初夏の触感
阿部晶人
目黒川沿いの桜もだいぶ散りましたね。
桜が散ると春が終わったような気分になって
春が終わった気分になると初夏の思い出が甦ります。
私の両親は旅行好きで、幼い頃は夏になると決まって
全国各地の国民宿舎に家族で宿泊するのがならわしになっていました。
その夏の夜、阿部家は滞在先の国民宿舎周辺で夕食後の散歩をしておりました。
ふと道路脇の草原を見ると、小さな青白い光がちろりちろりしているではありませんか!
(ホタル!)
大阪の真ん中で育った少年にとってホタルは
「ほー、ほー」の歌で聞いたことはあっても、ほぼ伝説上の昆虫。
持ち帰ってクラスの仲間に見せればヒーローになれること間違いなし。
リアルホタルを目前にして、妄想に最大限に膨らませた晶人少年は
闇の中の青白い光だけを手がかりにしてどんどん虫かごに入れていきました。
それを見た父、母、姉、妹も少年の思いを汲み取って捕獲に協力してくれたのでした。
ありがとう!俺の家族!
意気揚揚と部屋に戻ってみたら、虫かごには一匹のホタルもおりません。
そのかわりに入っていたのはおびただしい数のイモムシでした。
あの光るイモムシは一体何だったのか。
知りたいような知りたくないような。
この季節になるとモゾモゾしたあの感覚が両手に甦ります。
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