思い込み その2
私は、かなり大きくなるまで「三河屋」を一般名詞だと思っていた。
間違いなくサザエさんのせいで、
「こんにちは〜三河屋です。」と言って、
勢いよく入って来ていた酒屋の配達員の刷り込みである。
私の生まれた家の近所に、
森田屋酒店と市川酒店という二つの酒屋があったが、
ふたつとも、蕎麦屋や床屋と同じように、
三河屋という業種なのだと信じていた。
高校のころ、母親から買物を頼まれたときに、
「それ、どっちの三河屋さんにあるの?」と私が尋ねると、
「どっちも三河屋さんじゃないわよ。」と言われた。
おかしなことを言う母親に対して無性に腹が立ち、悪態をついた記憶がある。
その後も、すべての酒屋を三河屋と呼び続け、
気が付いた頃には、成人していたはずである。
思い込みの激しい血筋なのだろうか、
いとこのユウスケは小学校のころ、名札の血液型の欄に、
「大型」と書いていた。
下手ながら大らかな字だった。
今頃、無事にやっているのだろうかと心配になる。
ところで、カンガルーという言葉は、
思い込みから生まれているらしい。
オーストラリアに入植したばかりの探検隊が、
草むらで飛びはねる巨大な物体を発見した際、
「あれは何だ?!」
と原住民に向かって尋ねた。
そのとき、男が答えた言葉が「カンガルー」
「なに言ってるのか分からん」という意味である。
往々にして笑い話で済むが、
時に、争いの種にもなるのが思い込みである。
油断は禁物である。