リレーコラムについて

東京と大阪と部屋とYシャツと山崎英生

日下慶太

きょうは、東京のお話。
世界ばかりに目を向けず、そろそろ足元をみつめてみます。

ぼくのコピーの師匠でもあり、心の師匠でもあり、恋愛の師匠でもあり、苦しいときはいつも相談に乗ってくれた、カッコよくて、おもしろくて、優しくて、入社9年目なのに貯金が2865万3251円あって、企画の合間にデイトレードをしてお金をかせぎ、社員食堂のかわいいお姉さんから告白された山崎英生大先輩から、大阪の話をしてみたらというメールがあったので、きょうは大阪と東京の話をしようと思います。ちなみに英生先輩も大の旅好きです。

ぼくは、生まれも育ちも大阪。
そして、6年間電通の関西支社にいました。東京に来てちょうど1年。
最初は東京に住んでいる実感がなかった。大阪から出張でよく来ていたこともある。
新しいチームの佐藤義浩部の人たちは、いつもバカばかり言っていて笑いが絶えない。ぼくの想像の中の、東京お洒落クリエーターなどでは決してなかった。

東京に来たことが実感できないまま、3ヶ月ぐらい経ったある日、近所の公園で巨人帽をかぶった子供と、ヤクルト帽の子供がキャッチボールをしていたのを見たとき、ああ、ここは東京なんだ、じーんときたわけである。
西新宿でヤクルト帽かぶったホームレスのおじさんを見たときも、じーんときた。大阪のホームレスはだいたい阪神帽だ。ハードコアなルンペンは近鉄や南海の帽子をかぶっている。

東京を歩いていると毎日発見がある。

「恵比寿と広尾って隣やったんや!」
「上野から浅草って歩けるやん!」
「渋谷、代官山、中目黒、おしゃれ無限大やなー」
「品川ってこんなに古いところあるんやー」
「神田の蕎麦屋は素敵やなー」
「谷中!なんて素敵なんだ」

東京生活はなかなか楽しいのである。
大阪にいるときは東京が嫌いだった。人は多いし、冷たいし。
けど、それは一面的なモノの見方だったと反省している。
東京が嫌いなまま、人生終わらなくてよかった。

だから、この1年でわかった東京と大阪の違い、
人の違い、町の違い、仕事の違いを10コ今から書いてみる。

1.東京は東京的ではないものを、そのまま受け容れる。
  大阪は大阪的ではないものを、大阪化して受け容れる。

2.東京はよそ者に興味がない。
  大阪はよそ者に興味がある。

東京はいろいろなひとの集まりだから、そのまま受け容れてくれる。でも、よそ者がいることが日常茶飯事なので、よそ者に興味がない。大阪ではよそ者は珍しい。その人にみんなしゃべりかける。そして、大阪化しようとする。そのままでいようとしてもほうっておいてはくれない。その大阪化には2、3年を要する。その間はつらい。うっとうしい。ここで大阪が嫌いになってどこかにいく人もいる。でも、この時期を過ぎるとみんな大阪が好きになる。同期の埼玉人、村山君は大阪にうまく同化されていったタイプである。今は名古屋にいて大阪を恋しがっている。営業にいた同期のKさんは、この環境適応に失敗し、大阪が嫌いなまま結局東京に行ってしまった。

3.東京は、人と人とのキョリが遠い。
  大阪は、人と人とのキョリが近い。

このキョリ感が東京の人を冷たく感じさせている大きな要因。このキョリ感、しばらく掴めなかった。近づけば逃げていく。引いていると、そのまんま。だけど、最近わかってきた。このキョリ感もいい。人から干渉されない、その分、自分でやらなきゃ始まらないというスタンス。大阪のキョリの近さはすばらしい。でも、近すぎるとそれはそれで暑苦しいときもある。義理人情が入りすぎてしまうこともある。義理人情ももちろん大事。だけど、それがおもしろいかどうか、その広告がいいかどうかの判断を曇らせることもある。

4.東京は、自分を高くみせて人に近づいていく。
  大阪は、自分を低くして人に近づいていく。

これは東京人のイヤなとこかも。「おれってスゲえんだ」的アプローチ。東京でよく耳にするのが「わたし、○○さん(有名人)と知り合いで・・・」これ、イヤだな。すごいのはお前じゃなくて、○○さんやろ!と思うのである。一方大阪。「人間は、ダメなところこそ愛おしい」という哲学がある。「この前こんな失敗があってねえ」とダメな自分をみせたり、「自分はつまらないものです」と下にみせて人に近づいていく。でも、本当に大阪人が相手より下と思っているとは限りませんから、東京のみなさん、ご注意を。

