滝に打たれるかわりに
滝に打たれたいと
思ったことはないですか?
ないでしょうね。
普通ないです。
大学卒業直後に、
ずっとやっていた演劇をやめて
就職活動にもまったく打ち込めずに
途方に暮れていたとき
あー滝に打たれてぇ!
と思いました。
都内には手ごろな滝がないので
(高尾山まで行けばありますが)
滝に打たれるかわりに
誰もが嫌がるような仕事を
自分に課してみようと思ったのです。
それはフロムAで見つけた
大病院の清掃係でした。
メチャクチャ朝早く家を出るという条件も
当時の僕には魅力的でした。
滝に打たれるなら、やっぱり早朝ですから。
初めて行った日に最初にやったのは
手術室に飛び散った血を拭く作業
というものです。
その病院には手術室がたくさんあるので
午前も午後もずっとその仕事で終わりました。
手術室にもいろいろあって
ほとんど汚れていない部屋もあれば
スプラッター映画のように
天井にまで血しぶきが飛んでいる部屋もあって、
病気の人の血なわけだから
感染症の危険も当然あるわけで、
樹脂の手袋をはめて使い捨ての雑巾で
無言で血を拭き続けます。
大江健三郎的な、すごくシュールな作業でした。
次の日の朝は6人部屋の病棟の清掃です。
床にたっぷり落ちている患者さんの髪の毛を
使い捨ての紙ワイパーで拭き取ったり
昨日まで誰かが寝ていたベッドを
新しいシーツでメイクしたり。
午後はVIPルーム(個室)です。
どう見ても健康な政治家や会社の重役の方が
テレビを見たり冷蔵庫から好きな食べ物を出して
食べたりしている広々とした部屋に
気配を消して入って
あらゆるところを掃除します。
最後にお見舞いの人も使う
フロアの共用トイレを掃除して終了です。
ある日は無菌室の清掃でした。
白血病の方が入院する病棟ですので
厚いビニールのカーテンがかかっていて
中に入るには毎回洗い立ての白衣を着て
たっぷりの消毒液で身を清めてから
入らなければなりません。
でもそれだけ面倒な儀式をして
中に入る価値はありました。
新人の僕に無菌室の患者さんたちは
本当にあったかい笑顔と挨拶をくれるのです。
無菌室担当になると、その日は
ちょっとうれしかった。
くわしいことはわかりませんが
滝に打たれる人たちは
ぶつぶつお経のようなものを
唱えますよね。
僕もあれ、やってました。
僕がぶつぶつ唱えていたのは
お経じゃなくコピーでした。
当時病院のバイト代をつぎ込み
青山のコピーライター養成講座に
通っていて毎週課題が出ていたので
それを考えながら
ときどき口に出しながら
病院をキレイにしていたのです。
HMV(レコードショップですね)
のコピーを考えるというお題を
HIV(エイズですね)
と聞き間違えて、病院で働いてんだから
一等賞とらなくちゃと
僕だけみんなと違うコピーを
頑張って書いて笑われた。
今となってはいいネタです。
いい思い出も嫌な思い出も
たくさんあるその病院で
結局週5日ほぼ半年間働き続けました。
コピー講座の求人を頼って
映画会社のコピーライターに
なることができてやめたのです。
その病院で身につけたモノの見方は
今も自分の中にあると思います。
滝に打たれるかわりに
人が嫌がる仕事をやりたくなることが
少なからず人には時々あるんです。
あのタモリさんもつい最近、
知らない人も使う共用トイレを
自分で掃除し続けて、いろいろ考えてみたと
某コラムに書いていました。
タモリさんほどの人でも
滝に打たれたくなることがあるんですね。
ちょっと元気になれるコラムですので
時間があったら読んでみてください。
↓
http://toyota.jp/harmony/?bid=5&pid=4