ボツコピーライターのプロジェクトX vol.5
その人の名はH君(本名)。
会社の後輩コピーライター。
H君は、数年前に営業局から
クリエイティブに転局してきたそうだ。
男がH君を初めて知ったのは、
彼のボツコピー。
それはある深夜残業中のことだった。
企画につまると、まわりのみんなは
どんな面白いことを考えているのだろう、
とつい、気になってしまうものだ。
そしてつい、机の上に無造作に置かれている
コピーを覗き見してしまう。
そして、妙に感心したり、安心したりする。
コピーライターとはそういうものだ、
と確かTCCの会員規定にもある。
コピーライターにとって他人のよいコピーを
見分ける方法は簡単だ。
ジェラシーを感じるか、感じないか。
その夜、たまたま遭遇したH君のボツコピーに、
男はうっかりジェラシーを感じてしまった。
「おいしい生活、大好き。」(嘘)
その輝きに目めまいがした男は、
後のことをよく覚えていない。
はっと正気を取り戻したとき、
男は場末のバーでH君とお酒を呑んでいた。
優れたライバルとは酒を酌み交わすか、決別するかしかない。
それもTCCの会員規定にあったと思う。
「僕なんてダメダメですよ。才能ないし、
TCCなんて縁ないし、ったくどうしたらいいんすか?」
H君はどうやら、自分がボツコピーライターである悩みを
本気で男に相談しているようだ。
男はどんな答えを返したか記憶にない。
(その答えは、男の方こそ知りたいのに)
ふと我にかえると、シーンはそれからわずか半年あまり。
再び場末のバー。「おめでとう!」
H君とTCC新人賞入賞の祝杯をあげていた。
よいボツコピーを書くコピーライターの未来は明るい。
が、男にはその後の記憶がない。
なので、続きはH君ご本人に語ってもらおうと思う。
ここで、リレーコラムのバトンをH君に渡します。
よいコピーが生まれなくなった。という人がいる。
だけどそのかわり、よいボツコピーが
たくさん生まれているのだと思いたい。
コピーライターは、よいボツコピーライターであることを
もっと楽しんでいい、と男は思った。
ねぇ、H君はどう思う?
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