好き、嫌い
皇甫相太
「違うか」が、嫌いだ。
たとえば、こんな会話があったとする。
「では、私は作業が残ってますので、ここらで失礼します。」
「そんなこと言っちゃって、ホントは、誰か女性を待たせてたりして。違うか。」
この、つまらない冗談のあとに付け足される、「違うか」が、嫌いなのだ。
冗談自体がつまらないことを、自分でも分かっていて、その上で、それを帳消しにするかのような、この自己否定の一言。
この「違うか」が、何とも許せないのだ。
つまらないことが分かっているのなら、そんな冗談、はじめから言わなければいい。
何だ?プラマイゼロなつもりなのか?
「ご陽気なオレ」でも、演出してみせてる気か?
「違うか」!?違う!断じて、違う!のである。
だから、もういい。何も言うんじゃない。
ご陽気ぶる必要はないから、黙っててくれれば、それでいい。
母の「玄人好み」が、嫌いだ。
高校の時だったと思う。
母親が、ボクの出ているラグビーの試合を見に来た日。
家に帰ると、母親が、試合に関する評論をはじめた。
あのプレーが良かった。あの判断が良くなかった。などなど。
それはそれで、まあ、いいのだが。ボクが引っかかったのは、ある選手について絶賛した母親の一言だった。
「あの子は、ええわ。ホンマに、ええ選手やわ。
プレーが、玄人好みやねん。」
いやいや、間違ってはいけない。
母さん、あなたは、素人だ。だって、ラグビー、やってなかったじゃん。
あなたが絶賛してるということは、つまり、素人が絶賛してるということだ。
従って、彼のプレーは、玄人好みなのではく、素人好みだという結論になる。
母さん。随分、時間は経ってしまったが、今すぐ、訂正してほしい。
浜田省吾が、好きだ。
彼の書く、少し痒くなるくらい、ロマンチックでナルシストな詞が、好きだ。
少し、ハスキーでセクシーな声も、心地いい。
デビュー当時から変わらない、レイバンのサングラスやバンダナ、袖をちょん切ったジージャンなんかが、今の時代に合っているかどうかなんてことは、この際、どうでもいい。
どうしても気になるんだったら、お気に入りのアイドルのブロマイドでも見ながら、その人の歌だと仮定して、騙し騙し、聴けばいい。
とにかく、ハマショーはサイコー!なのである。
アホな後輩が、好きだ。
そいつに初めて会ったのは、まだ、東京に駐在していた頃である。
細身でスラリと背の高い、今どきのスタイルとは、うって変わって、その声、その口調は、どこかトンマでマヌケだった。
直感した。
「こいつ、絶対、アホや・・・」
間違いなかった。ホントにアホな後輩だった。
髪は、まだフサフサなのに、某カツラメーカーの育毛コースに通っていて、その度、女性スタッフに勧められるがまま、新商品を買わされて帰ってきたり。
好んで選ぶ、穴だらけのTシャツは、その大半が、当時の彼の月給の半分くらいする代物だったりして。
男のくせに、なぜだか、美顔器なるものも購入していて、一日一度、顔に電流を流し続けている。
挙句、
「何でか、分からないんですけど、お金がないんですよねー。」
と、のたまう始末。
アホ満開である。
しかし、この男、ただのアホではなかったのだ。
去年、TCC新人賞を獲ったかと思うと、今年は、もう、部門賞を獲ってしまった。
優秀なアホだったのである。
その男の名は、西島知宏。
ボクの好きな、アホな後輩の一人であり、また、来週一週間、このコラムを引き継いでくれる男でもある。
優秀でアホな、西島くん。あと、よろしくね。
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