リレーコラムについて

最後のジェダイ〜澤本さん〜

東畑幸多

リレーコラム遅れていてすみません。もう言い訳してもしょうがないので、シレっと
はじめさせていただきます。

私は電通という巨大代理店に勤めていて、そのスケールメリットってもちろん色々とあるのですが、
一番のメリットは、いろんな人と実際に仕事をして、その人たちの仕事のやり方を垣間見ることが
できる。ことだと思っています。

作られた広告なり表現なりをみることで、勉強することも出来ると思うのですが、
よく、世界チャンピオンとスパーリングしたとか、国際試合を経験したとか、
そういったことがものすごい選手を成長させるのと似ているというか近い感覚で、
一緒の仕事をすることで得られる情報量って、また全然違うものがある気がします。

で、自分が、そういったすごい人たちとの仕事をしていく中で勉強になったこと、
感じたことを紹介していこうと思います。(ただし、ご本人たちからしたら、ええ?全然ちがう!
みたいなことは、あると思いますが、、、まぁ、私のフィルターを通しての話です)

第一回は、“澤本さん”です。

私が、電通に入った年とは、ちょうどタグボートが出来た年であり、会社に入った途端に、
あの方たちはいなくなり、その後も、シンガタはじめどんどんクリエーティブブティックがつくられ、
電通から(こんなこと書いていいのかな?)優秀な人が流出していった時代に、広告を勉強していた
という印象があります。

そんな中で、澤本さんは、なんとなく私にとっては、最後のジェダイ。
ジェダイの末裔。電通に残った「フォースがつかえる最後の人。」というイメージがあったんです。
とはいえ、所属する局も違いますし、ほとんど写真でしか見たことがない、動いている
澤本さんはあんまり想像がつかない、みたいな距離感ではありました。

が、ひょんなことから、会社に入って8年目になった頃に、たまたま仕事をご一緒する機会を
いただきまして。まぁ、そのときは、本当に緊張しました。正直、クライアントと話をするほうが、
全然リラックスできる、そんぐらい緊張していました。

その後も、一度、別の仕事をご一緒させていただき、今まで2回、澤本さんの仕事を横で
見たことがあるのですが(2回だけかよ!といわないでください。)、
その両方で共通して感じたことがあります。それは、

プレゼンから制作、そして納品までが、異常にスムーズだったことです。
(今まで、経験したことがないくらい)

もちろん、澤本さんという実績とネームバリューによる、クライアントへの信頼感というのは
あると思います。ただ、本当にだいじなことはそれだけじゃない。
提案が相手にこびているか?といえば、全然そんなこともなく、むしろチャレンジの多い企画
ばかりだったと思います。

いつもプレゼンが終わるたびに、なんとなく感じたのは、「ああ、この人、こんな感じだから、
面白いものを量産できるんだな。」という感覚がいつも体に残りました。

その一番の秘密は、「正確で、強固な、ジャンプ台」をつくる。ということにあるような気がしました。

ジャンプ台とは、表現やコミュニケーション(売り方・見せ方)の核になる部分のことです。
何か迷ったり・判断をしたり・アイデアを考えるときに、立ち戻るべき、みんなのものさしになる
考え方。いわいるコンセプトと呼ばれているものに近いものかもしれません。

このジャンプ台の角度が低すぎても・高すぎても、クリエーティブの飛距離はでなかったり、
方向がちょっとでもズレていれば、大ジャンプすればするほど、あさっての方向というか、
(あさっての方向って、すごい言葉ですね。それ、どこなんだ?というかんじですが)
クライアントが望んでいない方向へといってしまう。

このすべての根幹に関わるジャンプ台の
「正確さ・緻密さ」そして一番だいじなのが、「頑丈さ・強固さ」が今まで仕事した人と全然ちがうんだな、
と思いました。

澤本さん自体、もう本当にサラッと「○×△×○的なタグラインで、こんな感じどう?」というのが
かなりのスピード感で最初から出てしまっているので、「は、はい」みたいな感じになってしまって、
まずその部分を考える前に、下についている人は表現に入ってしまうので、気がつかない人も
多いと思うのですが、

あとあと考えてみたり、自分としても、澤本さんが出した以外のベクトルを見つけて、
その表現も考えたいという野心もあったりするので、自分でもそのジャンプ台の部分を考えるのですが、
考えれば考えるほど、それがものすごくよく出来ていることが、いつも後から分かるのです。

正確さはもちろんですが、その角度と、何より「頑丈さ」というのが、ポイントだと思います。
「頑丈」というのは、ややこしいクライアントになればなるほど、重要だと思うのですが、
相手がいろんな角度から弱点をついてきたときの穴がない。ということが、すごく重要で、
このジャンプ台・この考え方にのっかっていいんだ!と思わせる説得力・緻密さというのが、
どんなクライアントがきて、どんな仕事でも、クリエーティブの飛距離を出す鍵になると思うのですが。

その仕事振りを見ていて、「ああ、ガスパッチョ!」とか「発見!角川文庫」とか「牛乳に相談だ!」とか
なんとなく出来た理由が分かった気がしました。

あと、もうひとつ感じたこと。(長すぎですか?すみません)
ジャンプ台を出すスピードのことを書きましたが、たぶん澤本さんは、ものすごい回数、その行為を
繰り返すことで、なんとなく脳みその中の、普通の人がつながっていない、ある回路がつながっている、
そんな感じがしたんです。

どんな職業でも、突出する人というのがいると思うのですが、そこには、高いレベルで、頭を使い
続けることで、その職業ならではの、脳の発達というか、もともとつながっていない回路が、
鍛錬によってつながっていくことがあると思うのですが。

で、最近思うことは、広告に限らずですが、表現をする人にも、2種類の人がいて、
ひらめきや才能でボンッと一時火が天才の人と、繰り返し噴火し続ける巨人みたいな人がいて、

ただ、鍛錬を続けて得たスキルというか進化をした人って、
ひらめきや才能でやる人より、ある部分まで極めてしまうと、変な迫力があるというか。
(かなりの部分まで極めた人だけですよ)

だから、澤本さんは、ものすごく温厚で、優しくて、決して高圧的なところとか、全然ない
親しみやすい人柄ですが、私から見ると、変な迫力がある。

話しそれましたが、いいたいことは、鍛錬をし続けるって、すごくだいじだなということです。
ただ、それが、高いレベルや、次々と、自分が想像もしないゴールや課題を設定されて、
頭を使い続けるという意味での鍛錬ですが、、、

つまり、力のある人と仕事を繰り返すって、ことがすごく大事なんだろうな。と思うんです。
なので、自分と同じような立場の人に向けて書いていますが、とにかくどんな職場にいるであれ、
その中で、自分が「この人がすごそう」と思う人と、ちゃんとつながりをもって仕事するって、
やっぱり大事だと思うんです。恥ずかしがったりしている、時間とかも、やっぱりない気がするので。

第一回から、すごく長くなってしまいました。
明日は、私の実質的な師匠にあたる人たちから、学んだこと、書いてみます。

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