Speaking in tongues
「ラスト・コーション」と「ブラック・ブック」という、
2本の映画があります。
この2作品、
「戦争に翻弄される女スパイの悲恋モノ」という、
わりと似たようなストーリーの映画なんですが、
作品の与える読後感は全く異なったものになっていて、
比べると非常に面白いです。
「ラスト・コーション」は、
アカデミー賞受賞監督のアン・リーが手掛けた映画だけあって、
映像も音楽もオシャレで、スタイリッシュ。
話題になった過激なベッドシーンも、
「これ以上やったら観客がヒく」
という最後の一線を超えないよう、とても注意深く演出されています。
それに対して「ブラック・ブック」は、
ラジー賞受賞監督(笑)のポール・バーホーベンが
手掛けた映画だけあって、ものすごく悪趣味。
「これ以上やったら観客がヒく」
という最後の一線を明らかに意図的に超えていて、
陰毛、ゲロ、ウ○コなど、汚いもののオンパレードです。
ヒロインが所属する反ナチスのレジスタンスも、
この手の映画では正義の味方として描かれるのがお決まりなのに、
裏切りとかばっかりしています。
2作品とも優れた映画であること間違いないのですが、
僕が好きなのは、
バーホーベン監督の「ブラック・ブック」です。
僕は昔からこの監督の
「人間なんて所詮ダメな存在だけど、それでいいじゃない」
というメッセージに、すごく共感しているのです。
広告では、こういう「人間のダメさ」というか、
「本音」みたいなものが削られてしまうことが、たまにあります。
第2回で書いたようなクレーム問題もありますし、
あたりさわりのない表現のほうが、
誰も反対しないので世の中に出やすいという事情もあります。
でも、そうして出来上がった、漂白されたかのような
無味無臭な広告は、結局、あまり機能しないと思います。
ある程度、広告に共感できる要素がないと、
商品を好きになったり、買いたい気持ちにならないですよね。
僕のコピーの師匠である磯島拓矢さんが、ある打ち合わせで、
「“消費者の気持ちがわかる企業です”ということを伝えたいときに、
“消費者の気持ちがわかる企業です”というコピーを使うより、
消費者の気持ちそのものがコピーになっていた方が、絶対効率がいい。」
という意味のことを仰っていました。
今まで書いてきたようなことを、日々、
悶々と考えていた僕は、「なるほどなぁ」とうなってしまいました。
「消費者の気持ち」は、必ずしも耳障りのいいものとは限りません。
でも、それがコピーの本質だったりすると思うので、
(さすがにバーホ監督のような汚物まみれの
コピーを書こうとは思わないけど)
これからもあきらめず、がんばっていきたいと思います。
リレーコラム、5回にわたって長文・駄文にお付き合いいただき、
ありがとうございました。
ご意見・ご感想・クレーム等は、
yukio.hashiguchi@dentsu.co.jp
か、TCC WEBクラブハウスの橋口幸生までお寄せください。
(コピーが必要なのに足りない・・・なんて時も、
お気軽にご連絡いただけると嬉しいです!)
次回は、リクナビの作業で一緒に「学生の気持ち」に
ついて考えまくった、小澤裕介さんです。
小澤さん、よろしくお願いします!
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