こんなコピーライター、ちょっといない。その1
都築徹
空が低い。それが、あの国の第一印象だった。
雲が、いつもよりわたしに近いところを流れていく。
ケニア。
わたしの、はじめての海外旅行は、アフリカ大陸だった。
相棒は、キャンピング仕様、12段変速、26インチの自転車。
タンザニアとの国境にあるキリマンジャロを目指し、赤道に向かってひたすら南へ。
サバンナから立ち上る陽炎の海の向こうに、遠くの山が島のように浮かんで見える。
自分と並んで、尾をアンテナのように立てたイボイノシシの親子が走っている。
だが、粗いアスファルトの路肩は砕けて、赤い土と岩がむき出しに。
トゲのある植物がタイヤにからみついて、1日に何度もパンクを繰り返す。
もう、だめだ。
自転車を乱暴に押し倒し、溶けそうなアスファルトの上で大の字になった。
車は、一台も来ない。熱くて静かな時間が過ぎた。
乾いた足音がする。古タイヤを切ってつくったサンダルを履いた、現地の男だろう。
足音が止まった。褐色の足が4本。
寝ころんだままのわたしの目が、男たちの目と合った。
彼らの耳に刺さった赤と青のプラスチックのピアスの向こうに、青い空が見えた。
手には長い槍。若いマサイの戦士だった。
自転車のサイドバッグに差したペットボトルに、戦士の長い手が伸びた。
「止めろ。水だけは、止めてくれ」
思わず日本語で叫んでいた。
槍と刀。たぶん、わたしより速い足。でも、怖くなかった。
突然、彼らの厚い唇から、言葉がもれた。
「エロ!」「エロ!」
命がけでやってきた日本男児に向かって、なんてことを。
木陰で微妙な距離をおいて立つ、
赤い布に身を包んだ褐色の戦士と、自転車に乗った上腕が生白い日本人。
わたしのニコンは、おとぎ話のような風景を、フィルムに焼き付けた。
サバンナに住む戦士から、「エロ」と呼ばれた男。
こんなコピーライター、ちょっといない。
エロとは、若いヤツという意味があると、あとで知った。
コピーライターズクラブ名古屋(CCN)の運営委員長をしています。
小さいけれど、透明な審査が取り柄の広告賞(CCN賞)を、
元気な仲間たちと一緒に育ててきました。
リレーコラムのバトンを渡してくれた板東さんとも、この賞で知り合いに。
全国のエロのみなさんの参加を、お待ちしています。
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