リレーコラムについて

人間狩り

安藤宏治

“元漫画家”の杉作J太郎氏。タモリ倶楽部などの深夜番組にたびたび出演しているので、ご存知の方も多いだろう。“元”と書いたのは、漫画家を一旦廃業し、念願の映画監督になったから。監督・脚本・撮影・出演と一人四役をこなし、ジャッキー・チェンばりの活躍をしている…と書けば格好はいいが、実際のところ、私財を投げ打ち、四苦八苦・疲労困憊の末撮り上げた、完全自主制作低予算映画だ。下北沢で公開された彼の映画は、デビュー作でありながら、なぜか二本立て。
『任侠秘録/人間狩り』と『怪奇!幽霊スナック殴り込み!』である。

『任侠秘録/人間狩り』
若い女を拉致し、男に斡旋する犯罪組織。買った男がヤリまくって、モノにできれば後は自由。そこへ一人の謎の男・飯島が客として現れる。彼の正体はヤクザか、はたまた警察か? いやこの男こそ、実は男の中の男だった!

『怪奇!幽霊スナック殴り込み!』
暴力団幹部を殺傷し服役中の夫を持つ、スナックのママ・ユキ。彼女の裏の仕事は、司法当局から依頼される暴力団の密偵だ。女の体も使わざるをえない。すべては夫の命を守るため。しかしある日密偵がばれ、ユキは命の危険に曝される。そんな時彼女を救ったのは、スナックに行きつけの幽霊たちだった。

感動した。
この二本の映画には、映像美はない。アクションシーンが見事な立ち回りという訳でもない。役者たちのセリフも、正直うまいとは言い難い。だからこそ、この映画からは作っている者の強いメッセージと、作っている過程の楽しさが、剥き出しビンビンに伝わってくる。レンズやフィルムというフィルターの存在を感じさせず、あるいは手慣れた芝居というフィルターを感じさせず。ただダイレクトに生身の人間たちが、男気とか女気といったオーラを放ちながら存在し、イキイキと楽しみながら映画づくりという作業を行っていた。

どっかの国のどっかの映画監督が「映像美は、ときにメッセージ伝達の邪魔になる」なんて言っていた事を思い出す。表面的な素敵さを否定するコトバとして、大いに納得した。あくまで個人的な意見だが、広告においても、オシャレさやカッコよさを気取っただけのものには、あまり関心が持てない。作り手としても、見る側としても。できることなら、カッコ悪い広告を作らせたら一番! そんなクリエイターになりたいとさえ思う。

映像作家として尊敬せざるを得ない、杉作J太郎氏の初監督作。もうすぐDVD化されるようなので、興味のある人は是非ご覧になってください。製作は『男の墓場プロダクション』!!

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