さらば東京
なまじ一発目の転局試験で合格したばっかりに、僕は少し有頂天になっていたのだと思う。「消費者に責任を持つ=自分が面白いと思う広告をつくる」というものすごいエゴイスティックな考えを持っていた。天才だったらそれでも道が開けたのかもしれない。だけど僕のような凡人にそのような入り方は致命的だった。クリエーターって発想が斬新だったりコピーの技術があったりすればそれでよいわけじゃない。自分の考えたものをクライアントに買ってもらわなければいけない。プロと素人の違いはそこだと思う。そういう意味では、クリエーターは営業マンでもある。だけど当時の僕はそういう考え方には至っていなかった。営業的なスキルは後回しにして、自分が面白いと思うものだけを徹底的に追求していた。そういう面で闘っている先輩をものすごく尊敬したし、親しくもさせてもらった。局に数人しかいなかったけど。だから多くの上司や先輩から見たら、僕はかなり可愛げがなかったと思う(笑)。
やがて、僕は局で浮いた存在になっていった。そりゃそうだ。尊敬する先輩には尊敬に値する作品があったけど、僕には意思だけで作品と呼べるものは何もなかったのだから。転局して4年。僕は焦っていた。何とかしなければ、と。だけど、どうにもできない状況がそこにはあった。そんなときだ。営業への異動を言い渡されたのは。期限付きとかそういう愛のあるものじゃない。完全なる片道切符。僕の頭は一瞬真っ白になった。当然といえば当然の結果なんだけど、完全燃焼した気が全くしない。そして営業なんて全くイメージもできなかった。すぐには受け止められなかった。けれど冷静になって考えてみた。1回リセットするにはいい機会かも。足りないものがあるからこうなったに違いない、だからそれを身に付けてもう一度クリエーティブで勝負してやろう、と。転局して営業に出されて、また戻ってきたクリエーターはおそらくいない。回り道したぶん脚力がついて稀有なクリエーターになれるかもしれない。そう考えると少し気が楽になった。そしてやってきた。例のワクワクが。
僕は営業を全力で取り組む覚悟をした。そうでなければ行く意味がないし、何も学べないと思ったから。唯一の希望は関西に戻してもらうことだった。定時出社で田園都市線に乗るのは無理だろうと思ったし、嫁さんの「大阪に戻りたい」という希望を叶えてあげたかったから。そして、前の局から少しでも離れたかったから。誤解しないでほしいが僕は前局には感謝をしている。素敵な先輩やCDにも出会えたし、それは今でも僕の宝だ。去り際、何人かの先輩が「絶対に戻って来いよ」と言ってくれた。僕はその人たちのことを忘れることはないだろう。
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