていると、それが難しくなります。
以前、私は情報の整理を母に任せていました。
母は活字中毒で、毎晩コーヒーと本で夜を明かします。
真夜中の食卓で黙々と「読む」母の姿は頼もしく、
この人なら、正しいことを知っているに違いないと、
信じさせるオーラがあるのです。
言葉で世界が作れることを教えてくれたのも、母です。
私の書く文章を読んで、
「いいんじゃない?」「あなたらしい」「無理がある」「私は好きよ」
と、いつも簡単な言葉しか言ってくれませんでしたが、
それは私が最も信頼できる一言でした。
今も、弱ってくると母の力を借りたくなって、電話をしたりします。
「いいんじゃない?」と言ってもらうために。