リレーコラムについて

広告以外の世界で、コピーやプランニングで人に喜ばれる話(その4)

武田斉紀

みなさん、こんにちは。

 引き続き、「広告以外でもコピーやプランニングの力で喜ばれる世界があるんです」というお話の第4弾です。そして明日は最終日として、「どうやれば広告以外の世界で、コピーやプランニングの力で喜ばれるのか」についてお話しようと思います。

 飲んだくれてて今日も夜半になってしまいました。すみません。(I君、家に着きましたか?)

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●私が、「コミュニケーションプランナー」を自称するようになったのは、ネットを通したコミュニケーションを形にした新規事業の責任者をしたことがきっかけでした。

●電博でネットに関する仕事をしている方はご存知かもしれません(実際、同じオリエンの席でお会いしたりしました)。リクルートとして起こした新規事業は、リードゲット・プログラム(LGP)といって、例えば自動車の新車発売時にプレゼントキャンペーンをやって、集まった「プレゼントに当たりたいがための方」のリストに対して、新車のプロモーションを行い、最終的には自らの意思で手を挙げてもらって販売店に紹介するという仕組みでした。

●「おいおい、そんな都合のいい仕組みがあったら苦労しないよ」というのは、事業を立ち上げる時の私たちの不安そのものでもありました。もう5年くらい前です。メールマガジンが、パーミッションを取らずに送るとやがて怒られるようになってきたくらいの過渡期でした。

●リクルートがLGPを立ち上げたきっかけは、ネットの技術者はいるけど技術者だけでは付加価値が十一旦構築すれば毎日何もしなくてもチャリンチャリンとお金が入ってきて美味しいんだけど、競合が追いつくたびに価格競争になる。これではつらい・・・ということで「技術+コンテンツ+マーケティングで何かできないか」という話に。広告ディレクターをやりながら「なんか他に面白い仕事ないっすか?」と自己申告を出していた私が呼ばれました。

●最初は職場の雰囲気にかなり違和感がありました。何しろ技術者だけの集団です。クリエイティブや広告の世界にいた人間としては、「○人月」とか「工数」「人工」(にんくと読みます)という言葉がわからない。キャンペーンで応募した、ほぼ意向度ゼロの見込み客に対して、コミュニケーションでその気にさせて行きたいという話し。「あとはコンテンツでよろしく」といわれても。人はネットだけで簡単に心を開いたりしないよと思っていました。

●そんな折、マーケティングの大御所みたいな後輩がチームにいて私に言いました。「アマゾンのレコメンド(推奨)機能ははずれることがあるけど、われわれが志向しているのは“聞くマーケティング”なんです。本人の反応を得るまで奉仕し続けて、ワン・トゥ・ワンのコミュニケーションを実現する。それが目標なんです」と。

●ワン・トゥ・ワンって言われてもなあ。ミニバンの新車が発売されたとして、ふだんの利用シーンで5パターン、家族構成で4パターン、購入時の制約条件(お金がないなどのマイナス要因)で4パターンとすると、掛け算するとすでに80パターン。実際は何万通りというのを想定して、「1週間に一度のメール+WEBページ」の配信にアンケートをつけて答えてもらい、5週間続ける間に「その気」になってもらい、ご本人の意思で販売店を選び、エントリーしてもらうというプログラムに仕上げていきました。

●コミュニケーションプランニングの責任者として一番気をつけたのは、「アンケートに答えてくれない人でもできるだけ状況を慮って答えようとする姿勢」と、「答えてくれた人には、期待以上の情報提供を実現する姿勢」でした。

●LGPはすぐに成果が見えないといわれながらも、自動車メーカーや都銀、証券会社、住宅メーカーなどを中心に売れ始めました。私は一時期、自動車メーカーを専任し、日本を代表する上位数社に対して同時にサービスを開始。東京のいくつか、名古屋、中国地方を毎週のように行き来していました(どこかバレバレですね)。

●中でも一番印象に残っているのは、後にも先にもあれほど複雑なワン・トゥ・ワンのシステムを作ったのはないだろうと自負する、「○○は死んだ」といわれた某社の仕事でした。ワン・トゥ・ワンの組み合わせでいれば、何百万通りまで作りこみ、毎週のコミュニケーションの最終回では、「あなたがこれまで答えてくださった情報によって、一番ぴったりのバージョンを新車開発者自らレコメンド(推薦)します」としました。

●面白いもので、レコメンド機能に対する読者からの反応は、自分の志向に「当たってた」「はずれてた」の真っ二つに分かれました。では「はずれてた」と言う人はがっかりしたかというと・・・。「はずれてましたけど、一生懸命私の答えたことに対して情報提供をしようとしてくれた姿勢に感動した」とか、「ネットでこんなサービスができるんですね、さすが技術の○○ですね、今は大変ですけどがんばってください応援してます」というコメントが続出。一時は会社が危ないとまで言われていた○○社の現場担当者は、コメントを読みながらウルウルきていました。

●私自身も、ネットによる仕組みとはいえ、相手をイメージして一生懸命コミュニケーションいけば、ちゃんと伝わるんだ、半端なリアルのコミュニケーションを超えられるんだとわかった、よい経験でした。

●世の中の顧客に対するビジネスにおいては、製品やソフトそのものの力も大切であるものの、それを個々のニーズを持った顧客に対してどうコミュニケーションして提供していくかが、これからの課題、差別化のポイントといえるでしょう。

●数万人のリストの中から、われわれの提供したLGPによってその新車を買ってくれた人が数百人いることがわかりました。それはそれで嬉しいことでしたが、一番の成果は、アンケートで「○○社がんばれ!」とメッセージを返してくれるファンを新たに増やしたことではないかと思っています。

※その後LGPの事業は今年他社に売却されました。R社として期待した利益率(それは化け物みたいに大きい)まではいかなかったのが理由のようです。残念でなりません。

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(今日は高輪プリンスホテルで行われた日経ビジネス主催の『日本イノベーター大賞』レセプションに行ってきました。楽天の三木谷さん、SMAPの草なぎ剛さんらをナマで見られてよかったです。三木谷さんて、意外と大きいんですね。ではまた明日。明日は最終回です。)

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