5.東京は、新しい人と仕事がしやすい。
  大阪は、新しい人と仕事がしにくい。

東京は「あっ、君おもしろいね。今度仕事する?」と軽いノリで仕事が始まることがある。
大阪は「お前何者やねん?初体験はいつやねん?年収いくらやねん?」とすべてをさらけ出さないことには仕事が始まらない。ぼくは、大阪で6年間ほとんど同じスタッフでやってきたから、その東京の軽いノリでいろいろな人と仕事ができるのが刺激的なのである。もっと人材の流動性があっていいんじゃないかな、大阪。

6 東京は、”あかん人”に厳しい。
  大阪は、”あかん人”を受け入れる。

東京は「あかん人」に厳しい。つまり、ホームレスだったり、ドロップアウトしちゃってたり、ぶっこわれた人たちをみかけない。街自体に自浄の働きがあるのか、公権力が掃除しているのか、落伍者に厳しい街である。一方、大阪はあかん人に優しい。新大阪の駅についたら、あかん人だらけです。落伍者には優しい街。職場もそう。あかん人や、仕事まったくできない人を受け入れてくれる度量がある。

7.東京は、書きことば
  大阪は、話しことば

ここからは、仕事での違い。
東京のCMはセリフが弱い。大阪のCMはセリフが強い。
でも、最後の締めコピーは東京がズドンと決めてきます。
大阪はあれれと終わるものが多いです。
東京のコピーは文字に書くというプロセスを経て、アウトプットされたような感じがある。大阪は誰かとしゃべってて、もしくは、ひとりごとを言っていてアウトプットされたようなところがある。どっちが優れているという話ではなく、そう思う。
だから、セリフがうまい東京のCMプランナーとビシっとコピーが書ける大阪のコピーライターは重宝されるかもしれません。

8.東京は、革新的。
  大阪は、保守的。

すごいこと言っちゃった。でも、そう思うのである。ダウンタウンの松本さんと放送作家の高須さんもラジオでも言っていました。ぼくのことばでは説得力がないので、お二人の会話を抜粋させてもらいます。

松本「大阪の奴は、受け入れるまで時間かかるやろ。何あの保守的なものの考え方」
高須「でも、1回受け入れたら、ものすごく愛してくれるやんか」
松本「そやねん、でもそれ腐ってるでっていうようなもんまでずっと愛しとるやろ。
   あかんわー。」
高須「あかんよなー」

日下「ぼくもそう思います。大阪から、若い監督さんとか出でけえへんし。コピーライターもすんごい若手とかは出で来なくて、ブレイクするのはある程度の年がいった人やしねー」
松本「そやなー」
高須「日下、ええこと言うわ」

(日下の会話より先は、お二人が本当に言っていたことです)

9 . もし、企画が普通の場合、
   東京は丁寧に仕上げてなんとかしようとする。
   大阪は荒っぽく仕上げてなんとかしようとする。

東京は丁寧に丁寧に作ります。だから、企画がまあまあでも、トーン&マナーがいい、音楽がいい、なんだかお洒落という風にして点数を稼ぎます。大阪は丁寧に仕上げられる予算がないことが多い。だから、あえて安っぽく、荒っぽく行く傾向にある。

10.東京は、いい広告をつくろうとする。
    大阪は、いい広告をつくろうとする。

結局どっちも目的は同じ。プロセスが少し違うけど、最終的なところは同じ。東京風とか大阪風とかごちゃごちゃ言う前に、自分がいい企画出さないといかんですね。東京とか、大阪とか、言ってル場合じゃない。世界と戦わなくちゃ。だって、ぼくら日本の制作者がバンコクとチェンマイの広告の違いを気にしているか?さらにお茶の間の人が「あっ、これ東京の人がつくってるな。これは、大阪かな」って思うはずは、ない。

じゃあ、なんでこんなの書いたのか。それは、尊敬する大先輩、山崎英生さんが書いたらと言ったから。英生先輩、いかがでしょうか。そして、大阪の大好きなみんな、ちゃんと読んでくれた? 日下はまだ大阪が大好きですよ、でも、東京も、結構いい。

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